405.第一次薬草栽培結果報告

「……以上のように薬草栽培の正しい手順を踏まなかった場合、薬草の生育状況に大きな違いが出ることがわかりました。品質差は今のところ確認できていませんが世代を重ねれば確実に出ると考えられます。また、魔力水の品質にブレがあった場合も薬草の生育状態が悪くなることが今のところ推測されます。こちらの方はシュミット講師によって実験栽培を行い、実証実験を行います」


 三回目の薬草栽培が終了し、その結果をまとめ終わったためギルド評議会にて結果報告です。


 成育状況のブレが原因不明のままでなくて本当によかった。


「ふむ。それで、今後の改善点は?」


「まずは支部の第一位錬金術師たちに魔力水の品質を安定させることから始めさせました。これができないと今後の栽培にも大きな支障が出ます。また、同時に土魔法の練習も早い段階から始めさせようと考えています。はっきり言って、一回目だけではなく二回目、三回目も立ち会ったものによれば手際が悪く、人工的な魔力溜まりもあまり良質ではなかったそうです」


「人工的な魔力溜まり、ですか。ほかに活用する方法はないのでしょうか?」


「すみません。薬草や霊草、魔力を必要とする樹木くらいしか活用した経験がありません。あと、人工的とは言え魔力溜まりは魔力溜まり。モンスターが寄りつきやすく、自然生物が逃げやすくなります」


「なるほどなあ。ちなみに、モンスターが寄りつきやすいってどの程度なんだ?」


「よほど近づかれない限り無視されます。維持できる期間も短いのでほぼ意味はありません。飛行系のモンスターに感知できるような魔力もたまりませんし」


「しかしそれは薬草の場合であろう? 上位の薬草類になった場合は?」


「中位薬草……上薬草や上魔草の場合はあまり変わりません。上位薬草である霊薬草クラスになると注意が必要となるため結界が必要ですが、そもそもそのクラスを育てるには魔力を逃がさないためにも結界が必要です。なので実質的には問題は出ないかと」


 評議会の皆さんからは安堵の溜息がこぼれました。


 さすがに人工的な魔力溜まりとはいえども魔力溜まり、気になっていたのでしょう。


「ひとまず実験栽培はこのまま続けるのかね?」


「はい。あまり芳しくない結果が出ているため春までは薬草のみでいく予定です。そのあと、風治草や魔草などバリエーションを増やして薬草管理の経験を積ませます」


「わかった。土地は?」


「あまり使えていません。第三回までの成果が想像以上に悪かったため範囲を広げられませんでした。さすがに春までにはあの農地を使い切る予定ですが、最高品質の薬草が採取できるようになるかは未知数です」


「まて、最高品質の薬草ってそんな簡単に栽培できちまうのか?」


「高品質の種があれば三回か四回ほどで最高品質に届きます。もちろん土魔法で十分な栄養を土地に与え、最高品質の魔力水を散布し続けての話になりますが」


「意外と簡単なのですな」


「ええ、まあ。条件さえ揃えば最高品質の維持も簡単です。第二位錬金術師たちに与えている実験栽培場では高品質維持も行っているそうですが……今ではそちらの方が大変だと」


「ほかに補助的な手段はないのかね?」


「可能でしたら宝飾ギルドに『土魔法強化』のエンチャントがかかったアクセサリーを卸していただきたいです。適正価格で買い取ります」


「どうだね、宝飾ギルド?」


「まだ難しいですね。確かに属性魔法強化のエンチャントも習い始めました。ですがまだまだ付与が安定しているとは言えず、まとまった数を卸すことは不可能。錬金術師ギルドマスターの方がそういった分野はお得意では?」


「得意です。ですが、僕がいなくなった途端、機能しなくなる施策では意味がありません。エンチャントの練習と割り切っていただいても構いませんので、できればまとまった数を売っていただけると助かります」


 本当に僕が手を出してしまうとすぐに終わるのですが……実験栽培として行ってもらっている第二位錬金術師たちはともかく、本格栽培を目指す今回の栽培はダメでしょう。


 申し訳ないですが、宝飾ギルドに頑張っていただかねば。


「ちなみに宝飾ギルド以外のエンチャントでは?」


「鍛冶ギルドは無理です。今習っているのは攻撃および防御系のみ。魔法強化なんて習っていません」


「服飾もです。服作りや強度などに関するものは習っていますが魔法に関するものは……」


「魔術師ギルドは?」


「我々は魔導具作りを専門に習っていまして、エンチャントアイテムはまだ早いと言われています。おそらくエンチャントを習い始めても魔導具関連が優先でおそらく魔法関連はまだ先でしょう」


「ふむ……錬金術師ギルドマスター。なぜ宝飾ギルドに依頼を?」


「シュミットだから、としか。シュミット講師陣の教える順序はそれぞれ決まっていて初期段階だと鍛冶は物理強化、服飾は生活強化、魔法は魔導具活性化、宝飾は魔力強化となっています。【自動サイズ調整】はできて当たり前なので、その上にかける一番容量の少ない付与として微弱な属性強化を習っている頃合いかと」


「まさにその通りですからたまりませんな。エンチャントをかけるアクセサリーはなんでもよろしいので?」


「できればブレスレットに。指輪だと【自動サイズ調整】との重ねがけになるので難しいでしょうし、ネックレスは首回りサイズもありますし引っかけて切れるおそれがあります。イヤリングなどは畑仕事中に落とすと見つからない可能性もあるので、ある程度汎用製があるブレスレットが望ましいです。装飾等はいりませんし素材もエンチャントが付与されていれば銀で構いません」


「かしこまりました。エンチャント修行の一環としてその受注、承りましょう」


「話はまとまったようだな。しかし、錬金術師ギルドマスターがエンチャントアイテムを最初から頼るというのも珍しい」


「今回ばかりは事情が違います。初期段階で補助はあったほうがいい。今のところ毎回毎回新しく栽培を開始するたび、第二位錬金術師たちが再指導のため動き回っています。彼らの手を空けるためにもできる手は早めに打ちたいのが本音なんですよ」


「想像以上に大仕事だな」


「ええ、まったく。僕や弟子たち、第二位錬金術師にシュミット講師陣は栽培経験上まったく引っかからなかったため、問題点の洗い出しだけでこの一カ月を過ごしました」


 本当に大変でしたよ。


 アシャリさんの一言がなければいまだに悩んでいた可能性すらあります。


「とりあえず僕からは以上です。次回の報告はまた三回収穫したあとを予定しています。そのときには僕の手助けなしで高品質な種が収穫できているといいのですが」


「望み薄なのかね?」


「いえ。本部の錬金術師たちはなんとかなるのですが……」


「支部の連中か」


「はい。どうにもあちらは大変そうです」


「薬草栽培、道は険しそうですな」


「本当です。シュベルトマン侯爵には僕の知識すべてを渡していますが……どうなっているのか」


「それな、調べてみたがあっちはあっちで最初は苦労したが今はある程度実になってきたみたいだぞ」


「はあ。僕らも急がねばなりませんね」


「急いでどうにかなるのかね?」


「……育成サイクルが決まっているのでどうにもなりません」


 打つ手なしとはまさにこのこと。


 最初期の見落としが響いてしまいました。

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