カーバンクルと薬草とポーションと

107.師匠と弟子の軽いお話

「ふむ、確かにポーション類をお預かりいたしましたわ」


 今日で三回目になる弟子たちのポーション取引。


 今回もマジックポーション多めでという依頼だったので、二回目同様マジックポーションメインの納品となりました。


 こちらとしてもマジックポーション作りは、錬金術を鍛えるためにいい材料ですからね。


 とても助かります。


 さすがに、今回の納品物に六個だけ高品質マジックポーションが混じっていたのを確認したときは、ミストさんでも驚愕の表情を浮かべていましたが。


「ところでスヴェイン様、今後ギルドに来る予定はありませんの?」


「うーん、なにかご用があれば伺いますが、なにもないのでしたら特に行くつもりはないですね」


「そうですか……ティショウが話をしたがっていたのですが」


「そうなんですか? でしたらお伺いしますよ」


「本当ですの? いつ頃、来ることが出来ますか?」


「今日明日は無理ですね。明後日くらいならどうでしょう」


「わかりました。ティショウには予定を空けさせておきますので、都合のいい時間にお越し下さい」


「はい。それでは、今日はこれで」


「ええ、楽しみにしていますわ」


 玄関先までミストさんを見送り、弟子たちの様子を確認しに行きます。


 アトリエでは今日も元気に集中して作業に取りかかっているふたりの姿がありました。


「うーん、マジックポーションも八割くらいは一般品質になってきたのですが……」


「ボクもそこから先に進めません。魔草の品質は高品質。魔力水も高品質ですし、なにがいけないのでしょう?」


「まぐれで高品質マジックポーションが出来たときは嬉しかったのですが、それよりも一般品質の安定化です」


「そうですね。うーん……」


 ふむふむ、お互いに試行錯誤しあっているようで結構です。


 それにまぐれ当たりの高品質に甘えず、一般品質の安定化を目指すのも望ましい。


 大変優秀な弟子たちですよ。


「うー、ダメです! 私たちの力じゃ、どうにもなりません!」


「ですね……先生、すみませんがお手本を見せていただけますか?」


「いいでしょう。あなた方が使っている素材で……そうですね、高品質マジックポーションを作ってみせましょうか」


 僕はニーベちゃんが使っている錬金台の前に立ち、ふたりが使っている素材を錬金台の上に並べます。


 さて、前にヴィンドの冒険者ギルドでゆっくり見せたようにうまく出来るでしょうか?


 そして、弟子たちは僕のやり方に気がつきますかね?


「さあ、始めますよ」


「はい!」


「お願いします!」


「では……はい、完了です」


「うー、やっぱり先生の錬金術は素早いのです」


「ですね。でも、少しだけわかったこともあります」


「ほほう。なにがわかりましたか?」


「ええと、先生がマジックポーションを作る時は水を。それがヒントですよね?」


「あ、そういえば、水の流れ方が普段と違いました! あと、水が色づいていくときもです!」


「ヒントは十分につかみ取れたようですね。それでは、練習を再開してください」


「はい!」


「今度こそ頑張ります!」


 うん、ギルドの講義のときより少し手早くやって見せましたが、それでもしっかりと技術を見分けることが出来たようです。


 とても誇らしいですよ。


「うわぁ! マジックポーションが一般品質で安定化してきました!」


「それだけじゃなく、ときどきだけど高品質も出来てるよ! やり方を少し変えるだけでこんなに変わるなんてすごい!」


「なるほどです! それでは、ある程度の回数をこなしたら今日は魔力水作りをもう一度頑張りましょう、エリナちゃん!」


「魔力水……あ! そっちにもなにか秘密があるかも!」


「ですです! 先生は最高品質までの手順は教えてくれません! 自力で作ってみせるのです!」


「わかった! 頑張ろう!」


 おやおや、魔力水も作り直しですか。


 最高品質の魔力水を作るためには、なのですが気がつくでしょうか?


 出来れば僕が帰るまでに気がついてほしいものです。


「うーん、やっぱり高品質な魔力水しかできません!」


「ですね。でも、少しだけ色が先生の見本に近づきましたよ!」


「です! きっと考え方は間違っていないはずですよ! 頑張りましょう!」


「うん!」


 こうして考えると、本当にエリナちゃんの存在は大きいですね。


 僕は最初はおばあさまのメモや記録を見ながら自力で、途中からはセティ師匠とワイズに教えてもらいながらやったものです。


 お互いを高めあえる、そんな関係も悪いものではありません。


「……あ! 最高品質の魔力水が出来ました!」


「本当!? ニーベちゃん!?」


「はい! 先生のものより色が薄めですが、鑑定結果は間違いなく最高品質です!」


「……本当だ。どうやったの?」


「最初は横回転で魔力を込めていくんです。そして最後の方に縦回転に切り替えてグルグル魔力を全体に馴染ませれば出来ました!」


「なるほど、そういうやり方……」


「はい! まだ、まぐれかもしれませんが希望は見えました! さあ、はりきっていきましょう!」


「うん、頑張ろう!」


 おやおや、あっさりと手法を見抜かれましたか。


 縦回転もあるということがわかれば、思いつく方法ですからね。


 あとは込める魔力量と縦回転の時間次第で最高品質の魔力水が安定します。


 僕から助言するのもおこがましいですし、見守っているだけにしましょうか。



********************



「というわけで、今日は最高品質の魔力水がある程度作れるようになりました!」


 夕食のあとに行われる家族の団らん。


 エリナちゃんも普段からここにいるそうですし、僕たちもコウさんのお屋敷にいる間はなるべく参加して欲しいとお願いされました。


「ほう、すごい進歩ではないか。どの程度の割合で作れるのかな?」


「ほぼ五割です。明日はもう少し鍛える予定です」


「ふむふむ。それで、スヴェイン殿。実際のところどれくらいの進捗度合いなのでしょう?」


「そうですね。僕の予想を超えています。これでしたら、僕が帰る前に最高品質のポーションやマジックポーションの作り方も仕込めそうですよ」


「だそうよ、ふたりとも。よかったわね」


「はい! 頑張ります!」


「はい。ボクも頑張らせてもらいます」


「そういえば、マオさん。例のアクセサリーは量産できそうですの?」


「アリアさん……その質問には。いいえ、としか答えられませんわ」


「そうですの? それなりに時間も経っていますし、皆さんの技術も上がっているのでは?」


「それなんですが……量産体制を組めるほどの従業員がいないのです。下手な人員を招き入れて、技術を盗まれても困りますし……」


「それは……大変ですわね」


「はい。本当はお待ちいただいている皆様にもっと早くお届けできればいいのですが……」


「難しい問題ですわね。スヴェイン様でも解決は無理でしょうか?」


「アリア、僕でも万能ではありませんよ。人の良し悪しは見抜けますが、出来るのはそこまでです。それ以上のこととなると手が出ません」


「そうですわよね。スヴェイン様でも無理はありますもの……」


「人の良し悪しは見抜けるんですの?」


「はい、マオさん。その人が純粋な気持ちであるか、それとも悪意を持っているのか、その程度でしたら判別がつきます」


「……スヴェイン様、近いうちに人員募集をかけますので同席していただけますか?」


「その程度の判別でよろしいのでしたら喜んで」


「はい、それだけわかれば十分です。あとの技術指導は私たちのお仕事ですわ」


 マオさんはそう熱意を込めて言っています。


 これは本気ですね。


「コウさん、風治薬の販売はどうなっていますか?」


「うむ。大分購入者は減ってきている。だが、それでも毎日千個以上売れている状態だな」


「なるほど……そろそろ次の一手を打つ頃合いでしょうか」


「スヴェイン殿?」


「ああ、すみません。こちらの話です。ニーベちゃんとエリナちゃんは、明日朝に薬草畑の手入れが終わったら錬金術の練習をせずに待っていてください」


「わかりました。でも、どうしてですか?」


「ふたりにとっておきのプレゼントがあります。魔力も大分増えていますので問題ないでしょう。実際になにを渡すかは明日のお楽しみと言うことで」


「はい! 楽しみにしています!」


「よろしくお願いします!」


 うんうん、ふたりとも素直ですね。


 プレゼントされるものを見て驚かないか不安ですが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る