162.錬金術師『未満』への講習会
今日の来客、つまりシャルの訪問理由を告げるとミライさんも一緒にギルド内を案内してくれることになりました。
これ、僕が余計な事を喋りすぎないようにするためのブレーキ役ですね。
それではギルドマスタールームにいたふたりを連れてまずは元見習い、現精鋭たちのアトリエを訪ねます。
そこでは錬金術師たちが様々な研究をしていましたね。
……多分、今日のうちに支給される薬草は使い切ってしまったのでしょう。
「皆さん、ギルドマスターがお戻りですよ」
ミライさんのその言葉に反応して全員の目がこちらに向けられます。
錬金術師たちの熱量が失われていない様子で大変結構。
「ギルドマスター!? 本当だ! ギルドマスターがお戻りだぞ!」
「お帰りなさいませ、ギルドマスター!」
「あなたのおかげでこの三カ月間とても充実した日々を過ごさせていただきました!」
「いえいえ、皆さんも今日の薬草は使い切っているでしょうに研究を続けられているようで素晴らしいですよ」
「ありがとうございます! ミライサブマスターから薬草の残量が残り少ないと言われておりまして……」
「俺たちなりにどうすれば効率的なポーションの作製ができるかいろいろ実験してたんですよ」
「あとは魔力水の最高品質化ですね。いや、こちらは誰ひとりとしてまだ結果を出せていないのですが……」
「いえいえ、僕がいない間にそこまで進んでいるのでしたら十分です。それから、魔力水の最高品質化ですがコツが必要となります。最高品質のポーションやディスポイズン、マジックポーションの作り方と一緒に資料室へと新しい本を近日中に追加いたしましょう」
「本当ですか!?」
「ええ。ただ、僕も帰ってきたばかりですので、詳細な日程は決められませんが」
「いえ、それが聞けただけでも十分です!」
「この部屋の皆さんはやる気に満ちあふれていますね」
「……ギルドマスター、そちらの方は?」
「そうですね……今は僕の妹、シャルロットとだけ覚えておいてください」
「初めまして皆さん。シャルロットです」
「はい、初めまして! ギルドマスターには大変お世話になっております!」
「そうそう! 見習いだった俺たちを最精鋭まで引き上げてくれたんだからな!」
「見習い……失礼ですが皆さんの年齢はお幾つで、錬金術の修行を始めてから何年ですか?」
「俺たちですか? ほとんどが十七歳か十六歳です。修行を始めたのは十五歳からですね」
「なるほど……参考になりました」
「ええと?」
「気にしないであげてください。皆さんもこれから頑張るように。……ああ、それからギルドマスター命令です。一週間に二日は休みを取るようにしてください」
「ええっ!?」
「そんな!?」
「研究が生きがいなのに!?」
「皆さんお金は貯まっているでしょう? それでしたら自分のアトリエにできそうな物件を探したり、自分専用の錬金術道具を探しに行ってみたりするのもいい頃合いです」
「……自分のアトリエを持つ? 俺たちが?」
「そんなこと考えてもみなかったよな」
「でも、そう言われると結構な金が貯まってるよな俺たち」
「あなた方が独立しても高品質な薬草は販売させていただきます。それで作った高品質ポーションは、自分のアトリエで売るなり商業ギルドと交渉するなり錬金術師ギルドに持ち込むなりいろいろと使い道はあります」
「んー、まだまだ修行が足りないし商業ギルドとの交渉なんてできやしないから先の話だけど、よさそうな物件がないかくらいは見ておくか」
「俺もそう言われると自分専用の錬金術道具がほしくなってきた。街中のそういった店を見て回ろう」
「俺もそうするか。たまには休むのも悪くないかも」
「そうしてください。数日休んだ程度であなた方の稼ぎにはさほど影響しませんよ?」
「……まあ、俺たちもらいすぎてるもんな」
「少し金の使い方も勉強するか」
「お酒と博打、それから異性との交友は羽目を外さない程度でお願いします」
「わかってますよ、ギルドマスター」
「それができなくてこのギルドを去った連中も多いんですから」
……身を持ち崩してやめた錬金術師、ですか。
でも、この部屋の皆さんは全員揃っているような?
「ギルドマスター、これは一般錬金術師の話です」
「ああ、ありがとうございます、ミライさん」
まったく、なにをしているのでしょうね、あの方々は。
シャルの様子を見れば失望したと言わんばかりの顔をしていますし、どうしたものでしょうかね。
「最高品質品の教本がほしいことは理解しました。こちらからの命令として週に二日休みを取ることも伝えました。ほかに要望はありますか?」
「要望……ギルドマスター、大変失礼なお話なのですが聞いていただけますか?」
「内容によりますが、なんでしょう?」
「俺の近所に星霊の儀式で『錬金士』の職業を授かった子供がいます。十五歳になったら彼を錬金術師ギルドに迎えてあげてほしいのです」
うん?
それはどういうことでしょう?
「逆に聞きます。この街の錬金術師ギルドに所属している錬金術師たちは全員職業『錬金術師』なのですか?」
「ええと、この街というかこの国ではそれが当たり前なのですが……」
なんと!?
それで冬にヴィンドの冒険者ギルドで講習を行った際にもあのような人数が集まったのですね!
これは盲点でした!
「……あの、ギルドマスター。やはりお気に障りましたか?」
「むしろ逆です。教えてくださりありがとうございます。これはすぐにでも手配をかけなければ!」
「手配? なにをですか?」
「決まっているでしょう? 『錬金術師』系統の適性があるものたちを大々的に集めての講習会ですよ! まさか、錬金術師ギルドに所属できるのが『錬金術師』のみだとは考えてもいませんでした!」
「え……それでは、その子も……」
「もちろん講習を受けさせましょう! ああ、それならばギルド評議会に連絡して街中から人を募らねば! 対象は……できれば交霊の儀式で『錬金術師』系統の適性を授かった子供たち全員からにしたいですが、さすがにその人数は一回では無理ですね! 最初は星霊の儀式で『錬金術師』系統の職業になった子供たちを対象にしましょう!」
「え……それってできるんですか!?」
「できるできないではありません。『やる』のです! もちろんそのときはあなた方にも講師として参加していただくのでそのつもりで!」
「俺たちも!?」
「そんな! 俺たちはまだ錬金術師ギルドに所属して二年経つかどうかの……」
「最精鋭です! なに難しいことは教えなくて良いのです。錬金術に興味さえ持ってもらえれば。そうですね、第一回目の講習では『濾過水を使った魔力水を錬金術で作り出すこと』を目的としましょう!」
「えぇ……」
「サブマスター、これって大丈夫なんですか?」
「残念ながら反対する理由がありません。予算もあなたたちが頑張ってくれているおかげで非常に潤沢です。その上で言ってしまえば、今回の講義は未来の錬金術師ギルドメンバーを獲得するための先行投資になります。ギルドマスターがお考えのように『錬金術師』以外の『錬金術師』系統の者たちを迎え入れることができればギルドの層が厚くなります。講義はまんべんなく行い、実力に見合った作業を割り当てれば錬金術師ギルドの未来は明るいでしょう」
「すげぇ、俺が発言したことでここまで大事になっちまうなんて」
「ええ、僕はこの国の錬金術師ではありませんからね。この国の風習はまったく知りません。今日は時間もないのでこれで失礼いたしますが、なにか要望等がありましたら遠慮なく申し出てください」
「はい!」
精鋭たちの威勢の良い声に送り出されながら部屋をあとにします。
そこで疑問の声を投げかけてきたのはミライさんでした。
「ギルドマスター、先ほどは尋ねませんでしたが本当に『錬金士』以下でも大丈夫なのですか? この国では……」
「その考えは捨ててくださいミライサブマスター。職業補正が『錬金術師』系統であるならば錬金術師ギルドが受け入れても問題はありません。スキルの伸び率は変わりますが、本人が努力すればいくらでも埋まる問題です。さあさあ、面白くなってきましたよ!」
そのあとは一般錬金術師のアトリエを見学に行きました。
ですが、シャルがすぐに『もう十分』と言いましたのでさっさとあとにします。
そして、事務室へと行ったときに先ほどの案を事務員全員に説明いたしました。
最初は懐疑的な目を向けられましたが、僕がそもそも錬金術師系統の職業ではなかったことを明かせば大変驚かれましたね。
開催時期などはギルド評議会の承認を得られたあとに決定になります。
ですが、準備は今のうちに始めていただかないと。
これは弟子たちを育てる次の楽しみができましたよ!
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