681.滞在九日目:シュミット観光 一日目

「ふむ、シュミットの屋台もおいしいのです」


「変わった味付けですけどおいしいですね。なにが違うんでしょうか?」


「原材料も違うでしょうし香辛料も違いますよ」


 シュミット滞在九日目。


 今日もやることが特にないために観光して歩くことにしました。


 昨日は大変でしたが。


「それにしても公王様、『総合学習』をやる気あるんですかね? 心配になるのです」


「はい。子供たちが不安です」


「十五歳で成人したばかりの人に心配される王ってなんでございましょう?」


「さあ……?」


「私も自信がありませんわ」


「僕からもシャルからもついでにディーンからすら『ダメならさっさとやめろ』と言われているのです。見極めをさっさとつけてもらわないと」


 昨日は予定通り『総合学習』の再講義に入りました。


 お父様もアリアに指導された通り講師の数を十名まで増やしていたようですが……まだ見積もりが甘かったようです。


 今週の参加者は先週僕たちが開催したときの噂を聞きつけて集まってきた子供たち六十四名。


 それを午前と午後二回に分けたので三十二名ずつでした。


 午前は僕たちが講師だったため特に問題なく回りましたが午後がちょっと……。


 錬金術を希望した子供はうまく出来なくて泣き出し、魔法を見せてもらいたかった子供は実演時間がなくて不満が出る。


 料理と製菓は分けてそれぞれ講師がついていましたが、複数名を同時に指導しようとしたため目が行き届かず怪我をさせかけました。


 裁縫では刺繍を指導しようとしていましたが講師が刺繍を忘れかけていたため指導方法があいまいになり、ユイに蹴り出されてユイとサリナさんで面倒を見て、文字と算数などの基礎教育では指導が厳しくなりすぎて子供を泣かせアリアがあやす始末。


 午前中に僕が教えた鍛冶やアクセサリー作りでは講師の方が加減がうまくいかず見本を見せられず、午前中に希望がでなかった建築と馬車では教え方すらわからない。


 極め付きは家政の要望が出たことに応えることができなかったことと、要望が出なかった子供たちに教えることがなかったこと。


 そちらは僕たちが急遽講師に入りましたが……講師たちの準備不足があらためて露呈した結果となりました。


 その結果として、リリスとシャルからはきついお説教がお父様と講師陣に入り、僕やディーン、それから後学のためとしてついてきていたフランカにも呆れられる始末。


 まったくもって情けない……。


 お父様は『来週こそ挽回してみせる』と意気込んでいましたが……本当に大丈夫なんでしょうね?


 僕たちはいませんよ?


 おとなしく各学科講義を受け持っている講師陣からどんなことを教えているかを学び、それに加えて基礎教育をすればいいだけなのに……。


 そこまで教えませんけれど。


「先生、あそこからがするのです!」


「あっちからもが」


「はいはい。は禁止ですよ」


「「はあい」」


「あなた方が好きにやってしまうとシュミットの妖精の卵すら買いあさりますからね」


「自重しなさいなふたりとも。シュミットでは妖精の卵を探すのも職人の修行のひとつとユイから学んだでしょう?」


「そうだよ。それにコンソールでもそろそろ自重しないと」


「そうですね。コンソールも妖精の卵を見極められる職人が生まれているかもしれません」


「残念なのです」


「楽しみのひとつだったのに」


「あなた方はもう十分に買ってあるでしょう? 後進に道を譲りなさい」


「先生、錬金術って妖精の卵は付かないのです?」


「そう言えばボクたちの作っているものに付いた経験がないかも」


「錬金術で付きません。錬金術で作っているものは魔法系生産物ばかりです。エンチャント程度ならともかく最初から魔法しか使っていない生産品に妖精の卵は付かないのですよ」


「残念なのです」


「はい。ボクたちも自分で妖精の卵付きの物を作ってみたいです」


「それなら錬金術系統以外の生産スキルを学びなさい。ユイもいるのですから服飾とか」


「それも考えるのです」


「その時はよろしくお願いします。ユイさん」


「うん。サリナほどは厳しくしないけど覚悟してね。あなた方なら気にしないと思うけど」


 僕やアリアの指導を気にしない子たちですからね。


 ユイの指導だって笑って乗り越えるでしょう。


「それにしても変わらないな、シュミットの街並みは」


「あなたがシュミットを出てから……まだ三年程度でしょう? そうそう変わりませんよ」


「スヴェインとアリアから見た時は?」


「それなりに変わっていますね」


「中央噴水広場にペガサスとユニコーンの像なんてありませんでしたわ」


「ああ。スヴェインとアリアが出奔したあとに作られた物だから」


「あとは……大きな建物が増えてますかね?」


「はい。私どもが知っている建物とは違うものが増えております」


「それは多分新しい各ギルドの本部だよ。ここ数年で増築や建て替え、移築されたところが多いから」


「……ああ、聖獣樹の木材」


「そう、聖獣樹の木材」


「細かいところで変わっていますわね」


「裕福な家も建て替えたところが結構あるらしいね。聖獣樹ってそれだけいい木材だから」


「シュミットも潤ってますね」


「潤ってるよ。スヴェインが残した技術とセティ様が教えてくださった魔法技術で」


「捨ててしまったとは言え故国です。やはり活気に満ちあふれていてもらいたいものですよ」


「はい。そう言えばアーロニー領はどうなっていますでしょうか? 私が帰ってきていることはお義父様とお義母様も知っているはずですが……」


「アーロニー領は各種霊樹の産地として栄えています。それを使った魔導具の産地としても」


「ありがとう、リリス。私はアーロニーのお義父様とお義母様に顔を出さずによかったのでしょうか?」


「それについては公王様が確認を取っているそうです。『いまが幸せならそれで十分だ』と」


「……そうですか。スヴェイン様」


「今年は難しいでしょうが来年はアリアのお義父様とお義母様にもごあいさつですね」


「よろしくお願いしますわ」


 アーロニー伯爵とも七年お目にかかっておりませんし、来年はごあいさつするべきでしょう。


 それ以前も年に数回あちらが会いに来てくださった時しかアリアに会っていなかったのですから。


「それにしても先生、コンソールで見かける聖獣とシュミットで見かける聖獣。種類が違いますね」


「そう言われてみればそうなのです。コンソールにいる聖獣さんは『聖獣郷』の聖獣さんと似ていますが、シュミットの聖獣さんは別なのですよ」


「おそらく源流が違うのでしょう。僕の拠点、『聖獣郷』はここより東の彼方。高い山にも遮られていますがレイライン、つまり地脈、魔力の流れでも分断されているそうです。シュミットに集まっている聖獣の多くはここより西側から集まって来た聖獣たち、『聖獣郷』やコンソールの聖獣は東側の聖獣たちが多いはずです。どちらにも共通する種族や、魔力の流れに影響を受けない種族も多いですがね」


「なるほど、そういう違いが……」


「勉強になるのです……」


「ちなみに竜族にも違いがありますよ? 魔力の流れで分断された地域を越える竜は空を長い間飛べる種族がほとんどです。短い距離しか飛べない竜族は魔力の流れを越えようとしません。下位竜などは絶対に近づきませんね」


「本当に勉強になります」


「魔力の流れで分断されるだけでそんなに違うのですね」


「あなた方にはまだ教えていませんが『秘境』や『魔境』などのモンスターや生物、鉱物などの分布も違います。魔力の流れの分断を気にしないのはヒト族ぐらいですが……それでも文明は分断されていることが多いですよ。そこについてもいずれ教えましょう」


「「はい!」」


「とりあえず難しいことは抜きにして今日はシュミット観光ですわ。楽しみましょう?」


「明日もシュミット観光だけどね。今日は私が下町観光を教えてあげる。教えられる範囲で」


「楽しみにするのです!」


「ユイさんの案内というのが不安ですけれど楽しみです!」


「……エリナちゃんじゃなくてサリナだったらこの場で下着を脱がせてお尻百叩きだったわよ?」


 まあともかく、今日はユイの案内で下町巡りとなりました。


 こういう地域でしか売っていないような玩具やお菓子も多いらしく、ユイは懐かしそうに食べていましたね。


 玩具は僕もコンソールで役立つかもしれないのでいろいろ買わせていただきました。


 ニーベちゃんとエリナちゃんも面白そうな物をいろいろと買っていましたが、使うのでしょうかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る