280.冬の終わりのギルド評議会

「それでは定刻となった。ギルド評議会を開催する」


 僕が再び嵐を起こしたあと、ギルド評議会はまた行われなくなりました。


 この街の機能、停止してませんよね?


「まずは錬金術師ギルドマスター、いや、スヴェイン殿に感謝を」


「は?」


「スヴェイン殿が動いてくれたおかげで勘違いものがほとんどいなくなった。まだ時折現れるが……新しい外壁ができたばかりの頃に比べれば非常に少ない」


「そうですね。私の鍛冶ギルドとしても大変ありがたい。そして、新規入門希望者が続々と現れて……支部を第二街壁の内側に建てる計画まで浮上しています」


「服飾もです。さすがはシュミットの講師。人を燃えさせるのは得意だ」


「宝飾もですが……講義があったあとの数日間は大変でした。指導が普段よりも厳しくなっており、ついていくのがやっとです」


「建築もだぜ。よっぽど酷かったんだろうな」


「……申し訳ありません」


 すべてのギルドにお願いして回った結果、どこのギルドでも引き受けていただけました。


 ただ、講師陣はあまりのふがいなさに毎回腹を立て……。


「まあ、過ぎたことは仕方があるまい。おかげで新規の人口流入も大分落ち着いた」


「それはよかった……のですか?」


「うむ。よかったのだ。あのままではコンソールが機能不全を起こしかねなかったからな」


「お前さんところの支部が機能不全を起こしかけたのと同じだ。いきなり人が増えすぎてもいけねえんだよ」


「治政って難しいですね」


「……元お貴族様の嫡男がそれを言うか?」


 僕の発言で会場がドッと笑いに包まれます。


 ミライさんまで笑っている始末。


 そんなにおかしなことを言いましたかね?


「まあ、スヴェイン殿の発言はよいとしよう。錬金術師ギルドマスター、申し訳ないが第二支部の開業はしばらく待っていただきたい」


「はて、なぜでしょう?」


「各ギルドで支部を設けたいという案が出てしまいました。事務員募集もそれに伴いすごい量に」


「さすがにお前らのところみたいな『三次面接』ができないのは痛いらしい。だが、『良質な』事務員はどこでもほしいんだよ」


「左様。錬金術師ギルドが大量の雇用待ち人材を抱えているのは理解している。だが、我々もギルド支部を設け、新しい人材育成を始めるべき時が来てしまったのだ」


「まさか半年でこうなるとは考えもしませんでしたが……」


「それだけ『職業優位論』に嫌気がさしていた人間が多いってことだ。この街ならやる気次第でいくらでもチャンスが与えられるんだからよ」


 そうですか……そこまで。


 そこまで?


「あの、素朴な疑問なんですが」


「なにかね、錬金術師ギルドマスター」


「この街って国から攻められていないのでしょうか?」


「ああ、その話か」


「何度も軍隊を向けられてるぜ? その都度、ドラゴンどもが軽く終わってるがよ」


「……僕、一度もその話を聞いていません」


「ギルド評議会としては無用な心配をかけさせぬために黙っていた」


「ドラゴンたちも似たようなもんだろう。あるいは、攻め込んできた、って言う認識すらないか」


「最近では国としての基盤すら揺らぎ始めているらしい。最上位竜などという災害を超える相手に無謀な戦いを挑み続け戦費がかさみ、『コンソールブランド』を抑えるどころか勢いが増すばかりで各ギルドから不満が漏れ始めている」


「それでもシュミット公国との会談は蹴り続けているのです。愚かを通り越してなんと呼べばいいのかすらわからない」


 そうですか。


 ここでもまた『国崩しの聖獣使い』は健在ですか……。


 ん?


「ですが、『コンソールブランド』は高級品ですよね? 平民が……」


「平民様向けの低価格品も多数用意して販売しております。高値が続いているのはポーション類くらいですよ、錬金術師ギルドマスター」


「……商業ギルドマスター。あなたが『国崩し』では?」


「さて、なんのことやら?」


「まあ、そういうわけだ。各ギルドともに正常化の動きが見え始めている。それで問題は……」


「建築ギルドで使う木材が足りなくなってきた。ほかの街から輸入しても追いつかねえ」


「馬車ギルドもでございます。低品質な木材では満足な『コンソールブランド』を作れません。困ったものです」


「木材……木材?」


 あれ?


 そういえば、僕、案内してませんでしたよね……。


「申し訳ありません。木材でしたら『聖獣の森』から調達できます。彼らの許可する範囲内であれば木材をいくらでも切り出して構いません」


「錬金術師ギルドマスター……」


「そういうことはさっさと教えろ!」


「申し訳ない。ただ、普通の鋼程度では傷ひとつつきません。専用の伐採道具や加工道具を用意する必要があります」


「それは鍛冶ギルドに来ているシュミットの講師にお願いすれば用意していただけますでしょうか?」


「おそらく難しいです。刃の部分に少量とは言えオリハルコンを混ぜないといけないはずです。彼らの手には余る代物かと」


「じゃあ公太女様だな」


「はい。シャルに頼んで輸入してもらうしか」


「ふむ。それにはどれくらいの時間がかかる?」


「どうでしょう? 素材は僕が渡せますが、僕には道具が作れない……いえ、斧は作れるのですがほかの道具は作れません。細かい加工も必要となるでしょうし、いまから発注して春の中頃かと」


「しかたがないですな」


「それまではだましだましやるか」


「本当に申し訳ありません」


「では、申し訳ないが評議会が終わってすぐに公太女様に繋ぎを」


「わかりました」


「ほかに議題のあるものは?」


「では、私めから。錬金術師ギルドマスター、ポーションの納品数を増やせませんかな?」


「商業ギルドマスター。さすがに無理です。本部も支部もフル稼働しています。空きができれば少数ですが募集をかけます。それまでお待ちを」


「おや? 空きができる予定が?」


「愚か者には鉄槌を。それが『新生コンソール錬金術師ギルド』の方針らしいので」


「怖いですな。ですが、それくらいでないと今の『新生コンソール錬金術師ギルド』ではやっていけますまい」


「はい。恐怖で支配するつもりはありません。ですが、努力を忘れたものに席はないことくらいは思い知っていただかないと」


「まったくです。せっかく私たちが選りすぐった人材ですのに……」


「僕たちが直接熱を入れられなかったのが原因でしょう。ですが、今後を考えると仕方がありません」


 本当に。


 努力することを忘れるとは嘆かわしい。


「では、ほかに議題のあるものは?」


 今度こそ新たな議題はなし。


 もう冬も終わり、春の季節です。


 去年はシャルに呼び出されてシュミットへいったのでコンソールで春を過ごすのは初めてですね……。

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