282.挿話-21 聖獣探し

「ああ、楽しかったのです!」


「『聖獣郷』って広いんですね!」


 お昼頃、お腹がすいたのかと考えていたのですが単に『聖獣郷』を一回りし終えただけの弟子たちが戻ってきました。


 なお、ミライさんはさすがに地面から離れて庭にある椅子に座っています。


「ふたりとも、楽しんできたようですがお昼ですよ」


「はいです!」


「はい、もうそんな時間なんですね」


「あなた方、放っておいたら夕暮れまで飛び続けていませんでしたか?」


「そんなことはないですよ?」


「さすがにそこまでは」


「目をそらしてもダメです」


 本当にこの子たちはわかりやすい。


 ともかく、椅子に座らせてお昼ご飯です。


「お昼、持ってきたよ!」


「あ、ラベンダーちゃん!」


「ニーベちゃん、久しぶり! でも、お昼ご飯の配膳があるからちょっと待っててね!」


「はいです!」


 そういえば人前でラベンダーを召喚する機会もありませんでしたね。


 あとで彼女も紹介しなければ。


「あ、この味。スヴェイン様のお弁当と同じ味です」


「……ミライ様?」


「ごめんなさい! アリア様! ときどきスヴェイン様のお弁当を分けていただいてました!」


「はあ、まあいいでしょう」


「ふたりとも、仲良くしてくださいね?」


「ミライ様が節度をわきまえるかです」


「……申し訳ありません」


 完全にアリアの方が立場が上です。


 ミライさん、節度をわきまえましょう。


 お昼が終わったらラベンダーのことを皆に紹介し、弟子たちが遊びへと行く前に捕まえます。


「ニーベちゃん、エリナちゃん。僕たちはあなた方を遊ばせるためだけに連れてきた訳ではありませんよ?」


「ごめんなさいです」


「ついはしゃいでしまって」


「謝られるほどでもないのですが。あなた方をここに連れてきたのは【聖獣契約】を試すためです」


「聖獣契約ですか?」


「もうアメシストやクリスタルがいるのに?」


「はい。実を言うと僕の契約している聖獣の中であなた方に目をつけている聖獣が何匹もいます。その中から、いまのあなた方でも契約可能な聖獣をピックアップして契約を結ばせます」


「先生、一週間も外出許可を取ってきたのって……」


「はい。聖獣契約をいろいろ試すからです。最近は僕のところにまで要望を上げてくるようになったのですよ」


「それは……」


「と言うわけで、あなた方には今契約できる聖獣たちとの契約を行っていただきます。普段は姿を隠すなりなんなりしてますが、呼べば姿を見せますし、呼ばなくてもどこにいるかわかるようになります。ボディーガードが増えるとでも考え受け入れてください」


「わかりました!」


「喜んで」


 聞き分けのいい子たちで助かりました。


 拒否されたらどうしようかと。


「私はかわいい子が優先したいです!」


「ボクは強そうな聖獣さんがいいですね」


 ……意外と要望が強い。


 対象になりそうな聖獣ははしゃいでますし、対象外の聖獣は落ち込み始めました。


 あなた方にもいずれ順番が回ってきますからいまは諦めてください。


「スヴェイン様。私とミライ様は騎獣探しに行って参ります」


「ええ。こちらはこちらで大変そうですので」


「はい。では行きましょうか、ミライ様」


「は、はい!」


 ミライさん、完全にアリアの言いなりです。


 あんな人だったかなぁ……。



********************



 ミライ様を連れて草原地帯へとやってきました。


 ここなら空の聖獣も陸の聖獣も集まりやすいでしょう。


 水の聖獣は……申し訳ありませんが今回も選考の対象外です。


「さて、ミライ様。これからあなたの騎獣を……ミライ様?」


「はい! 聞いております!」


「あのですね、ミライ様? この先私たちはスヴェイン様を支えていくのですよ? あなたがその調子では困ります」


「いや、だって……すごいたくさんの視線を感じるんですよ。さっきからずっと」


 ふむ、確かに勘はいいようです。


 ああ、聖獣たち、更に気配を潜めないように。


 余計怖がらせますよ?


「さて、騎獣を探す前にあなたの知恵袋を紹介します。おいでなさい、シェビィ」


『はいはーい』


 草原から飛び出してきたのは額に水色の宝玉を持つウサギ。


 私の肩に乗るほど小型なウサギです。


「うわ。可愛い……」


「この子はワイズマンズ・ラビットのシェビィ。あなたの知恵袋になってくれるはずです」


『よろしくね。ミライ!』


「よろしくお願いします。シェビィさん」


『さん付けはいらないよ。あとかしこまった口調もいらない。その程度でワイズマンズは怒らないさ』


「ええと。よろしくね、シェビィ」


『うん、よろしく』


「そう見えてもカーバンクルと同程度の結界を張れます。護衛としても十分な実力がありますので普段から連れ歩いてください」


「そんなすごい子、預かってもいいんですか?」


「シェビィが望んでいることです。存分に力を借りなさい」


「は、はい!」


『完全にアリアの尻に敷かれてるね』


「余計な事はいわなくてよろしい。さて、ここからが本格的な騎獣選びですが……本当にせっかちです」


「え?」


「出てきてもいいですよ。マサムネ」


 姿を現したのは片刃の尾を持つライオン。


 ブレードリオンですね。


 ただし、その大きさは体高だけでも私より大きく、ティショウ様に挑んでいると言うブレードリオンよりも遙かに格上でしょう。


「あ、あの?」


「この子はブレードリオンのマサムネ。武人であり、ゆくゆくはスヴェイン様の妻となるあなたの警護を担当したいそうですが……」


「……ごめんなさい、怖いです」


「もう少し小さくもなれますよ? 尾の大きさは変わりませんが」


「うぅ……この子じゃなくちゃダメですか?」


「できれば。この子が最初に姿を見せたということは聖獣同士のよくわからない力比べで勝ったのでしょうし、護衛役としてもいろいろな意味で優秀です。……正直、一番角が立ちません」


「アリア様……」


「私とて聖獣の思考は理解できないのです」


「よくアリア様はユニに乗っていられますね?」


「ユニとは五歳の頃からの付き合いです。なので、ほかの聖獣たちも割って入るような真似はしませんしできません。そこに新しくあなたが加わったことで聖獣たちのポジション争いが激化しているのです」


「私、どうすれば?」


「とりあえず『あなたの騎獣候補になれた』聖獣たちすべてと会ってみますか? 今日一日……どころか三日は潰れますが」


「そんなに多いんですか……」


「陸の聖獣だけでなく空の聖獣たちもこぞって名乗りを上げています。ぶっちゃけ、すべての聖獣たちと面通しするなどと言い出したら一週間どころか一カ月でも足りません」


「……三日間コースでお願いします」


「だそうです、マサムネ。一度引き下がってください」


「グルゥ……」


 さて、あの数と面通しですか。


 私でも気が遠くなりそうなのにミライ様はもつのでしょうか……。



********************



「この子も可愛いのです!」


「この聖獣さんも強そうでいいですね」


 聖獣郷に滞在するのも明日で最後。


 弟子たちは自分好みの聖獣たちとの契約を次々と結んでいきます。


 ふたりの魔力も知らない間にかなり伸びていました。


 山越えには一カ月以上かかる子も契約していますし、皆を運ぶにはロック鳥を使わねばなりませんね。


 そういえばアリアに任せていたミライさんの騎獣はどうなったのでしょう?


「ただいま戻りましたわ」


「ただいま戻りました……」


「お帰りなさい。ああ、やっぱりマサムネに落ち着きましたか」


「他の子たちの多種多様さに比べるとマサムネのシンプルさが一番だったそうですわ」


「聖獣って……聖獣って……」


「神秘的だとか神聖なものだとかそういうイメージは捨てるといいですよ。身近な隣人程度に考えましょう。少なくとも僕のそばにいる間は」


「はい……マサムネとなら一番うまくやっていけそうなので、この子を選びました、はい」


「それがいいです。その子は武人ですし、なにがあってもあなたを守ってくれますよ。僕並みの聖魔法使いでもあります」


「これ以上の情報は頭が拒否します……」


 ……これはダメなやつです。


 新しいローブも今のうちに渡してしまい拒否されないようにしますか。

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