408.スキル分類

「『フレイムランス』です!」


「『サンダースピア』!」


 今日は私が弟子ふたり、ニーベちゃんとエリナちゃんの魔法教育日。


 的はいつものごとくカイザーです。


 最近は普通の的だと簡単に破壊してしまうし、カイザーもマッサージ代わりの感覚でふたりの魔法を受け続けるし……。


 成長著しいのはいいのですがいろいろと困ります。


『ふむ。下級魔法でも私の障壁を揺るがせるようになってきたか。妖精樹の髪飾りがあるとは言え、そんなものはただの補助。元の魔力収束能力や運用効率、適正な変質に魔法イメージなどすべてが揃わねば古代竜エンシェントドラゴンの障壁を揺らすことはかなわぬ。上級魔法ならまだしも下級魔法で私の障壁を揺らせることは誇ってもいいぞ』


「ありがとうございます、カイザー。でも……」


「早く合成魔法、使ってみたいよね」


『いや、あれはだな……』


「カイザー。あなたが余計な口出しをして古代秘術を教えてしまったのです。ふたりが覚えてもちゃんと的になりなさい」


『う、うむ。アリアよ、まさかすぐには教えぬよな?』


「当然です。ふたりの制御能力ではまだまだ合成できません。魔法を合わせた瞬間に爆発するだけです。ふたりの魔法レベルも第一水準まで上がってしまいましたし、あとは基礎固め、反復練習が先です。古代魔法や秘術はその遙か先ですよ」


『……やはり、古代魔法も教えるつもりなのか』


「責任を取りなさい」


『わかった』


 まったく反省していない。


 カイザーが余計な口出しをしたせいで『合成魔法』という秘術の存在がばれてしまったというのに。


 お仕置きとして私の古代魔法による合成魔法をお見舞いして手傷を負わせましたが……反省していただきたいものです。


「そういえば、アリア先生。『第一水準』ってなんですか?」


「ボクもそれを知りたいです。あまり聞き慣れない言葉ですし」


「ああ、そうかもしれませんね。『第一水準』というのはスキルレベル30のことです。そこまでは……まあ、あなた方レベルの努力をすればたどり着くんですよ。基礎スキル、【魔力操作】とかはすぐに限界まで到達したでしょう?」


「ですね。不思議に感じていなかったのです」


「【魔力操作】は特に上がりやすかったですが……そういうものだと考えていました」


 ふむ、この際ですしスキル分類も教えてしまいましょうか。


 スヴェイン様からも許可をいただいていますし。


「私とスヴェイン様の研究ではスキルにも様々なランクわけがあります。【魔力操作】は『基礎スキル』として分類しました。その気になれば一カ月とかからず誰でも極められますので」


「はい。わかったのです」


「次に『基本スキル』。これはどの職業でもあまりスキル倍率に差が無いスキルを分類しています。代表例は【鑑定】ですね」


「なるほど。確かに鑑定スキルはどの職業でも使えますからね」


「ええ。もっと言えば、幼い頃の努力次第でどの職業でも【神眼】になりえます。次、『職業スキル』。これは職業補正の影響を受けやすいスキルです。ふたりがメインに習っている【錬金術】もそうですし、各種属性魔法も『職業スキル』に分けてあります」


「わかりやすいのです」


 ここまではわかりやすいですし問題ないでしょう。


 一般知識でもありますしね。


「四つ目、『個性スキル』。これは『職業スキル』のうち、個人個人で適正に差が出るスキルです。特に顕著なのが【時空魔法】です」


「え、そうなんですか?」


「はい。テオさんは知っていますね? スヴェイン様が連れてきた『賢者』の方です」


「知っているのです」


「彼は『ストレージ』を覚えるために三年かかったそうです。あなた方は一カ月かかってませんよね?」


「かかりませんでした」


「ちなみに、スヴェイン様と私は一日で『ストレージ』を覚えました。座学で習っていたので一概に比較はできませんが、時空魔法を教えてくださったのは同じくセティ師匠です。スキル補正によるスキルの伸び率以外にもスキルを覚えるまでにこれだけの差が生まれるんですよ」


「それって私たちは適性があった方ですか? 無かった方ですか?」


「とても高かった方です。私やスヴェイン様が異常だっただけで、普通『ストレージ』を覚えるだけでも数年を要します。『賢者』になるための最大のハードルが【時空魔法】なのは、資料や知識の少なさもありますが個人の適性差が非常に大きいことも上げられます」


「そうなんですね」


「ちなみにですが、今コンソールにいるシュミット講師陣の中に【時空魔法】を使えるものは誰ひとりとしておりません。シャルは『賢者』ですので当然使えますが、かなり苦労したと聞きました。実際、私が国を離れるまでは『ストレージ』を使えませんでしたからね」


「私たち、すごい人、です?」


「すごい人です。ただし、覚えたあとの伸び率はスキル補正に従います。慢心して手を抜かないように」


「はい。当然です」


 うん、さすが私たちの弟子です。


 慢心しない心構えがあって素晴らしい。


「よろしい。五つ目ですが、『才能スキル』。私たちが言うのもなんなのですが、生まれ持った才能、あるいは適切な職業が無ければどうあがいても覚えられないスキルです。スヴェイン様は『隠者』の『才能スキル』として『時空魔法限界突破』、『緑育むもの』、『生産神の祝福』を。交霊の儀式で就いていた『ノービス』の『才能スキル』として『努力の結実』を。おそらく、生まれ持った『才能スキル』として『聖獣の守り人』を持っています」


「それって明かしてもいいものなんですか?」


「事前にスヴェイン様からあなた方には明かしていいと許可を取ってあります。各スキルの詳細、聞きたいですよね?」


「ええと……はい」


「まず、『聖獣の守り人』ですが契約聖獣の能力が上がります。同時に契約している聖獣から得られる力も増大します」


「聖獣契約ってそんな効果もあったんですか!?」


「あったんですよ。そうじゃないと、あなた方の最大魔力量の説明がつかないでしょう?」


「……そう言われれば、かなり多いような。先生たちから習った修行方法の結果だと考えていました」


「その効果も当然あります。それ以外にも契約聖獣から知らず知らずに借り受けている力があるのです」


「今度、聖獣さんたちにお礼をするのです」


「聖獣たちはその心だけで十分満足しますよ。次、『努力の結実』。これは、どんな『職業スキル』でも確実に覚えられるという才能です。『個性スキル』の影響は受けますが、努力さえ怠らなければすべてを覚えられます」


「……すごいですね」


 この才能だけは私もほしかったんです。


 私、七歳までは頑張ったけど剣術スキルが身につかなくて魔法だけで身を守った方がいいと教えられてしまいましたから……。


「その代わり、『ノービス』は【時空魔法】以外のスキル倍率が非常に低いのですが。次です。『時空魔法限界突破』。これは言葉通りの意味です。普通はどんなスキルであろうと、特級職でさえスキルレベルは100までしか上がりません。ですが、スヴェイン様の【時空魔法】はそれを大きく超えています」


「どのくらい超えているのです?」


「それはあなた方でも内緒だと。ただ、テオさんを仲間にするときに家一軒を土台ごと『ストレージ』にしまったとだけ」


「本当にすごいですね」


「次は『緑育むもの』です。これは植物系の素材などを入手するときに品質を下げにくくしたり、成育するときに品質をよくする効果があります。地味なように聞こえますが、あなた方ならこの効果のすごさは理解できますよね?」


「当然なのです」


「先生とはいえ、ものすごくうらやましいです」


「最後は『生産神の祝福』。これもおおよそ見当がつくと思いますが生産スキルの効果が上がります。具体的にどう変わっているのかはスヴェイン様でもよくわからないそうです。ただ、『ノービス』の頃に比べて数段階は生産スキルを扱いやすくなっているとのことでした」


「……先生なのに嫉妬してしまうのです」


「うん。うらやましすぎる」


 うらやましいでしょうね、この子たちにとっては。


 私でも生産職だったら嫉妬しそうです。


「以上がスヴェイン様の『才能スキル』です。私の『才能スキル』は『魔の求道者』、『魔導神の加護』、『精霊王の祝福』です。効果も聞きたいですか?」


「これ以上聞くと嫉妬で恨んでしまいそうなのです」


「ボクもちょっと……」


「では、説明は省きます。ちなみにあなた方の『才能スキル』ですが、ニーベちゃんは『魔の探索者』。エリナちゃんは『知の探索者』です。どちらも職業に付与されてくるものではないはずなので生まれ持った才能です。大切に育みなさい」


「帰ったらこっそり効果を教えてもらいたいのです」


「ボクもです。お互いなんとなくわかるのですが……」


「では、帰ったらそれぞれ個別に教えましょう。最後の分類ですが『叡智スキル』。これは『職業スキル』や『才能スキル』とは違い完全に後天性のスキルとなります。具体的には私やスヴェイン様の切り札【竜魔法】、【古竜魔法】。それに【古代魔法】や【元素融合】などがありますね」


「名前を聞いただけでもすごそうです……」


「【竜魔法】とか絶対に『竜の帝』の専用魔法ですよね?」


『いや、【竜魔法】は人でも覚えられるぞ? かなり難しいがな。帝専用は【古竜魔法】だ』


 カイザー、また余計な事を吹き込まないように。


 この子たちが興味を持つじゃないですか。


「本当です、カイザー?」


「先生、それってボクたちも覚えられますか?」


「不可能ではないですが……かなり厳しいです。【竜魔法】を覚えるためには竜と契約するか『竜玉』と呼ばれる秘宝を体内に取り込む必要があります。『竜玉』は最上位竜の命の結晶。力ずくで奪うのは非常に困難ですし、持ち主の竜が死ぬと壊れるため細心の注意を払う必要があります。実質的に覚えるのは不可能と言っても過言ではないですね……本来なら」


「本来なら……ですか?」


「ものすごくいやな言葉が続きそうです」


「……あなた方に目をつけている最上位竜がいるんですよ。おそらく近々契約を求められるでしょう。いやなら帝として追い払いますし、あなた方が断ってくれても構いません。聖竜から覚えられる【竜魔法】は【聖魔法】の上位互換。いろいろな意味で便利ですが……判断はあなた方に任せます」


「聖獣さんの次は聖竜さんです……」


「ボクたちどこに向かっているんだろう……」


「諦めなさいな。あなた方が頑張りすぎた結果です。私もあなた方が巣立つ前には【古代魔法】の知識一式と初歩の魔法を、スヴェイン様も【元素融合】の知識一式と大地から鉄を集める方法を伝授するそうです」


「私たち、知らない間にものすごいことが決まっていたのです……」


「でも、今更弟子をやめるのも歩みを止めるのもできないよね……」


「いやなら私たちも無理矢理教えはしません。そもそも、『叡智スキル』は秘伝中の秘伝。存在すら明かすつもりはなかったのですから」


「今は保留にしてもらいたいのです……」


「すみません。覚悟が決まったら教えてください」


「ええ、そのときを楽しみにしています。ちなみに、今のあなた方なら【竜魔法】でカイザーの鱗一枚は砕けますよ?」


「私、そんな攻撃力いらないのです」


「カイザーに傷をつけられるとか城を砕けるじゃないですか」


「竜と契約するということはそういうことです。さて、もう少し魔法の訓練をしたら帰りましょう」


 ……さて、一通りの知識は与えました。


 あとはこの子たちがどこに向かって進みたいのか、それを見極めてお手伝いしましょう。


 スヴェイン様とともに。

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