218.街付近の『聖獣の泉』作製
聖獣の森を作って以降、また弟子たちの指導で三日ばかり手が離せんませんでした。
次の『聖獣の泉』を作るためには僕とアリア、双方の力が必要となるため仕方がありません。
そんな中、手の空いた日を見計らって冒険者ギルドを訪れることができました。
目的は、ティショウさんと今後の打ち合わせだったのですが、意外な方から声をかけられます。
「よう、スヴェイン。元気にしてたか?」
「これはバードさん。最近は弟子の指導だけで手一杯な日々が続いていますが、元気ですよ」
「そういえば、最近はユニコーンに乗って跳ね回っていた『カーバンクル』も見かけなくなったな」
「彼女たちも魔法修行で手一杯ということです。バードさんたちはどうですか?」
「最近は『聖獣の森』にできた『試練の道』に挑ませてもらってるよ。俺は二十回ちょっとでクリアできたが、ほかのメンバーはまだだ」
「それって『初心者向け』ですか?」
「バカ言うな『超々初心者向け』だよ。聖獣ども一切遠慮がねぇ。気がついたらやられて入り口だ」
でしょうね。
彼らは『試練の道』に挑むものに容赦などいたしません。
「それで、『超々初心者向け』のクリア報酬で『妖精の花』をもらっちまったが、いいのか?」
「聖獣たちが終点に用意していたのでしたら構わないでしょう」
「あれ商業ギルドで買い取ってもらったが、金貨三十枚になったぞ?」
「構わないんじゃないですか? 冒険者ギルドに持ち込まなくてもよかったので?」
「冒険者ギルドには断られたんだよ。そんな貴重なものは商業ギルドに回してください、ってな」
ふむ、『超々初心者向け』で妖精の花ですか。
そうなると『超初心者向け』ではなにを用意しているのやら。
「聖獣の森を作ったのにはお前も一枚噛んでいるんだろう? 本当にいいのか?」
「聖獣の森ではそこら中に咲いている花ですからね。構わないのでしょう」
「やべぇな。聖獣の森」
「邪な心をもって入らないことをおすすめします。容赦なく襲ってきますので」
「わかってるよ。手加減されていた事くらいな。『超初心者向け』をクリアできるのはいつになるやら……」
「ははは……。僕はティショウさんのところに向かいますので」
「おう。引き留めて悪かったな」
さて、あらためてティショウさんとお話です。
ですがティショウさんもミストさんも表情が暗いですね。
一体なにが?
「おふたりともなにがありました?」
「ん? ああ。『超々初心者向け』がクリアできねえ……」
「ギルドマスターとサブマスターとして威厳が保てません……」
なるほど、僕にはよくわかりませんが由々しき事態なのでしょう。
ですが、こちらの話も聞いてもらわねば。
「ティショウさん、ミストさん。延び延びになっていたコンソールそばの『聖獣の泉』を二日後、ようやく作れそうです」
「そうか……立ち会いはジェラルドの爺さんでもいいんじゃねえか?」
「そのジェラルドさんからティショウさんたちに立ち会ってもらえとの指示です」
「はあ、仕方がねえか」
「気乗りはしませんが、これもお仕事です」
ふたりとも大分落ち込んでますね。
ただ、こればかりは自分たちの手で乗り越えてもらわなければ。
「それでは二日後、昼から始めますのでよろしくお願いします」
「わかった。どうやるんだ?」
「たいした作業ではありません。アリアの『クリエイトアース』で湖の形を作ってもらったあと、僕が『セイクリッドシャワー』で水を溜めるだけです」
「溜めるだけです、って高等技術だからな!?」
「たいした作業じゃありません。大きな湖では『セイクリッドクラウド』で雨水を降らせなければいけませんし」
「途方もない大作業ですわ……」
「ではまた、二日後に」
「簡単に言ってくれるな、おい!?」
実際簡単ですからね。
種も仕掛けもない力技です。
********************
「さて、立ち会いに来たわけだが……今の『カーバンクル』って空を飛ぶんだな……」
「はい!」
「飛行能力を持つ聖獣と契約できましたので」
「むちゃくちゃぶりも師匠に似てきたな、おい」
失礼な。
まあ、いいでしょう。
さっさとやって終わらせましょうか。
「アリア、準備はよろしいですね?」
「はい。では『クリエイトアース』!」
アリアの魔法によりなにもなかった大地に大きな窪地ができます。
第一段階はこれで終了ですね。
「……本当に『クリエイトアース』なんですね」
「規模が違うな」
「この規模はアリアでもそれなりに魔力を使うのですよ? では、仕上げを『セイクリッドシャワー』!」
僕の聖魔法によって水がどんどんと溜まっていきます。
さて、水棲系の聖獣や精霊は現れてくれるでしょうか?
『ぷは! ようやくやってくる事ができた!』
「おいおい、マーメイドじゃねぇか」
「海にしか生息しないのでは?」
『神聖系の泉ならどこでも行けるよ?』
「マーメイドさん。来てもらったばかりで悪いのですが……」
『この湖の環境を整えればいいんだね。私好みでいい?』
「ええ。そうすればウンディーネを含め水属性の聖獣や精霊が寄り集まるでしょう」
『はーい。数日待っててねー』
それだけ言い残すと、マーメイドはちゃぽんと湖の中に戻っていきました。
あとは彼女のいうとおり待つだけでしょう。
「おい、これでいいのかよ?」
「最初に来てくれたのがマーメイドだったのは幸運ですね。あの様子だとこの街に興味津々だったのでしょう」
「本当でしょうか?」
「あとは数日待つだけですわ。一週間後くらいに様子を見に参りましょう」
「まあ、それでいいって言うなら」
「不安ですわね……」
********************
さて、約束の一週間後。
予想以上に賑やかになっていますね。
「なんだこりゃ!? セイレーンまでいるじゃねえか!?」
「マーメイドに呼ばれて来たのでしたら悪さはしないでしょう。それにウンディーネたちが集まっていますから、かなり水が清浄化されますよ」
「あ、ああ」
「これほど簡単に聖獣の泉ができるだなんて……」
「条件さえ揃えばあとは最初の聖獣が来てくれるのを待つだけですわ」
「すぐにマーメイドが来てくれたのは実に幸運でした」
そのあとも湖は賑やかさをどんどん増していき、拡張してほしいという要望まで出始めました。
近日中に新しい泉を作るのでそれまで待ってほしいとなだめすかしましたが……急がないといけませんね。
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