403.第二回目の収穫結果

「んじゃ、なにか? 散々怒られたあとに散々甘やかされたのか?」


「はい、そうなります」


 本日は第二回目の収穫結果が出た日。


 前回同様に、ティショウさんとミストさんが様子を確認しに来ています。


 ティショウさんはそれよりも夫婦事情に興味があるようですが。


「それっていいのかよ、スヴェイン?」


「いいもわるいも……絶対にアリアの指示ですよ、あれ。少なくともユイとの添い寝はアリアの指示ですし」


「うらやましいな、おい! 可愛い嫁さんが三人……三人? おい第二夫人は?」


「最近、家庭内ではどんどん立場が薄くなっています」


「言わないでください! スヴェイン様! 本当に泣いちゃいますよ!?」


「……ミライの嬢ちゃんも大変だな」


「本当です! アリア様はユイさんとばかり仲良くなって、ユイさんは最近時間があればスヴェイン様を独り占めして……ずるい!」


「……旦那としての意見はありませんの? スヴェイン様?」


「残念ながら、アリアと同意見です。もっと家庭内での立場を高めたければ、家庭内で役に立つように」


「がーん」


「あの、ええと……」


 対応に困っているのはアシャリさんですね。


 まあ、僕たち四人の軽口に付き合えというのも無理な話でしょか。


「さて、そろそろ真面目な話に移ろうか、スヴェイン」


「ですわね。これ以上、ミライ様の話をすると本当に不憫です」


「最初からしないでください……」


「ここからは本当にお仕事の話ですよ、ミライさん。アシャリさんもついてきてくださいね」


「はい!」


 場の空気も変わりました……ああ、いえ、まだ一名引きずっていますがとりあえず放置しましょう。


 勝手にお仕事モードに切り替わるでしょうし。


「で、第二回目の状況は?」


「前回話したとおりですね。予想通り、高品質ができたところは高品質を維持、一般品を取れたところは……まあ、なんとかなっていたという感じでしょうか」


「ほぼですのね」


「ほぼ、でした」


「スヴェイン様、ほぼということはやはり?」


「切り替わりましたか。はい、一部は低品質な種になっていました。あとは、ごく一部ですが下級品もありましたね」


「それ、まずくないですか?」


「非常によろしくないです。原因を詳しく調べたところ、土壌の魔力も足りていないし、魔力水に含まれていたであろう魔力も足りていませんでした、ちょっと危険すぎます」


「お前のってどんなものだったんだ?」


「地中深くに良質な人工の魔力溜まりを発生させることです。そうすることによって、多少土壌の魔力や魔力水の魔力が足りなくても魔力枯渇を起こさない状況にしてありました」


「それって誰にでもできるものですか?」


「いいえ。ニーベちゃんやエリナちゃんでもできません。アリアなら僕以上にできますが……やらないでしょうね。彼女の魔力だと魔力過多で逆に枯らす可能性もあります」


「そうですの……それで、今回の指導は?」


「ウエルナさんが直接指導に入っています。第二位錬金術師たちもまた出動しています。あと、誰が問題なのかを見極めるため、第三回目の栽培は一人五株ずつの管理としたようです。誰がどの株を管理しているかはウエルナさんがしっかり記録すると」


「きびしいな、おい」


「下級品が出るなんて普通はありえませんからね。よほど土を混ぜ返すときの魔力にムラがあり、更に魔力水の品質が低くない限りそんなことは起こらない……はずです」


 うん、起こらないはずなんですよ。


 下級品まで下げるなんて、試したことがないのでわからないんですが。


「ともかく、これで誰が悪いのかはっきり白黒つけるとウエルナさんが。その上で、ダメだった人間は『第一位』の資格剥奪だそうです」


「厳しいが……部外者が口を挟む問題じゃねえな」


「はい。僕もさすがに下級品なんてものができるとは想定していませんでした。むしろ下級品の種、などというものが存在したのかと全員が感心するほどでしたよ?」


「ビンセントのやつは大丈夫なんだろうな?」


「僕のところに報告も救援要請も来ていないのでなんとも。『猫の額』でも下級品の種なんて手に入ったことがないそうですから」


「『猫の額』……ですの?」


「ああ、ミストさんやアシャリさんは知らないでしょうね。あとミライさんも実物は見たとがないでしょう。今の第二位錬金術師たちに与えている実験栽培場のことです。錬金術師ギルドの割と近くにあるんですが、多重結界に守られているので、鍵を持っていない限り入ることはおろか気付きません」


「そんな場所があったんですのね……」


「今でも第二位錬金術師たちはそこで薬草栽培をしています。ほとんどは最高品質の薬草ですが、実験目的で高品質維持を続けたり、低品質に落としたりしているようですね。ただ、それでも下級品の種は取れた試しがないと」


「それもまたすげえ話だな」


「ええ。僕ですら初めて聞いたんです。存在する、いえ、存在できるなど思いも寄らなかった」


「ギルドマスターその種って?」


「実験目的で第二位錬金術師たちがすべて回収する手筈になっています。その上で『猫の額』に持ち込み、本当に根付くのか、薬草が採れるのかを試すと」


「相当な危険物では?」


「僕もそう考えます。なので、彼らも交配が起こらないよう厳重管理するそうです」


「……研究素材にはなるってこったな」


「逆に言えば研究素材にしかならない危険物です」


「試験栽培としては成功しているのか失敗しているのかわかりませんわね……」


「失敗の部類でしょうが……新しい発見ではありますね」


 新しい発見だからこそ悩ましい。


 誰でしょうね、あんな危険なものを栽培できたのは。


「それで、今回も指導だけで手助けなしか?」


「はい。畑の混ぜ返し部分から個人指導だそうですべて見極めるとウエルナさんが。極秘資料扱いで『猫の額』の研究レポートはあるんですが、やはりそことはまったく違う結果が出ています。第二位錬金術師たちは軽い補助具を与えているとしても」


「ギルドマスター、軽い補助具ですか?」


「はい。『猫の額』に入るための鍵を兼ねた土魔法効果上昇効果のある杖です。ただし、本人たちももう気が付いているでしょうが、その効果は極めて微弱。無いよりマシ程度ですよ」


「では、ギルドマスター。今回の参加者に同じものを配るのは?」


「アシャリさん。それは可能ですが、僕がいなくなったら破綻する手段は最後の手段です。『コンソールブランド』が浸透してくれば各種魔法効果上昇のアクセサリー程度安く買えるでしょうが、それはまだ先。可能であれば錬金術師ギルド内にも『エンチャント部門』を作りたいのですが……」


「人員が足りません」


「……というわけで、少なくともまだまだ先は遠いです。宝飾ギルドの見習いに発注して属性効果上昇のエンチャントがかけられるようになるまではお預けです」


「すみません。浅はかな考えで」


「いえ、意見は出していただいた方がありがたいです。これからも萎縮せずにバンバン意見を出してください」


「大丈夫なのかよ、薬草栽培?」


「正直甘く見すぎてました。僕は幼い頃からやっていて茎を傷つけたこと以外の失敗はありませんし、ニーベちゃんとエリナちゃんも同じ失敗しか経験していないそうです。第二位錬金術師たちも実験栽培以外で低品質化させたことはないらしく、ウエルナさんもここまで酷い惨状はシュミットでもなかったと」


「あまりいい報告はできそうにありませんわね」


「まったくです。三回目の結果が出てレポートをまとめたらギルド評議会に提出なのにこの体たらく。恥ずかしい」


「ちなみに、失敗している連中って?」


「やっぱり支部の人間ばかりなんですよ。本部の人間は高品質安定させているようで」


「格差が浮き彫りか」


「はい。まったくもって、遺憾ながら」


「火入れの効果は?」


「三回目になってみないとわかりません。あと、ウエルナさんたちにも頼まれ、魔力水の最適色を封じたクリスタルを各教室においてきました。それの効果があるといいんですが……」


「最適色ってなんだ?」


「ああ、ポーション作り等で品質にブレが出ないとされている一番いい魔力水の色になります。これですね」


 僕はマジックバッグから一本のクリスタル製容器を取り出しました。

 

 その中には最適色の魔力水が詰められています。


「そいつが最適色か?」


「はい。ちなみに、僕がなにも考えず、全力で魔力水を作ると……こう」


 同じくマジックバッグから取り出した道具一式で魔力水を作製しました。


 全員、その色の違いに驚いていますね。


「全然色が違いますわね」


「ギルドマスター、私にはまったく違いがわからないのですが……」


「説明します。最適色でポーションなどを作ると品質のブレが出ない……つまり製品の効果が均一になります。なにも考えずに僕が作ったこちらの魔力水、これを使うと負傷回復用のポーションの効果が半減し、魔力回復用ポーションの効果が三倍になることがわかりました。それだけの差が出てしまうんですよ」


「ああ、だから本部のアトリエにはそのクリスタル置いてあるんですね」


「元は第二位錬金術師たちに指標として置いたものなんですが、思いのほか好評でして。第一位錬金術師が入った時は、最初から置いてほしいと」


「魔力水一つでもそんだけ差が出るんだな」


「ええ。『極めれば』という但し書きがつきますが差が出ます。なので、弟子たちには最初から最適色を目指させています」


「それってやっぱり薬草栽培にも?」


「影響が出ているんでしょうね。魔力水の効果の違いは魔力の流し方と個人の魔力波長による差。そこを均一にできないと安定しないのでしょう」


「本当に奥が深いな、薬草栽培」


「僕もこんなに奥が深いなんて考えたことはありませんでした。五歳の時から普通にやっていたことなので」


 五歳の時に検証を始め、六歳で王家に献上、そのあとグッドリッジ王国全体に広まり、もちろんシュミットでも始まりました。


 シュミットでは僕の研究データも開示されたので薬草栽培はほかの地域より何倍も先を行きましたが……だからこそ、ここまで躓いたことはないんですよね……。

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