402.最高品質ハイポーション

 さて、答えようのない質問が出るなどのハプニングもありましたが、無事一時間が経過しました。


 これにより僕の錬金炉も完全に火が入りあとは素材を入れるだけとなります。


「すっげぇ……錬金台そのものが光ってる……」


「前にウエルナさんのものを見せてもらったけど中央の魔法陣部分だけだったよな。これって一体……」


 答えてあげたいのは山々なんですがもう集中しないとまずいんですよね……。


 錬金台の性能の上昇に伴い、更に扱いにくくなってしまったので。


 素材も前にアトモさんにデモンストレーションしたときから変更して『エンシェントドラゴンの血』から『ホーリードラゴンのウロコ』に変更しました。


 属性が変わったことで安定……というか感触が変わったんですよ。


 ただ、これでも半々ですからまだ間違いがあるということ。


 こうなってくると、【精霊の錬金祭壇】で全属性の触媒をぶち込んで大規模儀式でもやらなければ……となるんですが。


 ハイポーションはあくまでもでありでもでもないはず。


 合成触媒は大量に使ったとしてもそこまで難しいとは思えません。


 この錬金台でもダメならあとは素材の問題でしょうね。


 ともかく錬金炉の光を集約させて更に魔力を圧縮、これだけやれば圧縮率が足りないなんてことにはならないと思います。


 というか、これでもダメなら本当に【精霊の錬金祭壇】ですよ?


「さて、素材を放り込んでっと」


 今回使う素材は、基本素材の霊薬草と聖霊水以外はすべて聖・光・闇・命・時空いずれかの属性持ち。


 この組み合わせでダメなら、もう一度練り直しです。


「さて、錬金術行使開始です」


 体から一気に魔力が失われていくのを感じますが、この程度は。きついのはここからです。


「……来ましたね!」


 錬金炉からのリバウンドが襲ってくる、これがまた厳しい。


 魔力と同時に生命力まで奪われる、それほどまでに気難しいんですよこの錬金台は。


「間違ってもこの錬金台は弟子ふたりに継承……させたくないけれど知られてしまうとせがまれますよね……」


 素材に大量の聖獣素材や聖竜素材が必要なのですが、今では弟子ふたりも聖獣や聖竜に愛されし者。


 カイザーも実力が十分と判断すれば、生き血の少しくらい分けるでしょうしパンツァーも出し惜しみしないでしょう。


 ああ、頭が痛い。


 僕の目の前には魔力だけではなく、生命力までが圧縮されて星のように輝き、そして大量に浮かんでいます。


 これ、『竜の帝』以外だと生命力を吸い取られ尽くして死ぬんじゃないでしょうか?


 やっぱり弟子たちには封印ですね。


「さて、あとは触媒ですね」


 今回使う触媒は水風土、火雷、聖光闇、命時の四つで全属性カバーです。


 これを使えば『マーメイドの歌声』も作れる可能性があったのですが……失敗する可能性の方が高かったので【精霊の錬金祭壇】を使ったんですよ。


 ちなみに、触媒を最後にぶち込むのは最終的な反応促進のためで、はっきり言ってしまえばこれもまた高等技術。


 普通は、素材同士を結びつけるときに触媒を通過させますから。


 もちろん、触媒も鑑定できないように偽装済みです。


「ほい、ほい、ほいっと」


 錬金触媒を投入することで最終的な反応促進が発生、特に時空属性が追加されたことで反応がという相反する状況を生み出しています。


 命はともかく、時空属性を作るための魔石は魔境へ行かないと取れませんからね。


 さて、最終仕上げ、凝縮作業。


 ここを失敗したら高品質に間違いなく落ちますからね!


「ふぅ!!」


 すべての光が一点に凝縮され非常に透き通った淡い緑色の液体が宙に舞っています。


 それの魔力を逃さないように維持しつつ瓶詰めすれば……今回は成功ですね!


「最高品質ハイポーション、完成です!」


 講堂内かは湧き上がるかと考えていたのですが……反応が薄いです。


 それに、シュミット講師陣まで反応が鈍いような?


「スヴェイン様、本当の本当に最高品質ハイポーションが完成したんですか?」


「はい。完成しました。蓋は特殊な魔力がないと開けられないように魔法錠をかけましたし、瓶は……素材は明かせませんがこちらも魔力を逃さないための特注品です。とりあえず、ウエルナさんから鑑定どうぞ」


「あ、ああ。俺、【神眼】持ちですがはじかれませんよね?」


「結局はポーションのはずなので大丈夫だと考えています。どうぞ。僕は、生命力と魔力を回復しますので」


 いつぞやみたいに魔力枯渇で倒れるわけにはいきませんからね。


 効率が段違いに上がっているとは言え、軽いめまいは覚えています。


 ハイポーションとハイマジックポーション、それからエリクシールも飲んでおきましょう。


 アトモさんの実演の時はまだ常備薬として用意してなかったんですよね、エリクシール。


 ポーションの効果で段々といろいろな意味で頭がクリアになっていき……ポーションも段々後ろの列まで回されていきました。


 最後尾の方にはシュミット講師陣が陣取っており、一様に驚愕の表情を浮かべていますね。


 まあそうでしょうとも。


 最高品質ハイポーションとか、セティ師匠だって作ってくれてことがありませんからね!


「本当に最高品質ハイポーションなのです! やっぱり先生はすごいのです!」


「ん?」


 視界と意識ははっきりしてきたはずなのになぜかニーベちゃんの叫び声が聞こえたような?


「本当です! 先ほどの魔力圧縮も前に見た時とは段違いに美しかったですし……感動しちゃいました!」


 はて、今度はエリナちゃん?


「スヴェイン様。怒られる御覚悟はおありですよね?」


「……ありあ?」


「はい。あなたの妻。アリアです」


 講堂の入り口を向くと最愛の人、アリアとユイの姿が。


 ミライさんがいないのは……なぜでしょう?


「ミライ様はお仕事で抜け出せませんでした。泣いていましたよ?」


「あ、はい」


 心を読まれてる!?


 というか、いつからここに!?


「どうせ、いつからここにとかお考えでしょう。お話をしている途中から講堂の外で様子を伺っていました」


「そ、それは……」


「作業が始まったあとは弟子ふたりとともにここから拝見していましたよ? 絶対にぜっったいに気が付くはずがないので」


「あ、いや?」


「スヴェイン様、その錬金台、使うなとは言いません。ですが、最高品質ハイポーションを作る時は私とともにと言ってありましたよね? 魔力枯渇だけならまだしも生命力枯渇もありえるのですから」


「え、ええと……」


「取りあえず、公的な立場もおありでしょう。なので、この場ではこれ以上申しません。ですが、帰ったらお説教です」


「あの、スヴェイン。今回ばかりは私も怒るよ?」


「は、はい」


 早晩ばれることは間違いないのですが……どこから漏れたのでしょう?


 まさか、弟子たちが僕に聖獣をつけていた?


「先生すごかったのです! でも、無理はするものじゃないのです」


「そうです。ボクたちがアリア先生たちを連れてきていなかったら意識不明もありえたんですよね? 今回ばかりは先生相手でもこう言います。猛省しなさい」


「はい……」


 完全に師匠の立場ありません……。


 担ぎ上げられたとは言え、仕方がありませんよね。


「ウエルナさん、それからシュミット講師陣の皆様。あなたたちには明日お話です。首を洗って待ってなさい」


「えーと。久しぶりに鬼として動くから覚悟してくださいね?」


 ウエルナさんたちも汗をダラダラかいています。


 アリアとユイには勝てそうにないですよね。


 この日、帰ったあとアリア、ユイ、リリス、ニーベちゃん、エリナちゃんの五人からきついお説教をもらいました。


 それによって、僕はまた一週間内弟子指導以外でのアトリエ立ち入り禁止処分、あと、なぜかユイとの毎日の添い寝処分に。


 アトリエ立ち入り禁止処分はわかるのですが、ユイとの添い寝って一体?


 あとウエルナさんたちにもアリアと『職人モード』かつ『鬼』モードのユイからが下ったそうです。


 ついでに、今回最後の講堂にいた参加者には三回目から薬草栽培参加の権利も与えられたようで。


 毎晩ユイは僕を甘やかせようとしてくるし……これって初日以外僕の罰になってるんですか?

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