680.滞在七日目:シュミットの聖獣の森

 今日は滞在七日目、帰省もあと四日となりました。


 明日は『総合学習』の指導で丸一日潰れる予定なので実質今日と明後日、明明後日になりますね。


 ちなみに、昨日の夕方帰ってきたディーンはやはりフランカから押し切られ、フランカが成人となる来年に結婚することが決まったようです。


 恋する乙女のパワーってすごい。


 あと、フランカがユニコーンに乗って帰ってきたので事情を聞くと、遠乗り先で契約してきたそうです。


 シュミットの聖獣たちは本当に手が早い。


 さて、七日目になった僕たちですが……やることがありません。


 十日目にはもう一度街歩きをすることにしていますが、決まっている予定はそれくらいでした。


 さて、今日はどうしましょうか?


「ねえ、スヴェイン。シュミットの聖獣の森ってどうなっているの?」


 朝食後のお茶の席でユイが急に尋ねてきました。


「シュミットの聖獣の森?」


「そう、シュミットの聖獣の森」


「どうしたのですか、ユイ。急にそんなことを言いだして」


「いや、私もシュミットにいた頃は恐れ多くて近づけなかったし、コンソールの聖獣の森とは違うのかなって」


「ふむ。森の恵みでもほしくなりましたか?」


「そんなんじゃないよ! 単なる興味!」


「わかってますって。からかってみたくなっただけです」


「本当かなあ……」


「ですが、シュミットの聖獣の森ですか。私も興味がありますわね」


「アリアも? 意外だなあ」


「あら。私どもが出奔する前はシュミットに聖獣の森はなかったのですよ?」


「……そう言われれば」


「それではやることもありませんし、そちらに行ってみましょうか」


「はい」


「やった!」


「ニーベちゃんとエリナちゃんはどうします?」


「ついていくのです!」


「はい。僕たちも興味があります」


「『試練の道』は行きませんよ?」


「わかってるのですよ」


「シュミットで挑みません」


「リリスは……ついてきますよね」


「もちろんです」


「サリナさんたちは?」


「私はデビスさんから紹介された街の工房へ」


「私はジュエル様とお勉強を」


「では決定ですね」


 シャルから一番近い聖獣の森の場所を聞き出し、そちらに向けて飛び立ちました。


 空を飛ぶと数分でついてしまうほど近いのですが。


『懐かしいね。この森』


『そうね。よく私たちが浄化して回っていたところだわ』


「ウィングたちの荒らし回っていた森ですか」


「道理で近いはずです」


『気にしない気にしない』


『さあ、降りるわ』


 僕たちが地上に降りると早速様々な聖獣たちが出迎えてくれます。


 こんなところでも自由奔放ですね。


 さて、聖獣の森には来ましたがどうしましょうか?


「ユイ、聖獣の森でやりたいことでもあったんですか?」


「うーん、コットンラビットが増えていないかなと思って。そうすれば、シュミットでもマジカルコットンの生産量が増えて価格が……まあ、高いままだろうけど乱高下はしなくなるかなと」


「なるほど。しかし、いますかね?」


「話をしても出てこないってことはいないかな?」


「どうでしょう? ただ出てこないだけかもしれませんし……」


 そこまで話していると突然、森の木々が左右に分かれ始め道が出来上がりました。


 ……そんなつもりはなかったのですが歓迎されているようです。


「……どういたしましょう、スヴェイン様」


「聖獣たちは歓迎してくださるようですが……聖獣たちですので……」


「どういうなのか怖いのです」


「うん。気をつけた方がいいんじゃ」


「……仕方がありません。入っていきましょう」


 迎え入れられている以上、入っていかないわけにもいきません。


 さて、奥にはなにが待っているのやら。


「あれ、湖とお花畑があるだけだ」


「聖獣たちの視線は感じますが……それだけですわね」


「用心するに越したことはないですが……何用でしょうか?」


「今回ばかりは僕にもさっぱり……ってあれは?」


 僕たちが入ってきた道とは反対方向にある森の奥からやってきたのは雄々しき体躯を持ったペガサスとユニコーン。


 僕の記憶が間違いなければ、あれは……。


『あれ、僕の親たちだよ』


『そうね。私たちの親だわ』


「ウィングとユニの親、ですの?」


「そうだと思います。お久しぶりです。えーと……」


『ペガサスとユニコーンでよい、人の子よ』


『立派になったな。お前も私たちの子供たちも』


『まあね』


『もう十二年よ。立派にもなるわ』


『そんなに経ったか。我々の感覚ではたいした時間ではなかった』


『聖獣も成体になると時間の感覚が鈍くなるからな。いや、お前たちが人との生活に馴染みすぎているだけかもしれぬが』


 やっぱり聖獣たちの時間感覚ってそうなるんですね。


 僕たちもアムリタを飲んでしまった以上、いずれはそうなるのかもしれません。


『それにしても、お前たち。人の街の近くにこれほど立派な聖獣の住処を作っていたのだな』


『私たちも来てみて驚いたぞ。魔力の質を探れば間違いなくお前たちのものが混じっているのだから』


『いやあ、僕たちも暇だったから』


『夜はやることがなかったものね。街だけじゃなく森も走り回りたかったし』


『人の許可は取ってあったのか?』


『私たちが来たときはえらく驚いていたが』


『ああ、いや』


『特になににも使われていなかったしモンスターもいなかったからいいかなって……』


『お前たち……』


『なにを勝手にやっておるか!』


『やっちゃったものは仕方がないさ』


『それにいまはここも『聖獣の森』でしょう? 大差がないわ』


『そういう問題ではないぞ』


『勝手に聖獣の住処を作るな!』


『気にしない気にしない』


『そうそう。過ぎちゃったことはどうにもならないんだから』


『お前たち、その調子で迷惑をかけ続けてきたわけではあるまいな?』


『心配になってきたぞ?』


『そんなことはないよね、スヴェイン?』


『そこまで迷惑はかけていないでしょう、アリア』


 迷惑、迷惑ですか……。


「まあ、迷惑はあまりかけられていませんね」


「私どもの出奔先をとにかく浄化して回り聖獣たちの住みよい環境に変えた結果、数え切れない程度の聖獣が集まりましたが」


『……すまないな、迷惑をかけていたみたいで』


『悪気はないのだろうが……余計たちが悪い』


『えー』


『賑やかになったじゃない』


「賑やかにも限度がありますよ?」


「まったくですわ。おかげでいろいろ楽しめたのも事実ですが」


『なら構わないでしょう?』


『結果オーライってことで』


 まあ、確かにいろいろ楽しめましたし結果はよかったのですがやり過ぎですよ。


 それにしても、ペガサスとユニコーンはなぜ僕たちの前へ?


『それで、僕たちに会いに来たのって十二年ぶりのあいさつが目的?』


『ああ、それもある。もうひとつ頼まれてもらいたいことがあるのだ』


『頼まれてもらいたいこと? なにかしら?』


『コットンラビットと虹色羊の受け入れ先を用意してやってほしい。人の街の近くに聖獣の森が出来たと聞き集まって来たはいいが、自分たちの居場所がなくて不満を溜めている。なんとかならぬか?』


 コットンラビットと虹色羊ですか。


 シュミットとしてもちょうどいいのではないでしょうか。


「わかりました。お父様と交渉してみます。具体的にどれくらいの数が集まっていますか?」


『あ、ああ……』


『うむ……言いたくないのだが……コットンラビットが二百あまり、虹色羊が三百五十あまりだ』


「それ、全部受け入れられる自信がありません」


『いざとなれば街の近くに畑と牧場を用意してくれればいい。あとは勝手に素材を作って満足するだろう』


『おとなしいとは言え物作りの聖獣たち。素材を作って活用してもらえれば満足するはずだ』


「正直に言ってくださいな。ほかにも物作り系の聖獣で不満を持っておられる方は?」


『……最近、ミストアラクネがやってきた。いずれアラクネシルクを作りたがるだろう』


『あとは……キュクロープスハウンドか。あれもいずれは冶金をしたがるだろう』


「……シュミット、段々聖獣様に侵食されていくね」


「物作りの聖獣たちが集まり始めるときりがありませんからね。まとめてお父様に相談です。ほかにはいませんか?」


は大丈夫だ』


だろうがな』


「シュミット、聖獣さんの国になってしまうのです」


「コンソールって大丈夫なのかな?」


「コンソールは僕の竜たちが見張りについているので大丈夫です。とりあえずお父様のところに行ってきますね」


 大至急と言うことで公王邸に戻りお父様を捕まえて相談です。


 悩みの種だったインゴットの生産能力や魔法布素材が手に入るのは喜んでいましたが……数を聞いて顔が凍りつきましたね。


 結局その日は畑と牧場の範囲策定と聖獣たちの呼び込みだけで終わってしまいました。


 お父様には来年からコンソールにも一定数の魔法布を輸出してもらうことで手を打ちましたけど……今度はシュミットの生産能力が追いつくのでしょうか?


 不安です。

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