929. 三日目、朝

 昨日も夜は休ませてもらい、翌朝、邪竜の陣地を確認すると、やはり3匹の古代竜エンシェントドラゴンが復活していました。

 ただ、今回の古代竜エンシェントドラゴンは前回のものよりも体躯が大きくなっています。

 これはどういうことでしょう?


『帝。きておられましたか』


「ええ。邪竜族はかなり減りましたね」


『そのほとんどが共食いに使われたのでしょう。それで、あの古代竜エンシェントドラゴンには攻撃を仕掛けますか?』


「そうしましょう。たとえ逃げられたとしても、邪竜族の数を抑制する効果はあるはずです」


『御意』


 僕と聖竜族の古代竜エンシェントドラゴンは、高空から邪竜族の陣地に向けてブレスを放ちました。

 これは古代竜エンシェントドラゴン狙いではなく、ほかの邪竜を減らすためです。

 狙い通り、ブレスとその余波で大量の邪竜が消えましたね。

 上々です。


『帝。古代竜エンシェントドラゴンどもは動きませんね?』


「そのようですね。まるでなにかを守っているような」


『いかがしますか?』


「なにを守っているのかわかりませんが、ろくなものではないでしょう。一気に攻め込みますよ」


 僕たちは再びブレスを準備し、今度は古代竜エンシェントドラゴンに向けて解き放ちます。

 邪竜族の古代竜エンシェントドラゴンものたのたとした動きながら、それをブレスで迎撃してきました。

 さて、お得意の移動はしているでしょうか?


「移動は……していないようですね」


『はい。それにしても、あの弱りよう。なにやら嫌な予感がします』


「確かに。すぐに仕留めましょうか」


『その方がよろしいでしょう。一番槍は我が』


「では、頼みます」


 聖竜の古代竜エンシェントドラゴンが急降下し、邪竜の古代竜エンシェントドラゴンの1匹に食らいつきます。

 高所からの落下速度をそのまま利用した体当たりは、邪竜の古代竜エンシェントドラゴンの体をひしゃげさせ、絶叫をあげさせました。

 なんでしょう、妙に弱い?

 いえ、僕も攻撃に移りましょうか。


「では、いきますよ。『竜の爪』!」


「ギシャァァ!?」


 僕も勢いよく空中から降下し、邪竜の古代竜エンシェントドラゴンの1匹を貫きます。

 うまく目に刺さった僕の力場の爪は、そのまま眼球を押しつぶすと、引っかけてえぐり取りました。

 これはいいダメージが入ったでしょう。


「ジャァア!」


「おっと」


 邪竜がその前脚で僕をたたき落とそうとしてきたので、それをかわします。

 ついでに邪魔な眼球は浄化してしまいましょうか。


「……ふむ、どうやらこいつらが本体のようですね。しかし、なぜこれほど弱っているのでしょう?」


 分身体作るのに力を消耗したのならわかりますが、どうもそのような様子ではありません。

 では、一体、なにに力を消耗していたのでしょうか?


 最初の巣は邪竜の先兵である上位竜と最上位竜を送り出すためのもの。

 その後、古代竜エンシェントドラゴンが出てきました。


 順番だけ考えれば強い戦力を小出しにするあまりよい戦術とはいえません。

 先に使った兵力は、それだけ消耗するのですから。

 では、先に弱い竜が来なければいけなかった理由があるとすれば?

 そして、古代竜エンシェントドラゴンクラスが消耗してまで陣地に居続ける理由があるとするなら?


 これはまずい!


「聖竜! いったんこの場を離れますよ!」


『は? はい、かしこまりました!』


 僕は最初の邪竜にとどめをさそうとしていた聖竜を止め、その場から急速に離れました。

 そして、元いた陣地を振りかえると、まだ余力のあった邪竜が虫の息だった邪竜を殺しています。

 ……これはぎりぎりでしたね。


『帝。これは……』


「黙ってみていなさい。結果がわかりますから」


 殺された邪竜の死骸は影の中へと引きずり込まれていき、影は日光を遮るものもないのに伸びていきます。

 影が伸び、不気味な紋章を作りあげると、紋様が輝きだし、その中から古代竜エンシェントドラゴンと比べても巨大な前脚が出てきました。

 やはりそういうことでしたか。


『帝、これは……』


「邪竜族の『帝』のお出ましです。戦力の逐次投入などという愚策をやっていたのも、召喚するための生贄をその都度作らなければいけなかったからでしょう」


『な、なるほど。帝、どうしますか?』


「完全に出てくるまで時間がかかりそうですし、完全に出てきてすぐ動けるかどうかも怪しいです。一度カイザーの元まで戻って対策を協議します。『帝』まで出てきたのでしたら、こちらも戦力を出し惜しみする必要はありませんからね」


 そう、竜族は『帝』を失えば急速に弱体化します。

 そのため、『帝』は最後の砦であり、最終兵器なのです。

 それが前面に出てきたということは、邪竜にとって最終決戦でもあるのでしょう。

 なにが邪竜族をそこまで追い詰めたのかは知りませんが、邪竜の『帝』を討ち取るとしましょうか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る