905. 挿話–62『杖聖』と『大魔術師』の今後
「はぁッ! せいッ!」
「まだまだ甘いですよ! それっ」
俺は足元を蹴り飛ばされ尻餅をついてしまった。
そこに剣を突きつけられて、万事休すだ。
「くっ……参りました」
「いえ、ウィル様も毎日強くなってきていますよ。私たちも本気を出さなければ勝てないくらいですから」
「本当ですか!?」
「もちろん。コンソールに戻れば、杖術教官も本気を出してくれるでしょう。いままでは変な癖や負け癖を付けないために手加減していたでしょうが、これからはどんどん強い相手と戦っていくことになります。そのための準備期間が始まったんですよ」
俺も次のステージに入ってきたんだな!
よし、これなら……。
「キャンキャン!」
「ん……バウワ!」
訓練所の入り口の方から1匹の子犬……に見える聖獣が走ってきた。
こいつはホリーの聖獣でセイントドッグのバウワである。
普段はホリーの傍から離れず、しっかり護衛を務めているのだが、こいつが来たってことは……。
「ウィル様。お疲れ様です」
「ホリーも。魔術師団への指導の帰りか?」
「はい。そうしたら、バウワがこちらに向かって行きたがっていましたので、付いてきたんです」
バウワは俺にも懐いている。
初めて会った時、力試しをしたんだけど、その時に俺が勝ったことですっかり懐かれたんだよな。
俺が親分みたいになっているのかな?
王城内でわりと自由に動き回っているのは、ホリーの傍にもうひとりの聖獣、ドライアドのドリアが付いているおかげだろう。
……そう信じたい。
「ウィル様は今日もシュミットから来た講師の方と訓練ですか?」
「ああ。午前中は俺が騎士団に訓練をつけて、午後はシュミットの剣士に頼んで訓練をつけてもらってるんだ。いままで、シュミットの人たちは俺に変な癖が付かないように手加減してくれていたみたいで、ほとんど勝てなくなったぜ」
「ほとんど? 本気のシュミットの人たちに勝てるのですか?」
「そうだな……10回やれば3回程度は勝てるかな?」
「そうですね。ウィル様はそれくらいの回数は勝てています」
「すごいです、ウィル様!」
「まあ、もっと勝率を上げないといけないんだけどな」
俺がこの先目指すのは一発勝負の世界。
一度でも負けちゃいけないんだ。
試合だから負けることが許されているけど、そんなことに甘えてはいられない。
相手がシュミットの講師だろうとなんだろうと確実に勝てるようにならなくちゃな!
「あの、それでなんですが……このあとお茶はできますでしょうか?」
「いいぜ。部屋で着替えたらいつもの部屋に……」
「いえ、今日は場所を変えて庭園の中でお茶にしませんか?」
「いいけど、いいのか?」
「はい。許可はもらってありますので」
「わかった。それじゃあ、またあとでな」
「はい。またあとで」
俺はホリーと別れたあと、部屋に戻って汗を拭い新しい服に着替えた。
訓練着はすぐに汚れる……というか、汚れる前提だし、女の子と一緒に過ごす時に着る服じゃないって教わったからな。
そして、準備が終わったら部屋の外に出たんだけど、バウワが待っていた。
俺が出てきたのを確認すると歩き出したから道案内をしてくれるらしい。
できればバウワにはホリーの護衛に専念してもらいたいんだけどな……。
バウワに案内された庭園の中の休憩所には、まだホリーは来てなかった。
女の子の支度には時間がかかるし仕方がないよな。
それにしても、この庭園、見事なもんだよなぁ。
手入れも大変そうなのに、これだけの広さを維持するって大変だろうなぁ。
「お待たせいたしました、ウィル様」
庭園を眺めていたらホリーがやってきた。
お茶の準備も整っているようだし、あいさつをして始めよう。
「たいして待ってないよ、ホリー。庭園を眺めていたらすぐだった」
「庭園、きれいですものね。私が国を飛び出したときはここまできれいではありませんでした」
「そうなのか?」
「はい。このようなところも国が変わったと思える点です」
そのあとお茶が提供されたので、お茶を飲みながらの話に切り替わった。
でも、その話の内容は魔術師団や騎士団の訓練についての話がほとんどで、互いの近況報告などはほとんどない。
それくらいもうお互いのことは話し尽くしているし、ホリーが興味のある話題は騎士団の訓練についてだったのだ。
「ところで、ウィル様。ウィル様はどれくらいの間、この国に残るのでしょうか?」
突然、ホリーが俺の滞在期間を聞いてきた。
そうだな、滞在期間か。
「スヴェイン様は1カ月程度でもいいって言ってたけど、爺ちゃんは3カ月はいろって言ってた。だから3カ月間くらいは留まるつもりだ」
「本当ですか?」
「邪魔か?」
「いいえ! 嬉しいくらいです!」
「そっか。それならよかった」
なんだか、素っ気ない態度を取っちまったな。
俺もホリーがこんなに喜んでくれるだなんて想像していなかったんだよ。
「その間、訓練にかかりきりなんでしょうか?」
「たまには息抜きもしてこいって言われてる。俺もスレイプニルがいるから遠乗りみたいなことができるし」
「では、ぜひ私を遠乗りに連れていってもらえませんか?」
「いいぜ。どこに行きたい?」
「そうですね……」
ホリーと遠乗りか、考えたことがなかったけど楽しそうだ。
3カ月なんてあっという間に過ぎちまうかもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます