648.滞在一日目:自由奔放な『聖霊郷』の子供たちと聖獣たち

 ユマさんからシチューをごちそうになった僕たち四人は当初の予定通り、ニーベちゃんとエリナちゃんを探して空へと舞い上がりました。


 さすがに地上を走ると人の往来を妨げるかもしれませんし、どこにいるかわかりにくいですからね。


 空に出てどこにいるか、一緒にいるはずのルビーとクリスタルの気配を探してもらうと……中央噴水広場の方にいるらしいです。


 早速そちらの方に行ってみましょう。


 目的地の中央噴水広場には子供たちに群がられた聖獣たちの集団がふたつ。


 ああ、あれがニーベちゃんとエリナちゃん。


『わかりやすいね。『聖霊郷』は』


『コンソール以上に聖獣たちが馴染んでいるもの』


『よいことなのなのでしょうか……?』


『住んでいる者たちが善良であるならばよいことだろう。我々もいくぞ』


『僕たちも群がられそうだけど』


『馬型の聖獣って人里では珍しいらしいから』


 いつまでもニーベちゃんとエリナちゃんを子供の群れに囲ませておくわけにもいかないので僕たち四人も地上に降り立つと、今度は僕たちの方に子供たちが駆け寄ってきました。


 子供たちに理由を聞くと、やはり鳳凰やフェニックスが地上にいたり馬形の聖獣が街中にいたりする機会はあまりなく珍しいとのこと。


 子供たちの遊び相手になってくれるというウィングたちを残し、僕たちはニーベちゃんとエリナちゃんのところへ移動ですね。


「大丈夫でしたか、ふたりとも」


「先生なのです……」


「シュミットの子供たちってすごく元気ですね……」


「地上を歩く鳳凰やフェニックスが珍しかったそうですわよ?」


「なるほどです」


「かわいい聖獣たちを見せてもルビーやクリスタルから離れなかったのはそれで……」


「むしろかわいらしい聖獣たちならよく一緒に遊んでいるだろうし見慣れているわよ」


「そうですね。力強い聖獣たちの方が興味をひけたでしょう」


「……シュミットの子供たちは気難しいのです」


「……コンソール基準じゃダメだね」


「そういえばふたりともお昼はどうしましたか?」


「食堂で食べてきたのです」


「本場のシュミット料理、おいしかったです」


「それはよかったです。私どももユイの実家でご相伴に預かって参りましたからお昼は必要ないでしょう」


「それじゃあ、これからどうする。具体的に聖獣たちをどうするか」


「……ウィングあなた方はどうしますか?」


『僕たちはしばらく子供たちの遊び相手になるよ』


『そうね。たまには悪くないわ』


『ユイ、申し訳ないけれどそういうことで』


『我もだ。すまないな』


「いえ、僕たちは大丈夫です」


 ウィングとユニが子供と遊ぶのは大体読めていました。


 麟音も参加するかもしれないとは。


 ですが、黒曜まで子供たちとの遊びに参加するとは思いませんでしたよ。


「ニーベちゃんとエリナちゃんはどうしますか? ルビーとクリスタルですが」


「……連れ歩くとまた子供たちがよってきますよね?」


「おそらくそうなるわね」


「ルビー、先に公王様のお屋敷に戻っていてください」


「クリスタルもそうして。帰りは先生方と一緒に帰るから」


 ニーベちゃんとエリナちゃんはルビーとクリスタルを送り返しましたか。


 妥当な判断でしょう。


 それにしてもふたりの周りにいるが増えているような……?


「ん? 先生どうしたのです?」


「いえ、ニーベちゃんとエリナちゃんの周りにいる聖獣が増えている気がして」


「ああ、


「え?」


「街を歩いていたら聖獣契約をせがまれて。最初は断っていたんですけど何度も何度もしつこくせがんでくるために仕方なく」


「増えた子たちは?」


「私はこの子とこの子です」


「ボクはこの子とこの子ですね」


「ニーベちゃんは五徳猫と狛犬、エリナちゃんは白銀狐と赤金狐ですか」


「……まずかったです?」


「『聖獣郷』でも順番待ちはいっぱいいますよね?」


「まあ、仕方がないでしょう。『聖霊郷』の聖獣たちはコンソールや『聖獣郷』の聖獣よりも自由奔放みたいですし」


「よかったのです。ただ、視線はまだ感じるのですよ」


「はい。まだ狙われている気がします」


「……あなた方の魔力量も大概ですからね」


「私どもが一緒ならば不用意に手出しはしない……はずです」


「断言してほしいのです、アリア先生」


「……私でもシュミット基準がわからないのです」


「過ぎたことを気にしても仕方がありません。を考えましょう」


「リリスさん、増える前提で話しているのです」


「そんなに信用ないですか? ボクたち」


「あなた方なら何度も頼み込めば折れると知られてしまいましたから。あと、ユイ様も危ないでしょう」


「……私も拒否し続ける自信がない」


「と言うわけで対策会議です。スヴェイン様、アリア様、なにかお力はありませんか?」


「聖獣がらみですから僕たち頼りですよね、さすがのリリスでも」


「さて、どうするべきでしょう?」


 本当にシュミットの、『聖霊郷』の聖獣たちは自由奔放ですね。


 気に入った相手が見つかれば一度断られても何度でもアタックするのですから。


 それだけふたりのことが気に入ったと言うことでしょうが……どうしたものか。


 一番手っ取り早い手段は、僕の聖獣で威嚇して歩くことですが……聖獣が近寄らなくても子供が近寄ってきます。


 僕やアリアが魔力を開放してしまえば周囲を威圧してしまいますし、ニーベちゃんとエリナちゃんでも大差がありません。


 これはつまり。


「いい手段が思い浮かびません」


「私もです。子供と聖獣、両方を避ける手段がありませんわ」


「やはりダメですか」


「ダメなの、スヴェイン、アリア?」


「ダメなんです?」


「ダメですか……」


「僕の聖獣で威圧すればある程度聖獣たちには抑止力があります。ですが、子供に群がられます。僕やアリアが魔力を開放して歩いても周囲を威圧するのでダメです」


「ニーベちゃんとエリナちゃんが魔力を開放して歩くのも一緒です。なので、聖獣契約をせがまれるくらいは諦めなさいな」


「その上で受け入れるか断るか決断を。嫌なら嫌だとはっきり伝えなさい。あいまいな態度ではつきまとわれますよ。……カイザーははっきり拒絶してもつきまといましたが」


「それでもダメでしたら神獣の杖で最大限の手加減をして頭を軽く叩いてお上げなさい。神獣様のお力が宿った杖で叩かれれば頭も冷えるでしょう。……少なくともその日のうちは」


「結局ダメなのです」


「一番手っ取り早いのは受け入れられる範囲で受け入れてあげることなんですね」


「私もそうなっちゃうのか……順番待ちがいなくなって安心していたところなのに」


「受け入れられない状況になったら勝手に契約の申し込みをやめますよ。と言うわけでお店巡りに行きましょう」


「はいです」


「気持ちを切り替えましょう」


「……ふたりの切り替えの早さ、うらやましい」


「置いていかれますよ、ユイ様」


「あ、待って、皆!」

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