第二十二部

906. 4度目の秋

 夏の熱気が収まり、季節は秋へと向かっています。

 ですが、僕の仕事が減る気配はありません。

 最近の錬金術師たちの動向や支部を預けている講師陣のトップ、ウエルナさんからの定期連絡、講習会に関する報告書、英才教育施設からの報告書と目を通さなければならない書類は山とあります。

 かといって、通さなければ書類は増えるばかりなので、地道にやっていくしかないんですが……つらい。


 僕が地道に書類の山を減らしていっていると、ギルドマスタールームの扉がノックされました。

 このパターンはミライさんですかね。


「どうぞ、入りなさい」


「失礼します。……ギルドマスター、大丈夫ですか?」


「まあ、これを一度片付ければ減ると信じてやっています。用件はなんでしょう?」


「ああ、そうでした。医療ギルドマスター、ジェラルドさんと冒険者ギルドマスター、ティショウさんが面会に来ています。通しても構いませんか?」


「ええ、少し散らかっていますが、それでもいいならと」


「わかりました。それでは、またあとで」


 ここであのふたりの訪問ですか、あまりいい予感はしませんね。

 ともかく、のんびり待ちましょう。


 再び扉がノックされ、入室許可を出すと、ミライさんと一緒にジェラルドさんとティショウさんもやってきました。

 用件は……あれですかね?


「ようこそ、錬金術士ギルドへ。立ち話もなんです、おかけになってください」


「うむ」


「ああ」


 ふたりの表情がいまいち硬いということは、やっぱりあれですか。

 ちょっと独断専行しましたからね。


「さて、おふたりの用件ですが……新市街のボスの件ですか?」


「話が早くて助かるな」


「なあ、スヴェイン。お前が個人的とはいえ金を渡すのはどうかと思うぜ?」


 やはりこの話でしたか。

 誰にも話をしていなかったのでミライさんも驚いていますし。

 ギルドのお金ではなく個人のお金を渡したのでなおさらでしょう。


「あれは僕個人としての融資……いえ、投資ですよ。ギルドのお金にも手を付けていません」


「だがよ、ギルド評議会の議員が新市街のボスと手を組むってのはまずくねぇか?」


「そうですか? 彼女の身辺調査はしっかりとやりましたが、主な収入源は娼館の運営から得られる利益と、勢力圏にある店へ用心棒を付ける手間賃くらいです。娼館の利益は正統なものですし、新市街の治安はコンソールの衛兵たちでは手が届いておりません。少々荒くれ者だとしても雇わなければいけない事情があるのでしょう」


 僕は一気に語りましたが、これを聞いてふたりは黙り込んでしまいました。

 娼館運営が違法とは言えませんし、各店に対する用心棒の派遣も治安が悪い新市街のことと考えれば悪いこととは言えません。

 さて、どういった結論を出すでしょう。


「スヴェイン殿の話はわかった。今回の話、ギルド評議会に持ち帰って議題にさせてもらうがよいな?」


「喜んで。そろそろ、ギルド評議会として新市街にも目を向けないといけない時期です」


「そうだな。ティショウ、お前から言いたいことは?」


「スヴェイン、お前、スラムのときの再現を狙ってるのか?」


「いえ、そこまでは。いけば嬉しいとは思っていますが」


「ならいい。無茶はするんじゃねえぞ」


 おふたりはそのあとお茶を飲んで帰られました。

 どうやら僕がやりすぎないように釘を刺しに来たようですね。

 僕だっていい加減、ギルド評議会を差し置いて動きはしませんよ。

 ……コンソールという街に関しては。

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