聖獣探し

281.挿話-20 『聖獣郷』へ

「うわー! コンソールの街があんなに小さいのです!」


「本当だ! 普段はクリスタルたちもこんなに高く飛んでくれないものね!」


「アリア様! 落ちないんですよね!? 私落ちたらぺしゃんこですよ!?」


「おとなしくしてれば落ちません。……おとなしくしてなくても飛び降りなければ落ちないんでしたっけ?」


『背中に乗っている人間を落とすなんて不手際するわけがないでしょう?』


「にぎやかですねえ」


『ほんとうだね』


 今日から錬金術師ギルドには一週間ほどおやすみをいただき、『聖獣郷』でミライさんの騎獣探しです。


 ミライさんの補佐も短い間で大分育ったらしく、ミライさん抜きでどれだけ仕事が回るか試したいとのこと。


 薬草はたっぷり置いてきましたし、どうにでもなるでしょう。


「アリア様! スヴェイン様! 本当にこんな高く飛ばなくてはいけないんですか!?」


「はい。僕たちの拠点はこの山の向こうですから」


「あれ? 思ったよりも近いのです」


「うん。もっと遠くだと考えていました」


「ウィングとユニなら三十分ですよ。ほとんど山越えするための時間ですが」


「この山を歩いて登るのは無理です」


「ほとんど崖だもんね」


「そういうことです。なので飛行できる聖獣たちですよ」


「なるほどです。それにしてもなんで私たちまで先生たちの拠点に?」


「はい。もっと先の話だとばかり」


「ミライさんを連れて行くのです。弟子のあなたたちを連れて行かないのも不義理でしょう?」


「ただし、家の案内はしますが隠してある設備の紹介はいたしません。私どもが十分だと感じたらそれらも説明いたします」


「そのときを楽しみにしているのです!」


「はい!」


「では、スピードを上げます。このペースでは山越えに二時間かかりますからね」


「ちょ!? まだ遅いんですか!!」


「ミライさん。あなたもスヴェイン様の婚約者なのですから慣れなさいな」


「……覚悟を決めました。どうぞ!」


「では。ルビー、クリスタル! 遅れずについてきなさい!」


 ウィングとユニはぐんぐんスピードを上げます。


 ルビーたちもそれに遅れずついてきていますね。


「やっぱり怖いー!」


 ミライさんはダメなようですが。



********************



「はあ、はあ。地面っていいものです」


「ミライ様……」


『大丈夫なのかしら?』


 ミライさんだけは『聖獣郷』にたどり着いた時点で倒れ込み、弟子たちはキャッキャとはしゃいでいます。


 なぜなら……。


「街で見かけない聖獣さんがいっぱいです!」


「見てよあのドラゴン! 普段、街を守ってくれているドラゴンよりもおっきいよ!」


 こういうところは年相応の少女ですね。


 連れてきて正解でした。


『ふむ。お前たちがスヴェイン様の弟子か。私は街に行けないので会うのは初めてだな』


「初めまして!」


「初めまして」


『礼儀も正しい。スヴェイン様好みの弟子だ』


「ドラゴンさんのお名前はなんでしょう?」


「ボクも気になります」


『スヴェイン様よりいただいた名前は『パンツァー』。人間たちから見た種族名はない』


「種族名がないのです?」


「それはなぜでしょう?」


『人間たちに我々が観測された試しがないからだ。さすがに人間から認識されなければ人間たちからの種族名などつくはずもない』


「なるほど……」


「ためになります」


『それほどでもないがな。どれ、私の背中にでも乗せて……』


「ダメですよパンツァー。『聖獣郷』を案内したいのでしょうが、あなたの背中に乗せては危ないです」


『……仕方があるまい。すまぬな、弟子たち』


「気にしてないのです」


「お気遣いいただき、ありがとうございます」


『うむ』


 パンツァー、ご機嫌ですね。


 普段話せない相手と話せる、しかもそれが僕の弟子。


 それがたまらないのでしょう。


「スヴェインさまぁ。なんでお弟子さんたちはドラゴンと普通に会話してるんですかぁ?」


「恐怖などよりも好奇心が勝っているからですよ。それにここにいるのはすべて聖獣であり、僕が契約しているものばかり。本能で恐怖を感じず好奇心を刺激されるのでしょう」


「やっぱり『カーバンクル』様方って恐ろしい……」


「ふむ。ニーベちゃん、エリナちゃん。しばらくルビーとクリスタルで空の散歩を楽しんできてもいいですよ」


「本当ですか!?」


「いいんですか!?」


「ええ。ルビーたちなら『聖獣郷』の範囲もわかるはずです。外に飛び出すような危ない真似はしません」


「やったのです! ルビー!」


「クリスタル、行こう!」


 早速とばかりにそれぞれの聖獣に乗って飛び出すふたり。


 よっぽど嬉しいのですね。


「あらあら。ふたりはもう出かけてしまいましたか」


「はい。うずうずしていたので許可を出しました」


「ミライ様のように怯えているだけより数段上ですね」


「うう、まだ地面が恋しい」


 ふう、これではミライさんの聖獣探しはこの分だと明日以降ですね。


 ……いまはまだ遊ばせておきましょう。

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