160.商業ギルドマスターと面会
さて、今度は商業ギルドです。
でも、商業ギルドマスターはお忙しい方ですし取り次いでいただけるでしょうか?
とりあえずは受付で申請からですね。
「いらっしゃいませ。本日はどん……」
「ええとですね。錬金術師ギルドマスターから……」
「錬金術師ギルドマスターがお戻りになった模様です! 至急、ギルドマスターに連絡を!」
「はい!」
「ええと、商業ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「もちろんです。ただいま来客室へご案内いたしますのでしばしお待ちを」
「は、はい」
なんだか僕が来ただけで大騒ぎになってしまいました。
アリアとシャルも不思議そうに僕をのぞき込みますし、身に覚えは……ああ、ポーションの販売でしょうか。
「おお、錬金術師ギルドマスター。ようこそおいでくださりました!」
「あなたは確か……ペンツオさんでしたか?」
「はい、ペンツオでございます。お名前を覚えていていただけるとは恐縮です」
「いえいえ。あのときは僕の方も申し訳ないことをいたしました」
「あれは我がギルドの恥から出た出来事ですのでご心配なさらず。来客室のご用意ができましたのでご案内いたします」
「ええ、よろしくお願いします」
ペンツオさんに連れられてたどり着いた来客室は、なんというか最上級の客をもてなすためのスペースですね。
アリアやシャルでさえ緊張しています。
これほどの好待遇をしていただくほどの大事になっていたのでしょうか?
「錬金術師ギルドマスター、お待たせして申し訳ない」
「いえ、商業ギルドマスター。待つというほど時間も経っておりません」
「そうでしたらありがたい。商業ギルドとしては錬金術師ギルドにお礼を申し上げに行かねばならぬ立場ですのに」
「錬金術師ギルドにお礼ですか。そこまでギルド員たちは頑張ってくれたようですね」
「ええ、もちろん! 私どもが考えていたよりも早く、大量の商材をご用意くださいました! 商隊の準備が整い出発したのはつい先日のことですのでまだ結果は出ておりません。ですが、必ずや結果を出してみせましょう!」
「はは。喜んでくださって幸いです。そうですか、こちらでも大量に生産しましたか」
「はい。それがなにか?」
「いえ、ミライさんに預けてきた薬草類が足りなくなってきているのではないかと。冒険者ギルドにも寄ってきましたが、そちらでは状態異常回復薬の納品が少なくなっていると伺いましたので」
「ふむ……そういえば商隊が出発したあと、高品質ポーションやマジックポーションの納品数が少なめでしたな。我々としては商隊の分を想定の倍以上確保していただけたので気にしておりませんでしたが……なるほど、そう言われると薬草類が足りていないのかも知れません」
そこまで頑張っていたとは、さすがに想定外です。
弟子たちが十カ月分も課題を進めていたことも驚きでしたが、錬金術師ギルドもまた成長しているかも知れませんね。
こんなことでしたら、最高品質の作り方も置いていくべきだったのでしょうか。
「これは錬金術師ギルドの方にも急いで顔を出さなければならないかも知れませんね」
「おや、錬金術師ギルドにはまだ行っておられないと?」
「はい。まずは冒険者ギルドに顔を出し、次にこちらへと参りました。せっかく評価いただいていたのです。きちんと納められてたのか確認せねばと考えまして」
「いやはや、あの最精鋭の皆様は本当に素晴らしいですな。今では日産で高品質ポーションを二千個以上作れるそうです。もちろん、そのほかのポーションも作りながらですよ!」
「そう言っていただけると幸いです。それで、商業ギルドとして錬金術師ギルドにご用はありますでしょうか?」
「そうですな……今のところこれといってありません。こちらからオーダーしている分はきちんと納められていますし、何ら問題はありません。ただ……」
「ただ?」
「いえ、錬金術師ギルドの最精鋭、元見習いの方々以外はかなりご苦労されている様子です。いまだにマジックポーションの安定化もできていない様子ですし、ミライサブマスターからも薬草の支給を断られていると聞きます」
「さすがにそれは実力による歩合制にしたので責任を持てません。自己学習が足りないのでしたら諦めてこの街から去るべきです。今後は僕が鍛える新人錬金術師で支えていきますので」
「これまた手厳しい。それから、個人経営をしている錬金術師にも余波が飛んでいますな。彼らは彼らで自主学習をしているようですが、考えているほど結果が出せていないようです」
個人経営の錬金術師たちですか……。
そちらまで考えている時間がありませんでしたが、戻ってきた以上は何らかの施策が必要でしょう。
彼らにも生活があり家族がいるでしょうからね。
「そちらについては僕が講義を行う予定を立てます。そちらに参加するかどうかは個人の判断といたしましょう」
「それがよろしいですな。この状況で錬金術師ギルドマスター直々の講義を断るものはいないでしょう」
「それだと嬉しいのですが」
「昔のポーションは誰ひとりとして買わなくなりました。実際、この三カ月だけでも生活はかなり厳しくなっているはずです。錬金術師ギルドからある程度のお金は貸しているそうですが、このままではそれも回収できるか怪しいものです」
「僕個人としては気にしませんが、錬金術師ギルドマスターとしては大問題ですね。可能な限り早く講義を開催しましょう」
「ええ。ところで、そちらの方は確か妹君の……」
「シャルロット = シュミットです。今回はシュミット公国からの使節としてやって参りました。……まあ、使節と言いましても公太女の私と師匠のセティ様だけですが」
「……公太女、ですか?」
「はい、公太女です。我々、元シュミット辺境伯一派はグッドリッジ王国から独立しシュミット公国になりました。兄ふたりがどうしても立太子しないため、私が次代を担うこととなった次第です」
「それはおめでとうございます。正直な話、今スヴェイン錬金術師ギルドマスターに抜けられると錬金術師ギルドの改革がストップしてしまいますからな。私どもの本音といたしましては良かったと言う気分です」
「ええ、そちらのお立場は理解しています。それで……」
「ところで、念のためお伺いしたいのですが、昼間に聖獣様に乗ってコンソールにやってきたのはどういう意図ですかな?」
「……そういえば、聖獣を連れてくるように言ったのはお兄様ですね。どうしてですか?」
「簡単な話です。シャルとセティ師匠はまだ契約したばかり。聖獣と長く離れて暮らすことになれば、聖獣側が不安がってこの街に飛来するかも知れません。その可能性を先に断っておきたかったのです」
「なるほど。いきなり聖獣様だけが飛んできては街中がパニックになりますな」
「驚かせてしまったのは申し訳ありませんが、そういう意図です。この街に危害を加えるつもりは一切ありませんのでご容赦を」
「ええ、存じております。確認させればそれぞれの聖獣様はネイジー商会会頭の屋敷にて大人しくしているとのこと。主に危害が加わらない限りは大人しくしているでしょう」
「ご理解いただき感謝いたします」
「聖獣様の件はこれくらいにしておきましょう。それで、シュミット公国、もしくはシャルロット公太女からのご要望を伺いましょう」
「これはシュミット公国からの要望となります。シュミット公国の大使館となるような建物を紹介してください。今はネイジー商会のお屋敷にご厄介となっていますが、一国の使節団がいつまでもそれではいけません。可能な範囲でご紹介をいただけますよう」
「かしこまりました。ご予算はいかほどになりますか?」
「予算ですが白金貨……」
「僕が出しますよ」
妹と商業ギルドマスターの会話を遮って僕がお金を出すことを告げます。
商業ギルドマスターはあまり驚いていませんが、シャルはそうではないようですね。
「お兄様! これはシュミット公国としての問題です! お兄様といえど……」
「シュミット公国の問題だからこそですよ。僕は自分の理由で公国を離れることになったのです。せめてひとつの街にある公館の費用くらい出させてください」
「ですが……」
「シャルロット公太女。ここは兄上の意見を採用されるべきかと。筋が通っていないわけではないですし、故郷へのできる範囲での恩返しでもあるでしょう。お気持ちをくんであげては?」
「……わかりました。コンソールだけですからね?」
「はい。シュミット公国はまだまだ経済的に外部へお金を出すのは好ましくないはずです。必要とあれば僕を頼ってください。……自分の意思ではないのに荒稼ぎしてしまっているので」
「はい?」
「まあ、いろいろとあるのです。シャル、間取りなどの要望を商業ギルドマスターに教えてください」
「わかりました。間取りはですね……」
シャルの要望を聞き終わったあと、商業ギルドマスターから出された結論は『新しく大使館を建てた方が早い』と言うことでした。
なんでも『前』錬金術師ギルドマスターが所有していた土地や屋敷が多く残されており、今はギルド評議会預かりとなっているのですが早々に売り先を決めたいのだとか。
個人的には縁起がよろしくない場所ですが、土地に文句を言っても仕方がありません。
建築ギルドに声をかけて工期と工費を決めるそうなので、決まったらコウさんのお屋敷まで届けていただくことにしました。
さて、どの程度まで資産をこの街に還元できるでしょうか……。
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