161.錬金術師ギルドでは
さて、商業ギルドマスターへのごあいさつもすみましたし、急ぎ錬金術師ギルドに向かった方が良いでしょう。
冒険者ギルドと商業ギルド、双方の話を聞く限りもうすでに薬草の在庫切れを起こし始めているのかも知れません。
半年分と言わず一年分置いてくるべきでしたでしょうか?
「シャル。僕はこれから急ぎ錬金術師ギルドに顔を出して問題解決にあたらねばなりません。あなたはどうしますか?」
「ご迷惑でなければお兄様と一緒に行きます。この国の錬金術の水準が知れれば、各分野でどの程度の講師を送り込めば良いのかはっきりしますもの」
……これは錬金術師ギルドマスターとして手札を見せてはいけないものでしょうか?
ですが、ギルド評議会でシュミット公国との友好関係樹立が決まれば、どうせ知らせねばなりませんし……。
よし、決めました。
「とりあえずは、サブマスターに会い薬草の在庫状況も含めた錬金術師ギルド全体の状況を報告してもらいます。その間は……」
「シャルは私と一緒にギルドマスタールームで待ちましょう? スヴェイン様、ギルドマスタールームをお借りしても?」
「アリア、よろしくお願いします。僕はサブマスタールームで報告を受けてきますので」
「かしこまりました。ギルドマスタールームの鍵だけ開けておいてくださいな」
ギルドマスタールームですが、盗られて困るものもないので普通の鍵だけで良いかと考えていました。
ですが、ほかのギルドマスターたちが査察に入って以降、『あのギルドマスタールームは厳重に管理すべきだ』と言われてしまい僕の魔法で魔法錠をかけ普段は入れなくしているんですよね。
アリアが全力で魔法を放てば壊れる程度の結界ですが、それより先に錬金術師ギルドが崩壊するのでさほど意味はないでしょう。
少々急ぎ足で錬金術師ギルドに来たわけですが、受付で待ったがかかりました。
「スヴェイン錬金術師ギルドマスター!? ようやくお戻りになったのですね!」
「はい。やはり問題が起きていましたか」
「ええ、多少難事が! ともかく、ミライサブマスターの元へ急いであげてください!」
「わかりました。ミライさんはサブマスタールームですね?」
「はい!」
うーん、様子からすると『多少』ではなさそうです。
シャルをアリアに預けたら急いでミライさんの元に向かいましょう。
階段を駆け上がりギルドマスタールームとサブマスタールームがある階層までやってきました。
すると、階段を走る音が聞こえたのかサブマスタールームからひとりの女性が顔を出します。
言うまでもなくその部屋の主、ミライさんですね。
「ああ、ギルドマスター! ようやくお戻りに!」
「ミライさん、報告はすぐに聞きます。サブマスタールームで少々お待ちを」
「はい! 可能な限り速やかに報告したい事項があります!」
それだけ告げるとミライさんは再びサブマスタールームへと戻りました。
僕はギルドマスタールームの鍵を開けるとその中にシャルを入れてアリアに接待を頼み、急いでサブマスタールームに移動します。
「ああ、良かったです、ギルドマスター。予定よりもかなり前にお帰りいただいて……」
「はい。そのことで話があります。冒険者ギルドに卸す状態異常回復薬、商業ギルドに卸すポーション類が減っていると聞いてきましたが……」
「それなんです! 精鋭の子たちってば、全員魔力枯渇を起こすまでポーション作りをやめないんです! 彼らのために仮眠室を用意しましたが、それが余計やる気に火をつけてしまい……」
「なるほど。商業ギルドで『商材を大量に用意した』と聞きましたがそれでですか」
「はい。薬草の申請もちゃんと無理のない範囲で申請されているため断るわけにいかず……」
「高品質な薬草類はあとどれだけ残っていますか?」
「はい。最近は一日に使わせる量を制限させてきました。それでも、あと半月分程度しか……」
「そこまでですか……」
「予想できませんよね……」
精鋭たちのやる気を見誤っていましたね。
そこまで火が付いているなど思いもよりません。
さて、どうしたものでしょう。
「彼ら、ちゃんと休みは取っているのでしょうか?」
「うーん……休みを取るように指導してはいるのですが……」
「では、あとで精鋭たちのアトリエに顔を出します。そのときに一週間に二日ほど必ず休むようギルドマスター命令を出してきます」
「……休むように命令っておかしいですよね?」
「……そうでもしないと休まないでしょう? 彼ら」
「私もそう感じます。それでですね、精鋭たちからの要望として、最上級品の作製方法を記した参考資料もほしいとあります。これはどうするべきでしょう?」
「それは認めましょう。半日で良ければ僕が指導するとも伝えてきます。ただし、特級品の作り方は各自が見つけることとします」
「かしこまりました。あとは……二階にいた熟練錬金術師たちが皆さん街を出て行かれました」
「追う必要はないのでどうでも良いです。特に問題はありましたか?」
「いいえ。むしろ風通しが更に良くなり彼らに回さざる終えなかった薬草類も不要になったため、ギルド経営的には良い方向にしか機能しておりません」
「でしょうね。僕としてもさっさと追い出せれば良かったのですが……」
「ギルドマスターとしてそこまでするのは横暴と取られかねまねん。ご自分たちで出て行ったのです、これが最良でしょう」
「そう言っていただけると助かります。それから、街で個人のアトリエを開いている錬金術師たちが問題になっていると商業ギルドマスターから伺ってきました」
「はい。彼らは自分たちでアトリエを持っているため錬金術師ギルドの改革についてくることができず、また販売拠点を持ってしまっているために街から出て行くことも容易ではありません。彼らの現状は理解しておりますので、錬金術師ギルドから運営資金を貸し出しました。問題ありましたでしょうか?」
「いえ、何ら問題ありません。むしろ、彼らを放置せざるをえなかった僕の失態です。近々、彼らを対象とした講義を開くとします。日時は帰ってきたばかりで決められませんが、対象となる錬金術師たちには声をかけておいてください。可能でしょうか?」
「事前に声をかけていただき助かります。対象となる方々へは通知を出すこととします。詳しい日程が決まり次第、またご連絡をください」
ふう、やはり事前に声をかけておいて正解でしたか。
僕はやはりこういった事務的な話には疎い。
「それにしても、ミライさん。サブマスターとして貫禄が出てきましたね」
「誰のおかげでしょうね?」
「……申し訳ありません」
「さて、茶番はこれくらいにしておきましょう。現在の問題はこれくらいです。あとは、状態異常回復薬用の薬草類を増やしていただけると助かります」
「精鋭たちでなんとかなるレベルでしたらディスパラライズ、麻痺消し草ですね。早速用意いたしましょう。ディスパラライズの作り方を説明する資料も近いうちに用意します」
「お願いいたします。それでは、こちらがギルドの収支報告等の書類となります。確認の上、サインをください」
ミライさんが用意してくれたのは積み上げられた山のような書類です。
書類ごとにまとまっているようですが……今日中に終わりますかね、これ。
試しに収支報告の書類を一枚見てみましたが……なんでしょう、この数字は?
「ミライさん。収支報告ですが、前年比で倍以上になっています。これってあってますか?」
「事務職員たちが何度も確認しているので間違いはありません。それだけ前ギルドマスターが無能だったこと。現体制が有効に機能していることの表れです」
「なら良いのですが……これ、今日中ではないとダメですか?」
「なるべく早い方が望ましいです。今日はお客様もお見えですし、勘弁するといたしましょう」
「申し訳ありません」
「いえ。ですが、処理をせずにまた長期不在となると書類の山が高くなる。このことだけは覚悟しておいてください」
「はい、わかりました」
ミライさん、本当にたくましくなって……。
僕のせいですよね、本当に申し訳ない。
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