133.錬金術師ギルドマスター 四日目
錬金術師ギルドで放置されていた見習いたちの教育を乗っ取って四日目。
成果は着実に出てますね。
「おい、なんで俺らマジックポーションの作製練習をしているんだ?」
「さあな。質問があるんだったら、あそこにいるギルドマスターに聞いてこい」
「いや、そこまでの疑問じゃないんだ。二日目で蒸留水を使った魔力水の作り方を覚えて、三日目午前中には一般品質のポーションをマスターした。そして午後には一般品質のディスポイズンまでできるようになった。俺たちってなにをやってるんだ?」
「錬金術の勉強だろう? ……まさか、十年かかると言われていたマジックポーションの作製が三日でできるなんて考えてもみなかったが」
「しかも、今の状況でも三回に二回は一般品質って……マジでやべぇよ」
「……それだけ今までの錬金術師ギルドが古くさい考え方に染まっていたんだろうよ」
「それにポーションを試飲してもあの不味さがまったくない。なんなんだよこれ……」
「それは三日前に説明を受けたはずだ。魔力水の作り方でポーションの味が変わるとな」
「俺たち、間違いなく錬金術師ギルドの最前線にいるぞ? まずくないか?」
「ギルドマスター直接の指導と指示だから仕方がない。なんで、俺たちが選ばれたのかは疑問だが」
ふむ、確かに彼らを選んだ理由は謎でしょう。
暇そうにしていて、古い考え方に染まっていないからと言えば納得してもらえるのでしょうか?
「おうおう、なんだこの部屋は! お前らなにを作ってやがる!」
突然扉が開けられたかと思うと、ひとりの男が乱入してきました。
しかも、酒臭いですね。
「なんですか、あなたは?」
「ああん? なんでガキがここにいる?」
「ちょ……ギルドマスターに失礼ですよ!」
「はっ、このガキがギルドマスターねぇ……なにを寝ぼけたことを」
「寝ぼけても冗談でもありませんよ。四日前から僕がギルドマスターです」
「ちっ、こんなガキでもギルドマスターが務まるとは……錬金術師ギルドも落ちぶれたもんだぜ」
「あああ……まずい、これ以上ギルドマスターを怒らせたら」
「落ちぶれたかどうか、その目で確認したらどうですか? 錬金術で勝負と参りましょう。お題は……ちょうど新人たちに練習させているマジックポーション。素材はすべて一般品質。これから高品質マジックポーションを先に十本作った方が勝利と言うことで」
「は? マジックポーションだと? そんなもの俺だって作った事が……」
「すみませんが素材を分けていただきます」
「は、はい。どうぞ……」
「さて、素材は行き渡りましたね。錬金台もあるはずです。では始めますよ。用意、スタート」
「ま、まて! 俺は錬金台を持ち歩いて……」
「もう終わりました。確認をどうぞ」
「へ……確かにマジックポーションが十本並んでいる? しかも高品質マジックポーション!?」
「すげぇ。ギルドマスターって一般品質の素材から一段階上のアイテムを作れたんだ!」
「もちろん、コツや必要な設備はあります。皆さんが扱っている初心者向けの錬金台よりもワングレード上の錬金台を用意させていただきました」
「な、そんな……俺だってマジックポーションなんて作ったことがないのに、こんなガキがマジックポーションをあの速さで作るなんて……」
「現実を見てもらいたいですね。こちら、気付け薬になります。酔いを覚ましてください」
「は、はい。……酔いは覚めました」
「結構。それではあなたに命じます。このまま錬金術師ギルドから去るか、僕の技術を学ぶか。選ぶ権利を与えましょう」
「ちょっと待ってください! 私には妻子がいます!」
「そんな事情、僕には関係ありません。さあ、どちらを選びますか?」
「……あなたの技術を学ばせていただきます」
「結構。では、見習いを卒業した錬金術師が集まるアトリエに案内してください。まさか、見習いを卒業しただけで個人個人にアトリエが与えられるわけではないでしょう?」
「は、はい。もちろんです」
「大いに結構。……さて、見習い諸君。あなたたちへの課題ですが、今日一日はこのままマジックポーションを作り続けてください。そして明日の朝、実力が十分だと判断したら高品質ポーションの作り方へとステップアップします」
「え、高品質ポーション?」
「あれってまぐれでできるものでは?」
「さっき僕がやって見せたでしょう。ポーションは全等級作り手の腕次第でどうとでもなります。僕が仕込めるのは高品質ポーションが限界だと感じますが、高品質マジックポーションの作り方なども記した教材を残していくのでご心配なく」
「え、限界って……?」
「ああ、初日に発表し損ねましたね。僕は十日間だけという約束で錬金術師ギルドのギルドマスターを引き受けた旅の錬金術師です。なので、残りの期間は六日間になります」
「……おい、なにがなんでもマジックポーションをマスターするぞ」
「もちろんだ。高品質ポーションを安定する方法が学べるなんて機会、今しかない」
「本気の本気だ。早速始めるぞ」
うむ、新人たちの気合いが入ったようで大いに結構。
さて、それでは新人を卒業した錬金術師が集まる部屋に案内していただきましょうか。
********************
「見習いを卒業した錬金術師が集まっているのはこのアトリエになります」
「そうですか。ちなみに、一般品質のポーション程度は確実に作れるんでしょうね?」
「ああ、いや……三回に一回程度です」
それを聞いた僕は頭を抱えてしまいました。
見習いを卒業してもこの体たらくとは……本当に情けない!
「あ、あの。ギルドマスター?」
「失礼。あまりにもレベルが低かったせいで、軽くめまいと絶望感を味わってしまいました。これでは、僕が指導している見習いたちの方が数段上のレベルとなっていますね」
「は、はい……」
この男が認めると言うことは実際にそうなのでしょう。
やれやれ、本当に骨が折れます。
「これ以上、ここで話をしていても始まりませんね。中に入りましょう」
「は、はい」
アトリエの中に足を踏み入れると……ものすごい異臭が立ちこめていました。
これは以前ティショウさんの頼みで作った、酷い味のポーションが発する匂いですね。
よくこの中にいて正気を保てるものです。
「……この部屋はいつもこのような感じなのですか?」
「は、はい。なにか不自然でしたでしょうか」
「すべてが不自然です! まったく、これではポーション作りを教えるどころの騒ぎではありません!」
僕は堪らずピュリフィケーションの魔法で空気その他を浄化します。
非常識と言われるもったいない使い方ですが、あまりにも我慢なりません!
「あ、なんだ?」
「よう、お前、ギルドに出てきていたのか……って、ギルドマスター!?」
「あの、ギルドマスターがこちらに何のご用事で……」
「ポーションの作り方を教えようと考えて来ました。来ましたが……あまりにも汚れていたので浄化魔法を使わせてもらった次第です」
「失礼ですが、ギルドマスター。ポーションの作り方など……」
「僕が三日間仕込んだ見習いたちですが、マジックポーションまで手を伸ばしていますよ? それも、あなたたち錬金術師ギルドが卸していたポーションと認めたくないほど不味いポーションではなく、きちんとした澄んだ味がするポーションです」
「は? なにを戯言を……」
「戯言と感じるのでしたら僕と一緒に見習いの作業部屋へ行きましょうか? ただ、彼らは明日から高品質ポーションを教えてもらうために全力を注いでいます。邪魔立てするようでしたら、相応の処分を覚悟していただきますが」
「おい?」
「この方が言っていることは本当だ。俺はこの目で見てきた。本当に見習い連中がマジックポーションを安定して作ってやがる」
「嘘だろう……」
「嘘だと思うのでしたらそれまでです。それで、あなたたちにも僕の講義を受けさせようと考えてきたのですが……この部屋ではとてもじゃありませんが講義はできませんね」
「俺たちにも講義をしてくださると!?」
「見習いたちだけでは生産能力が足りません。それに、熟練しているはずのあなた方が見習い未満の実力しかないのでは立つ瀬が無いでしょう? もっとも、今から教えても彼らには追いつけませんが」
「それはどういう……」
「ギルドマスターは十日間限定でこの役目を引き受けてくれたそうだ。だから、俺たちの指導ができるのは最大でもあと六日間しかないんだよ」
「な……」
「そういうわけです。今日は全力でこの部屋の清掃にあたってください。その異臭しか放たないゴミもちゃんと手順を守って廃棄するように。埃ひとつ残さないくらい部屋が綺麗になっていたら、明日の午後からあなたたちへの指導も始めます。いいですね?」
「「「は、はい」」」
「不服があるようですが……とりあえずよしとしましょう。まともなポーションすら作れない相手と錬金術勝負をしても時間の無駄ですから。それでは、僕は見習い組の指導に戻らせていただきます。これにて失礼」
僕は汚れきったアトリエを去り、見習い組の部屋へと戻っていきます。
ちゃんと指導を受けるつもりがあるのか、疑問ですが受けるつもりがないなら見放すとしましょう。
********************
「……なあ、あの人の実力ってそれほどなのか?」
「もちろんだ。本当に見習い連中がマジックポーションを一般品質安定させてやがった」
「信じられないが、このままだと新人たちに居場所を取って代わられるのがオチか」
「仕方がない。俺たちも指導を受けるとするか……」
「……で、この部屋をかたづけるってどうやるよ?」
「俺に聞くな。ともかく、一刻も早くやるぞ。猶予は明日の午前中までだ」
一般錬金術師たちもなんとか清掃を間に合わせることができ、翌日から講義を受けられるのだった。
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