404.第三回目の進捗状況

 本日はギルドマスタールームにて第三回目の薬草栽培進捗確認です。


 ちょうど二回目の薬草採取が終わった日なので、いろいろと課題も見えてきたのではないかと考えて集まっていただきました。


 メンバーはウエルナさん、第二位錬金術師数名、今日朝の状況をこっそり確認に行ったニーベちゃんとエリナちゃんです。


「まず、俺から。やっぱり本部と支部で差ができちまってる。今回は全員に一般品質の種を渡しているが、本部の連中の薬草がみずみずしく葉のサイズも大きい」


「ウエルナさんの言うとおりです。支部の方の薬草はまばらなのです」


「薬草の葉、同じ株でもサイズが違いました。おそらく毎日の魔力水濃度に差があるのでしょう」


「俺たちも同じ意見です。あと、『猫の額』で実験している下級品の種ですが根付きませんでした。最高品質の魔力水でもダメだったんであれは完全な不良品ですね」


「そうですか……」


 困りましたね……ここまで大差ができているとは。


 どうするべきか。


「ちなみに、最適色の魔力水はどの程度確認されていますか?」


「上位の連中は熱心に見ていますが……再現はまったく。最初っから再現を目指していたニーベさんとエリナさん、比較的初期から最適色を見せられていた本部の第一位錬金術師とは格が違いますね」


「ちなみにシュミットってどうしてますか?」


「シュミットでも最適色を教えられるのは中位以上、つまりミドルポーションに入った頃です。薬草栽培はそれより前に始めますし、ここまで酷い状況になることもありません」


「うーん……」


 どうしましょうね?


 このままでは、本当に薬草栽培が軌道に乗りません。


「とりあえず、今後は最適色を目指させるべきでしょうか?」


「いや、それも難しいでしょう。ニーベさんとエリナさんは最初期から取り組んできたからこそ、息をするように最適色に近い魔力水を作るんです。今の支部ではそれを再現するのは難しいですよ」


「そうですか。でも、シュミットでも条件は同じなんですよね?」


「ええ。今回は念入りに土壌も行って魔力溜まりを発生させやすくしました。それでもこの状況なんですよ」


「ふむ……『猫の額』は?」


「すみません。もう全体を使ってるんでこれ以上は……」


「弱りましたね。弟子の畑も満杯。聖獣農園も使ってしまえば一発で最高品質ができてしまう。このままでは、新しい休耕地を借りて一から試験栽培をやり直す方が早いかもしれません」


「あの、魔力水を畑まで運んでいる途中で魔力が抜ける可能性は?」


「エリナさん。その可能性は俺が潰した。畑に撒く魔力水は毎日その場で作るように徹底指導してある。もし守っていないやつがいたら、本当に失格だ。それに距離でいえば第一支部の方が本部より近い」


「……それもそうですね。ありがとうございます、ウエルナさん」


「じゃあ、やっぱり魔力水のムラです?」


「それと最初に土を混ぜ返すときの魔力の溜め方が悪いかだな」


「むーん……」


 弱りましたね、ここまで酷い結果が出るなんて。


 最初の数回、枯れる株が出る程度は予想していたのですが……。


 品質のばらつきがありすぎるなんて想像もしてませんでした。


「スヴェイン様、第三回目の結果が出たらレポートにまとめて評議会なんでしょう? 大丈夫なんですか?」


「いえ、悪い結果なら悪い結果なりにいいんですよ。今後の改善点をあげればいいんですから。ただ……」


「原因不明の品質ムラ、今後どうやれば直せるかが見込み不能じゃ困りますよね」


「はい。これでは本当に一からやり直した方が早いです」


「いっそ一からやり直すのはどうですか、ギルドマスター?」


「それは最終手段です。……そう遠くは無い未来に使いそうな最終手段ですが」


「一度薬草畑に使っちまうと魔力が抜けきるまで最低三カ月は放置ですからね……」


「はい。それが痛い」


 そう、薬草を自生させるとどんなにあがいても土地に魔力を貯め込んでしまいます。


 それが抜けきるまでは新しく試験栽培など不可能。


 最低でも三カ月、万全を期すなら六カ月放置です。


「先生でも難しいです?」


「いつもの手品を逆利用するのは?」


「あれってあまり土の奥深くまで効果が出ないんですよ。薬草が魔力を貯め込むのはかなり地中の奥深く。僕でもなかなか……」


「いっそ土を入れ替えた方が早いって話になりますからね……」


「それだけのことをするなら最初から別の場所の方が早いと言えます」


「そうなんすよ……」


「難しいです……」


「本当だね……」


「俺たちも舐めてました……」


「舐めてたのは僕もなので……」


 本当に解決策が見つかりません。


 原因がわかってそれをなんとかできるのなら早くなんとかしなくては。


「魔力水に不純物が混じっている可能性は?」


「その可能性なぁ。外で作る以上はいくらでもあるんだが……」


「土に散布してしまうので濃度ムラが無い限りたいした問題でもないんですよ」


「ああ、土自体が不純物ですもんね……」


「はい。本当に困りました」


 全員頭を悩ませて固まってしまったところ、ギルドマスタールームの扉がノックされてミライさんとアシャリさんが入ってきました。


「皆さん、その様子ですと解決にはほど遠い様子ですね……」


「ああ、まったくだ。原因がまるでわからねえ」


「薬草栽培もお花を育てるのと一緒で大変そうです。水をあげる方法だけでも大きく変わりそうですし……」


「まったくなのです。最初は……あれ?」


「最初は芽が出て一番最初の薬草採取までは一番上から魔力水をかけなくちゃいけないよね?」


「ああ、そうだ。だが、そのあとは根元だけに魔力水を散布しないといけない……」


「……それ、誰か詳しく教えました?」


「……教えてないのです」


「ボクも教えてません」


「すみません、俺たちにとっては常識だったので」


「俺らもすっかり忘れてました」


「第二位錬金術師の皆さん、申し訳ありませんが『猫の額』で実証実験を。ウエルナさんとニーベちゃん、エリナちゃんは……」


「俺は第一支部で確認してきます」


「第一位錬金術師の皆に聞いてくるのです!」


「うん、行こう!」


 各自が各自、慌てて行動を開始しました。


 ギルドマスタールームに取り残されたのは部屋の主である僕と、あとから入ってきたミライさんにアシャリさんです。


「行っちゃいましたね、皆さん……」


「お茶の用意をしてきたんですが……」


「すみません。せっかくのご厚意を無駄にしてしまい」


「ああ、いえ」


「それで、そんなに変わるんですか?」


「いや、僕も試したことがないので……」


 調査結果、本部の第一位錬金術師は正しく魔力水を散布、支部の第一位は常に上からかけているものがほとんどだったそうです。


 第二位錬金術師たちによる『猫の額』での実験でも同じ結果が出たのでこれが間違いの元だったようですね。


 原因究明ができてよかったです。

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