565.〝シュミットの賢者〟の本

 次段階としてギルド評議会で行動を開始することに始めました。


 各ギルドの流れを巻き込むために。


 ちなみにハービーの初参加でもありますが……既に覚悟を決めているのか堂々としていますね。


「それでは各ギルドともに運営状況、支部状況、新規ギルド部隊、すべて問題ないな」


「問題ないねえ。一部の街からは主要九部門以外のギルドも早く来てほしいって急かされてるとさ」


「申し訳ありません。そちらまではなかなか建物の買収が進まず」


「そういうことならば仕方があるまい。要望が出ている街には事情を説明して待っていただくように」


「仕方がないか。宿屋ギルドとしてもさっさと乗り込んで宿屋革命を起こしたいんだがね」


「そんなことをすればスヴェイン並みじゃなくても嵐になるんじゃないのか、婆さん?」


「その程度に耐えられないんじゃ宿屋失格だよ」


「コンソール宿屋ギルドも手厳しくなったな。〝農業ギルド〟も設立に向けて着々と準備が進んでいる。コンソールに集まりすぎていた富の再分配も……まあ、幾分か進んで来た。ロック鳥との契約にも成功したためエヴァンソンとの文化交流事業も始める土台ができている。さて、次はどこから手を付ける?」


 さて、それでは次の


 久しぶりに巻き起こしましょう!


「では、僕の方から提案です。錬金術師ギルドマスターではなくスヴェインとしてですが」


「……おい、嫌な予感しかしねえぞ?」


「儂もだ。話を聞いてからでもよいか?」


「〝シュミットの賢者〟の技術書。ほしくはありませんか?」


 僕の発言に評議会場内は一気に騒然となりました。


 特にその内容を一部とはいえ読んでいるティショウさんとジェラルドさんの慌てぶりがすごいです。


「スヴェイン殿! 正気か!?」


「はい、正気ですよ。僕の野望が動き出した以上、隠すものではなくなり始めました。先日、手始めとしてアトモさんのお仲間とマーガレット共和国の皆さんに該当する技術書を差し上げましたからね」


「なるほど。マルク殿の一門が急に腕を上げ始めたのはそれで……」


「ビクトリアもです。今までは使ったことのないエンチャントを苦もなく成功して……」


「アイノア一門もだ。ちょいと前に聖獣樹を取りに行かせたが品質がまるで違った。木材にしたときも一目で良質だとわかっちまうほどにな」


「エゴイ様もです。さすがに聖獣樹を曲げることはできないご様子でした。ですが、それ以外の仕上げはみるみるうちに腕を上げ……」


「とまあ、読む側の腕が伴っていれば非常に有効な教本になる技術書です。皆さん、いかがでしょう?」


「……喉から手が出る程ほしいですな。錬金術師ギルドマスター、対価は?」


。それで十分です」


「なに?」


「協力することは二年前から決まってるぞ?」


「はい、二年前から決まっていました。ですがあの時と今では状況が変わっています。


「どういう意味だね?」


「はっきり言いましょう。二年前のコンソールでは学ぶものがほぼなかった。独自文化や風習こそ学ぶ価値があったでしょうがその程度です。ですが、今のコンソールは違う。シュミット講師から多くを学び、その結果として。それを学園都市でも吸収したい」


「……つまり、


「そうなります。建設などの物資支援もいただきたいが最終的には講師の支援もいただきたい。それが僕の望む対価です」


「……皆のもの。の採決を採る。スヴェイン殿の話、反対のものは挙手を」


 僕の話に反対する者はなし。


 皆さん、自らの技術に自信がおありの様子です。


「決まったな。竜宝国家コンソール、全力を持ってスヴェイン殿の学園都市、いや、学園国家に全力で支援を行うことを約束する」


「ありがとうございます。それでは対価を受け取りください」


 僕は『ストレージ』から次々技術書を取り出し、『ワープ』で皆様の前へと配布します。


 それを見て驚くギルドマスターは誰もなし。


 皆さん、僕のやることだと受け入れていますね。


「これが〝シュミットの賢者〟の技術書……」


「はい。〝シュミットの賢者〟の技術書です。各分野の入門編から上級編まではすべて送りました。そのほか、それに付随して必要になりそうな技術書も送ってあります。お手数ですが内容に不足がないか確認を。僕も専門分野は錬金術のため、それ以外で過不足なくというのは難しく」


「錬金術師ギルドマスター、早速ですまないが猛毒に関する資料はないか? 医療ギルドに運ばれてくるときにはほぼ手遅れだろうが知識として持っておきたい」


「では『猛毒性魔物特性集』を全巻送ります。どのような魔物の毒に対してどのような治療が必要か、その資料になりますので役に立つかと」


「助かる」


「鍛冶ギルドからも。私たちも装飾として宝石を扱う事があります。宝石学の本があればいただきたい」


「わかりました」


「服飾ギルドとしては鉱物学がいただきたいですね。刺繍に金糸や銀糸を扱う程度ですが参考になるかも知れません」


「承知しました。今送ります」


「建築ギルドにも宝石学をくれねえか? 滅多なことじゃ使わねえだろうが、今後に備えて持っておきたい」


「了解です」


「調理ギルドとしては薬草学と植物学もほしいねえ。食べられる食材を増やしたい」


「製菓もですね。食材の幅は少しでも増やしたい」


「薬草学と植物学ですね。今すぐに」


「魔術師ギルドとしては……これほど大量の書物をいただいていて更に追加は申し訳ないのだが、もっと初歩的な内容の本は無いだろうか。それこそ魔術学全体で扱えそうなものが」


「少々お待ちを……『魔法理論入門』と『魔法言語入門』、『魔導具作製入門』、『魔導具設計入門』が抜けていました。すぐに渡します」


「本当にすまない」


「スヴェイン。冒険者ギルドでも薬草学と植物学がほしい。それから応急治療に関係する知識はねえか?」


「薬草学と植物学ですね。応急治療は……すみません、医療学入門を渡しますので必要なものだけをピックアップして再編集してください」


「しゃあねえか。そのくらいの手間を惜しんじゃいられねえな。これだけの知識をもらえるんだからよ」


 その後も各ギルドから様々な本の要望が出ました。


 医療ギルドからは『錬金術の本も欲しい』と言われるほどです。


 さすがはギルドマスターとサブマスター、知識欲が旺盛だ。


「……とりあえず、今日はこれぐらいでよろしいでしょうか?」


「そのようだな。各ギルドの要望も出尽くしたようだ。今後要望が出た場合は?」


「錬金術師ギルドまで来るか、ギルド評議会の時に僕を捕まえてください。〝シュミットの賢者〟の本は大量に写本して『ストレージ』に放り込んであります。もしたりなくても存在する本でしたら数日でご用意出来ますのでお気軽にどうぞ」


「わかった。ギルド構成員には見せてもいいのか?」


「構いません。僕のギルドではすべてのアトリエに基本資料として配ってある資料です。できればシュミット講師には見せないでもらいたいですが、彼らがどうしても読みたいと言うのであれば読ませても構いません」


「シュミット講師には読ませない? なぜですか?」


「彼らには読むだけの成果を上げてもらいたいのです。彼らにはこう言ってください。『僕が認めるだけの結果を出せ』と」


「厳しいねえ。さすがシュミット家」


「彼らだってこれまで以上の本気を出しますよ? 〝シュミットの賢者〟の技術書が目の前にある、そして成果を出せばそれを読む権利が手に入るのですから」


「……指導が厳しくならないか不安です」


「それはそれで失格です。新しい技術を手に入れようと成果を出すのに指導を厳しくするだけなど言語道断。その程度、言われずとも理解していなければシャルに頼んで講師を入れ替えていただきます」


「本当に厳しいですね、シュミット家は」


「自己研鑽の結果を周りに広めるのは構いません。周りの成果を自分の成果に見せるのは認められないだけです」


「わかった。シュミット講師たちにはそのように伝えよう」


「お願いいたします。それでは僕からの提案は以上になります」


「想像以上のものをいただいたが……最後に確認したい。〝農業〟に関する技術書もあるのかね?」


「ありましたね。ただ、基本的な内容しか書いておらず各土地や農家の経験も必要になってくる内容でしたが」


「やはり〝農業〟に近道はないか。ほかに提案や発言者はいるか?」


 この問いかけに反応する者はなし。


 これで今日のギルド評議会は終了です。


 さて、新たな、どこまで進みますかね?

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