159.冒険者ギルドマスターと対談
「よう、よく戻ってきてくれたスヴェイン。いや、今は錬金術師ギルドマスターと呼ぶべきか?」
うーん、ティショウさんから役職名で呼ばれるとムズムズしますね。
「スヴェインで構いませんよティショウさん。僕が役職で呼ばれると、僕もティショウさんを役職で呼ばなければいけなくなります」
「そいつはむずがゆいな! それじゃ、今まで通りスヴェインと呼ばせてもらうぜ」
「その方が助かります。それでですね、申し訳ないのですが状態異常回復薬を作ってくる暇がありませんでした。拠点から素材は持ち出してきましたので、どこかのタイミングで納品したいと考えています」
「待て。ユニコーンとペガサス以外のポーション取引は冒険者ギルドと錬金術師ギルド間の取引となる。納品可能数を錬金術師ギルドの……サブマスターがいいな、そっちに伝えてそこからギルド間で折衝だ。ちなみにどれくらいの数を用意してきた?」
「最低でも三百は作れると思います。実際に作ってから実数を報告した方がよろしいでしょうか?」
「……ああ、そうだな。ただ、うちのギルドとしても最高品質の高位状態異常回復薬なんてそんな数買えるか怪しいぜ?」
「余ったら余ったで僕が保管しておきます。足りなくなったらまた発注をかけてください」
「スヴェインがギルドマスターになってから、錬金術師ギルドとの取引もやりやすくなって助かるわ」
「それはありがとうございます。僕もティショウさんとのやりとりはやりやすくて助かります」
「そう言ってくれるのは嬉しいが……それでいいのか?」
「いいんじゃないでしょうか」
「そうか。でだ、冒険者ギルドマスターとして錬金術師ギルドマスターにお願いだ。すまないが、下位の状態異常回復薬をもっと卸してくれ」
「ふむ。精鋭たちが出し渋るとは考えられないのですが」
「いや、出し渋っていると言うよりは素材が無くなりつつあって卸す数を制限せざるをえない感じだ。こっちから納品した薬草分の状態異常回復薬は次の日にでも納品される。だが、追加となるとなかなか難しいようでな」
「ふうむ。ミライさんからも呼び出しを受けていますし、なにかあったのでしょうか」
「そいつは錬金術師ギルドの問題だから俺たちはわからん。だが、お願いはしたぞ」
「承知いたしました。原因がわかり次第、対処と報告に参ります」
「了解した。で、そちらのお嬢さんはお前の妹のシャルロットだったよな? お前が出て行く前のギルド評議会で説明をしていた」
「はい。僕の妹でシャルロットです。今日はあのときと状況が変わりましたので、軽くご説明に来た次第です」
「状況が変わった、ねぇ。お前らが聖獣で乗り付けたのもそのヒントか?」
「そうなります。シャル、説明を」
「はい。ティショウ様、お久しぶりでございます。シャルロット = シュミット公太女です」
「待て、公太女だと? シュミットは辺境伯だろう? なぜ公太女なんだ?」
「シュミット辺境伯一派はグッドリッジ王国から独立、シュミット公国となりました。非常に不本意ですが兄たちに変わり、私が次代の公王となります」
「非常にって部分が強調されてたな」
「本来はスヴェイン様のお役目ですものね」
「はい。お父様も私の公太女就任を後押ししてくださった以上、決定は変えられません。まあ、それは置いておくとして。私どもシュミット公国としては交易都市コンソールと友好関係樹立を願っているのです」
「友好関係樹立ねえ。難しいことはよくわからんが、それをして俺たちになんの得がある?」
「そうですね。まずは攻められたときに友好都市として戦力を貸すことができると言うことでしょうか。かなり気ままな方々で、どの程度動いてくださるかはそのときになってみないとわからないのが難点ですが……」
「まて、その戦力とはなんだ?」
「はい。聖獣様方です。今の公都シュミットは『聖霊郷』と呼ばれるほど聖獣様や精霊様、妖精たちが普通に暮らしております。特に聖獣様は自分たちのテリトリーを侵すものには容赦がありません。許可がいただければ、この街にも聖獣様方をお連れしたいと考えております」
「……それって実質的な乗っ取りじゃねぇか」
「そこまでは考えておりませんし、聖獣様が居を移された場合、私どもとも縁が切れてしまいます。さすがに一ギルドで考えるには大きすぎる問題、ギルド評議会にかけていただけると幸いです」
「スヴェイン、お前はこの提案に賛成なのか?」
「どちらかと言えば賛成です。シャルの説明にもありましたが聖獣は侵略者に容赦がありません。また、侵略者ではない生きるものたちに対してはとても寛容で、人間たちのルールを守るように伝えれば必ずそのルールを守ります。聖獣が動くのは最終手段ですが、この街を独立都市として機能させるには決して悪い案ではないと感じます」
「なるほどなぁ。ちなみに、スヴェイン、お前のところの聖獣じゃダメなのか?」
「僕のところの聖獣は難しいでしょう。僕の拠点が非常に気に入っており、時折用事があって出かけることがあってもそれを済ませれば必ず戻ってきてしまいます。僕がこの街で本格的に居を構えるのでしたら移ってくる聖獣もいると考えてはいますが……それらは、僕が死んだあとどうなるかわかりませんよ?」
「悩ましいな。とりあえず、スヴェインも帰ってきたことだ。近々ギルド評議会を開催する。そこでもう一度説明をしてもらえるか?」
「はい。喜んで。次に我が国とのメリットといたしましては貿易が上げられます。……まあ、陸続きではない以上、これもまた聖獣様たちの気分次第となるのが問題なんですが」
「貿易か。なにが仕入れられる?」
「一番の売りは各種ポーションに薬草でしょうか? 薬草類はすべて最高品質で取りそろえておりますよ?」
「……さすがはスヴェインの故郷」
「ですが、ポーションはスヴェイン様方でも……」
「よく考えろ、ミスト。今はスヴェインがユニコーンとペガサスを卸してくれるからいい。だが、その供給が途絶えたときどうすればいい?」
「それは……確かに困りますわね」
「供給元は多く確保するのが良いってもんだ。この話もギルド評議会でしてくれ」
「承知いたしました。あとは、技術供与でしょうか。こう言ってはなんですが、こちらの国は様々な分野、特に魔法と錬金術の分野が遅れていると聞きます。そういった面で講師となるものたちを派遣して全体を底上げさせてみせましょう」
「それは助かります。錬金術師はスヴェイン様がなんとか底上げしてくださいましたが、魔法分野をどうしようか悩んでおりましたの」
「まったくだ。アリアの嬢ちゃんはスヴェインがらみ以外で動いてくれそうにないし、そっちも弟子の育成で忙しそうだ。この話は、俺の方から魔術師ギルドのお偉いさんどもに話を通しておくからギルド評議会でも説明を頼む」
「もちろんです。ですが、研究系のギルドは頭が固いと感じております。魔術師ギルドは大丈夫なんですか?」
「ああ、あいつらの頭は非常に柔らかい。むしろ他国の、それも『賢者』を生み出せるような国からの技術供与なら喜んで飛びつくだろうぜ」
「では、こちらは安心そうですね。あとは……差し出がましいようですが冒険者にも指導教官をお貸しいたしましょうか?」
「ふむ、それも悪くねぇ」
「ですわね。遠く離れた国の技術を学べる機会は滅多にありません。その機会を活かせないのでしたら、その冒険者はその程度と言うことでしょう」
「ありがとうございます。あとは……なにかありましたかね?」
「じゃあ、俺からの要望だ。お前らの国はどれくらい『職業』についての知識を持っている?」
「ええと、実例を挙げていただければ答えられる程度としか」
「……いや、十分すげぇからな?」
「例えばですが、『剣術師』ですと身体能力に1.3倍ほどの強化、剣術スキルのレベルアップ速度が1.3倍、体術が1.1倍、その他の武器スキルが0.8倍、魔法スキルが0.7倍くらいでしょうか」
「ちなみに、なにと比べて1.3倍なんだ?」
「職業を授かっていない状態です。ちなみにスヴェインお兄様が授かった『ノービス』というレア職業、これは一部スキルを除いてすべてのレベルアップ速度が1.05倍、時空魔法のみレベルアップ速度が1.2倍と伺いました」
「スヴェイン、そんな職業だったのか」
「はい。どのスキルも上がりやすくてとてもいい感じの職業でした」
「いや、スヴェイン。1.05倍ってめちゃくちゃ上がりにくい部類だからな?」
「頑張ればどうとでもなりましたよ?」
「そうですね。お兄様たちの頑張り具合は見ていて壮絶でしたものね」
「そこまでかよ。まあ、今のスヴェインを見ていればわかる気がする」
「ええ、まあ。ですが公表できる内容とできない内容があるのはご容赦を」
「今の話だけでも十分に価値があるよ。……まったく、どんだけ進んでいるんだよ、グッドリッジ王国とシュミット公国は」
「グッドリッジ王国には報告しておりません。こんなことをあの国にもらすほどうかつではありませんので」
「そうか。しかし、シュミット公国と協調姿勢を取ることにはメリットがあるな」
「そうお考えいただけましたら幸いです」
「こんだけの好条件を並べられたんだ。冒険者ギルド的には直接テーブルへとつきたい」
「それでも構いませんよ。ほかにご要望はありますか?」
「要望なぁ……どの程度のことができるかわからないうちは要望も出しづらい」
「では今日はこれくらいにいたしましょう。商業ギルドにも出向きたいですので」
「ああん? 商業ギルドに?」
「兄のオマケですが、ひとつお願いしたいことがありまして」
「面白そうだな、俺も……」
「面白そう、だけで冒険者ギルドを放置されては困ります」
「……だよなあ」
と言うわけでこれで冒険者ギルド訪問は終わりました。
考えていたよりも多くの時間を要しましたが、構わないでしょう。
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