904. 挿話–61『大魔術師』と『杖聖』の婚約

 無事、婚約準備期間の1週間も過ぎ、私たちは晴れて婚約を結ぶことになりました。

 コンソールからは、ウィル様のお爺さま、アルフレッド様にも来ていただいておりまことに嬉しく思います。

 婚約調印式ですが、国民が見守る中、教会にて行われます。

 ちょっとドキドキいたしますが、これが終われば私は本当にウィル様の婚約者、しっかり勤め上げねば。


「ホリー、緊張しているか?」


「は、はい、お父様」


「そうか。お前もまだ10歳になったばかりだからな。だが、これもまた貴族の宿命。緊張をほぐせとは言わぬが、みっともない真似はするなよ」


「か、かしこまりました」


 今回の婚約ですが、一方がメモリンダム王家ということでお父様というわけにもいかず、両家によしみのあるスヴェイン様が見届け人を担当してくださることとなりました。

 スヴェイン様が今回の婚約についての誓約文を読み上げ、誓約書を互いの家で問題がないか確認し、問題がなければ当事者である私とウィル様がサインを入れる。

 誓約書の中身は昨日までに決められていたらしく、その内容に一字一句間違いがないことを確認したお父様は私にサインを促してきました。

 うう、緊張いたします。


 私のサインが終わると、誓約書はアルフレッド様の元へ。

 アルフレッド様も軽く読んだだけで終わり、ウィル様がサインを終えました。

 これで婚約は成立ですね!


 そう喜んでいたのもつかの間、スヴェイン様の手元に戻ってきた誓約書が輝き始めました。

 一体なにが!?


「なんだ!? 机の上が光り出したぞ!?」


「婚約誓約書が光っている!」


 輝いていた誓約書はスヴェイン様の声に反応すると巨大な体を持つ1匹の蝶となりました。

 私たちの書いた誓約書はその蝶の腹の中で輝いています。


「スヴェイン殿、その者は一体?」


「聖獣エンゲージ、まあ、契約などを司る聖獣だと覚えておいてください。エンゲージ、写しを2枚お願いします」


『はい。……どうぞ』


 どうやら聖獣様だったらしいあの蝶は、腹の中にあった誓約書を3枚に分裂させると、分裂させた2枚を取り出しました。

 あれは、一体……?


「婚約誓約書の原本はこの子が預かります。残りの2枚は写しとして保管しておいてください。聖獣の力で作られた紙なので破くことも書き足すことも燃やすこともできませんよ」


 うそ!?

 私たちの婚約は聖獣様にも認められたのですか!?

 そんなすごいことが……スヴェイン様でしたらできますね。

 さすがはスヴェイン様です。

 婚約の様子を見に来ていた民衆たちも沸き立っております。

 聖獣の元に認められた婚約だなんて本当に前代未聞ですからね。


「あなたたち、もう出てきてもいいですよ」


「あなたたち?」


「やはり付いてきておったか」


 スヴェイン様がぽつりとなにかに対して許可を出すと、至る所に大小様々な獣や虫、なんだかわからないものまでが現れました。

 これって……聖獣様!?


「スヴェイン殿、これは……」


「ホリーとウィルくんの婚約を祝うためにやってきた聖獣たちです。ウィルくんは聖獣にも人気でしたからね。『星霊の儀式』が終わるまでは抜け駆け禁止という謎ルールがあったようですが」


「は、はあ」


「あと、この中にはホリーとの契約を望んでいる聖獣も来ています」


「私ですか!?」


 私が聖獣様と契約!?

 そんなことができるんですか!?


「ほら、いつまでもほかの聖獣たちの間に隠れていないで出てきなさい」


「ガゥ……」


『はい』


「この方たち、ですか?」


「犬の方はセイントドッグ。まあそのままの犬ですね。契約主に従順で、契約主が襲われたときにはものすごい力を発揮します。普段は膝の上に乗るサイズの犬なんですがね」


「まあ。それで、こちらのお花をいろいろなところにあしらった方は?」


「アルラウネです。モンスターのアルラウネが長い時間かけて聖獣化した者ですね。主に危害は加えませんし、色とりどりの植物を咲かせる力があるので普段からそばにいるお供としても最適ですよ。護衛としても役立ちます」


「まあ! あの、お二方は本当にいいの?」


「ガゥ!」


『大丈夫です! 選抜試験をくぐり抜けてきた身ですから!』


「選抜……試験?」


 選抜試験とはなんでしょう?

 スヴェイン様に聞いても「聖獣同士の間で行われるよくわからない力比べ」としか教えてくれませんし。

 でも、この子たちが一緒にいてくれるなら安心できそう。

 これから、よろしくお願いいたします。

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