649.滞在一日目:シュミットお店巡り:武具屋編

 子供たちの遊び相手をするというウィングたちを残し表通りに出た僕たち六人。


 さて、どこに行きましょうか?


「先生、お店巡りって具体的にいくあてはあるのです?」


「いえ、ありませんよ? 適当に冷やかして回ろうかと。よさげなものがあれば買って帰って研究対象にしますが」


「先生、帰郷しているんですからお仕事から離れましょうよ」


「あら、普段来ることがないシュミットに来ているからこそシュミットの文化を学ぶんです。と言うわけで、あとで本屋巡りも付き合ってくださいな」


「あ、私も服屋を何軒か行ってみたい」


「では、私も茶屋を。なにか香りのよいお茶が出来ているかもしれません」


「皆、マイペースなのです」


「ゆっくりすればいいのに」


「これでもゆっくりしていますよ。さて、それでは……とりあえずそこの武具店にでも入ってみましょう」


 僕は早速、表通りから一本裏路地に入ったところにある武具店を目ざとく見つけて店内へ。


 そこに置かれている武器は、数打ち品以外すべてエンチャント付きですね。


「いらっしゃい、冷やかしか?」


「はい。冷やかしです」


「はっはっは! 冷やかしかと聞かれてそうだと答えるやつも珍しいな、スヴェイン様!!」


「ああ、僕のことはご存じでしたか」


「俺らぐらいの歳で知らないやつは別の街から渡ってきた連中くらいだよ。それで、なにを冷やかしにきたんだい?」


「そうですね。そこの数打ち品は誰の作品ですか?」


「あ、それ。うちの弟子のやつだ。まだエンチャントを使えないんでな。すべて数打ち品として駆け出しどもに売っている」


「なるほど。もついているのに?」


「もちろん知っている。その程度がまったくつかないなら見込みがねえってこったよ」


 これはこれは想像以上に手厳しいですね。


 僕以外にも店内を見て回っているニーベちゃんとエリナちゃんもいろいろ興味を持ちだしたようですし……ちょっとふたりにも聞いてみましょうか。


「ニーベちゃん、エリナちゃん。気になったところがあるなら聞いてみては?」


「はいです。店主さん、【斬撃強化】だけのエンチャントが付与された武器ってないんです?」


「ああうちじゃ取り扱ってない。うちじゃ剣や槍、斧だと【鋭化】【硬化】【斬撃強化】の三重エンチャントがかけられて初めて一人前だ」


「じゃあ鎧に【装備時重量軽減】はわかります。ですが、【斬撃耐性】や【刺突耐性】はどうやって付与しているんですか? これって布用じゃ?」


「そいつか。確かに【斬撃耐性】や【刺突耐性】の布製品だ。だが、応用すれば金属製品や革製品にもかけられちまうんだよ」


「なるほど……勉強になります」


「エンチャントのために必要な腕前は跳ね上がるけどな。それにしても嬢ちゃんたちよく見てるな? 鍛冶師の卵か?」


「違うのです。私たちは錬金術師なのです」


「はい。最近はコンソールでもいろいろなエンチャントを見かけるようになったので気になって」


「ほう、コンソールの住人か。コンソールってどこまで進んだ? この夏で三年目だろう。嬢ちゃんたちが【斬撃強化】や【装備時重量軽減】を持ち出したってことは鍛冶製品はそこまで進んだのか?」


「はいです。最高級品扱いですがそこまでは進んだのですよ」


「次段階へはなかなか進めていないみたいですけど頑張っています」


「【斬撃強化】や【装備時重量軽減】の次……【斬烈化】や【衝撃強化】、【装備時体力消耗減少】クラスか。その次は【尖鋭化】と【頑強化】になる。【付与魔術】がなけりゃそこがだな」


です?」


だ。それ以上のエンチャント、例えば【斬影剣】だの【浄化】だのには【付与魔術】が必要になるんだよ。コンソールってそこまで鍛えてる職人なんてほとんどいなかったんだろう? 悔しいだろうが【付与術】だけじゃ限界があるのさ」


「そうだったんですね……先生、このことって?」


「ギルド評議会では去年の冬に伝えてあります。なので、大急ぎで次の世代、まだ『星霊の儀式』を受けていない世代に【付与術】を鍛えさせている最中ですね」


「それがいい。【付与術】だけで覚えられるエンチャントで満足出来るならシュミットの協力はあと二年もすれば必要なくなるさ」


「ですね。【付与魔術】を覚えた世代が現役になり、一人前になってからが勝負です」


「さすがスヴェイン様、わかってるじゃねえか。そうだ、スヴェイン様ならあっちのお偉いさんとも話をつけられるか?」


「どの程度のお偉いさんとにもよりますが……なんでしょう?」


「ものの良し悪しがわかる奴なら誰でもいいや。こいつを見せつけてやってくれ」


 店主が奥の棚から持ち出してきたのは一本のブロードソード。


 素材は……オリハルコンですか。


 奮発していますね。


「自分の技術を確かめたくて作ってみたんだが、やり過ぎてなあ。売る訳にもいかず困ってたんだ。コンソールの鍛冶師に発破をかけられるなら有効活用になるだろう」


「構いませんが、鑑定しても?」


「おう、構わないぜ。会心の自信作だ」


 どれどれ……素材はオリハルコンとミスリルの合金、比率はオリハルコン七のミスリル三、この時点で相当な腕前ですね。


 かけられているエンチャントは……って。


「店主さん。このエンチャントは危険すぎますよ? いろいろな意味で」


「だろう? 出来るかと試しにやってみて出来ちまったから保管してあるんだが……」


「先生、どんな内容なんですか?」


「ボクたちにも教えてください」


「構いません。素材はオリハルコン七とミスリル三の合金製、エンチャントは六重。かけられているエンチャントは、【閃刃】【金剛】【斬鋼剣】【浄滅】【自己修復】【エンチャント強化】です」


「【閃刃】? 【金剛】? 【斬鋼剣】? 【浄滅】?」


「あの、どれも聞いたことがないエンチャントなんですが……」


「聞いたことがないでしょうね。僕だって付与しませんから」


「「え?」」


「【閃刃】は【鋭化】の最上位版。これがかかっている剣の上に……ガルヴォルンのインゴットあたりを落とせばそれだけでインゴットが切れます。【金剛】は【硬化】の最上位版。オリハルコンが七割も含まれているこの剣にこんなエンチャントがかかっているのです、歪められるのは上位竜以上でしょう」


「それだけで怖いのです……」


「【斬鋼剣】は【斬撃強化】の最上位からひとつ落ちたエンチャント。これがかかっている剣ならばアダマンタイトすらスパスパ切れます。最後、【浄滅】は【浄化】の上位エンチャントですね。切った対象を浄化の炎で焼きます。死霊系も妖魔も悪霊も通常モンスターも竜も人だってお構いなしに」


「……もっと怖いです」


「まあ、そんなところだ。いい目標にはなるんじゃないか?」


「目標にはいいかもしれませんが……同じものを作られると目も当てられませんよ?」


「職人は高みを目指してなんぼだ」


「崖から転落しては意味がありません」


「ともかく、スヴェイン様。そいつをコンソールのお偉いさんに託してくれ」


「わかりました。わかりましたが……間違っても同じものを目指さないように注意しますからね? 武器だって自分を傷つけるような危険な代物になっては意味がないんですから」


「そこのさじ加減はコンソールにぶん投げる」


「ぶん投げないでください」


 ともかく剣は預かり店の外へ。


 さすがにただで受け取るわけにもいかないので白金貨を二十枚ほど押しつけてきました。


「リリス。さっきの方、エルフでしたが実年齢はどれくらいでしょうね?」


「少なくとも二百歳近いかと」


「これだけの素材があってもエンチャント容量圧縮の圧縮率が相当高くないとかけられませんよ、この六つは」


「スヴェイン様でさえ自重して使わないエンチャントを四つも使った武器。なにに使うおつもりだったのでしょうか?」


「僕も聞きたいです。【金剛】くらいなら使っても構いませんがほかの三つはちょっと……」


 シュミットの匠はなにを考えているのか読めません。


 ほかのお店を巡るのが怖くなってきましたが、見て回らないわけにもいかないでしょうね……。

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