407.妻として

「今日はどれをつけて添い寝してもらおう……」


 今日は私、ユイがスヴェインの添い寝当番の日だ。


 一緒に寝るときの寝間着もそうだけどやっぱりその中も重要。


 もう不意打ちで結婚してから季節が二回変わったし好みも完全に……とはいわないまでも把握しちゃってる、


 だから、その……いっつもしてするときの中身は同じ系統なんだよね。


 素敵な旦那様を少しでも喜ばせてあげたいから。


「うーん。今日は……してもだけど……」


 その、リリス先生はいろいろと知識が豊富で、をしやすい日なんかも教えてくれている。


 だから念のためにそういう日は避けてしてしまっていた。


 もちろん、覚悟はあるし、本音を言えば授かり物はしたい。


 でも……スヴェインのやりたいことを知っている以上、時間をあまり使わせるのは気がひけるんだよね。


 愛する旦那様はどんなに言っても子供にできる限りの愛情を込めるから。


「はあ、悩ましい……」


 愛する人の温もりがほしいためだけにを続けるだなんてはしたないとは思う。


 でも……。


「ユイ。入りましたよ」


「ひゃい!?」


 この声、アリア!?


 なんで!?


「まったく、下着選びですか。殿方を誘おうとしてるのがバレバレです」


「あ、あの、これは……」


「ああ、心配なく。鍵はきちんとかかってましたよ。この部屋の鍵は私も持っている事をお忘れですか? あとあらためて鍵は閉めて結界で隔離しました。あなたもカーバンクルの主になったのです。他人に見せたくないことをするときは結界で隔離してもらうように」


「わ、わかりました」


 うわーん!


 アリアにばれたー!!


 絶対怒られる!!


「さて、ユイ。お話です」


「はい……」


 ひょっとしたら添い寝禁止を言い渡されるかも……。


 妻としてそれは厳しい。


「あなたのが多いこと、気が付いていないとでも考えていましたか?」


「その……」


「さすがに女の勘を舐めすぎですよ? 子供たちにだって薄々感づかれています。あの子たちはあの子たちでリリスから情操教育を受けているようです。なので間違いは起こさないでしょうが、子供の教育によろしいとは言えませんよ?」


「ええと……」


 うわーん!


 ものすごく怒ってる!?


 本当に春まで添い寝禁止とかありえそう!!


「それから、あなたもスヴェイン様の野望を知るものです。それは覚えていますよね?」


「もちろんです……」


「授かり物ができるとどうなりますか?」


「最低でも五年は遅れます……」


「よろしい。それで、我慢できますか?」


「それは……」


 どうしよう。


 口で『我慢できる』と答えても本当に我慢できる自信が無い。


 でも『我慢できない』って答えて許してもらえるのかな……。


「あなたらしくない。迷っているのですか」


「ごめんなさい。我慢し続ける自信がありません」


 結局出せたのはものすごくあいまいな答え。


 でも、本心だから仕方がない。


「正直でよろしい。それで、本当に授かり物ができても見放さない覚悟はおありですね?」


「それはもちろん!」


 そんなことは絶対にしない!


 アリアが……アリア様がどんなつらい目にあってきたかなんて想像もできないけれど、私の子供には絶対に幸せになってもらう!


「それだけの覚悟があればよろしい。いくらでもをして甘えなさい」


「え?」


「聞こえませんでしたか?」


「聞こえました。だからこそ耳を疑って……」


「スヴェイン様が殿方になりつつあるのです。その責任はあなたが体をはって取りなさい。まさかその覚悟も無しにし続けていたわけではないですよね?」


「もちろん、責任……妻の責任は果たします」


「よろしい。それでは今後はあなたの判断でそういったことをしても不問にします。もちろん、授かり物をした場合もあなた責任を負いなさい」


「はい……ん? あなた『』?」


 も、ってなに、『も』って。


 スヴェインもってこと?


「もちろん、この判断を許した私も責任を負います。スヴェイン様にも責任を取ってもらいますけど」


「ええと、アリア?」


「となり、座りますよ」


「あ、うん。どうぞ」


 ベッドに腰掛けていた私のとなりにアリアも座った。


 そして、私を優しく抱き寄せてくれて……あ、ラベンダーのいい香りがする。


「あなたは私が『竜の帝』のバックアップ、竜帝玉の一部を持っていることはご存じですよね」


「うん。もちろん知ってる」


「私、、いまだに来ていません」


「え?」


「私は十二歳で『竜の帝』になりました。そのときはまったく気にしていませんでしたが……多分、私の体は不老になってしまっています。結果として子供のまま、未熟なまま成長が止まり、子を宿す準備ができていないと考えています」


「それ、スヴェインには?」


「もう相談しました。ですが、今更『竜の帝』の責務も放棄できません。なので、私とスヴェイン様は準備ができればアムリタを飲んで本当の意味での不老不死になる覚悟もしています」


「それって……」


 私の浮ついた考えなんて甘すぎた。


 アリアもスヴェインもそこまで覚悟が決まっていただなんて。


「せめてもの救いはスヴェイン様がお子様を成せる準備のできていたことです。そちらすらできていなかったら、本当に子供を抱く機会がありませんでしたから」


「あの、アムリタ、私の分も用意してください! 私もずっとずっと添い遂げます!」


「いいえ、あなたにはしばらく渡せません。アムリタを飲んだ結果、あなたまで子を宿せなくなっては本末転倒ですから」


「本末転倒?」


「あなたにはいずれスヴェイン様とのお子様を宿していただきます。ミライさんは……もっと頑張っていただかないといろいろ不安です」


 ミライさん、ここでも評価が低い……。


 なんでだろう、お仕事中はスヴェインも認めているのに。


「ともかく、あなたはつらいかもしれませんがスヴェイン様とのお子様を。そして……その」


「なに?」


「あの、私のことも『お母様』と。自分で子を産めなくてもスヴェイン様の子供に母と呼ばれるのは夢なんです」


 アリア、照れてる。


 でも、たったそれだけのことか。


 びっくりしちゃった。


「もちろんいいよ、アリア。私たち夫婦四人、子供ができたら全員揃って父と母だもん」


「ひとりはまだまだ修行不足ですけどね」


「あはは……」


 うん、ミライさん、頑張って。


 このままじゃ本当に指輪を取り上げられるから。


「さて、私の心配事もなくなりました。あなたは自分の責任でいくらでもを、いえ、を受け止めてください。私もときどきは受け止めますが、その、段々激しくなっています。この家が防音設備の整った家で助かりました」


「ああ、うん。私もそう感じるよ」


「では私はこれで。妻はあまり夫を待たせるものではありません。引き留めてしまってなんですが、早く準備をしてたっぷり甘えてきてください」


「うん。ありがとう、アリア」


「いえ。本当の本当、絶対に『お母様』と呼ばせてくださいね? 絶対ですよ?」


 そこまで告げると結界を解いて部屋を出て行き、また鍵をかけていってしまった。


 軽く言っていたけど、妻として絶対に愛する夫との子供を産めない、それも幼い頃からずっと一緒に育ってきた許嫁との子供を産めないって私じゃ想像できないくらい苦しいだろうなあ。


「……スヴェインの野望が完了して子供を産める準備ができたら、一日でも早く子供を産んであげなくちゃ」


 多分、ひとりじゃ足りないよね?


 何人くらい産めばいいんだろう?


 エルフは子を宿しにくいって聞くけれど……アリアの夢を叶えるためにも頑張らなくちゃ。

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