925. 二日目、午前

 午前中の戦い、邪竜族の古代竜エンシェントドラゴンを3匹相手にしての戦いでしたが、防御に徹することでなんとか戦えています。

 やはり数年前の傷は癒えきっておらず、動きも鈍いままでした。

 そのような相手なら、攻撃を防ぎつつ、どこかに行かないように牽制するのは楽なものです。


 邪竜たちとしては、ほかの邪竜に攻撃を仕掛けている聖竜をどうにかしたいのでしょうが、そちらに向かうには僕に致命的な隙を見せることとなります。

 そうなれば、根本的に強さの異なる『帝』と古代竜エンシェントドラゴンでは比べるまでもなく『帝』が圧勝するでしょう。

 それがわかっているからこそ、邪竜の古代竜エンシェントドラゴンも動けないのです。


「とはいえ、僕も攻撃に移れないでいるんですけどね……」


 攻撃をかわすのも相手の動きを牽制で封じるのも容易ですが、いざ本格的に攻撃を仕掛けようとすると、どうしてもこちらの隙が大きくなりそこに攻撃を加えられてしまいます。

 攻撃されても問題ないが反撃できない、そんな状態を3時間くらい過ごしているのですよ。

 少々、疲れてきましたね。

 やはり、竜の戦いに人の体で挑むには持久力が足りません。

 ですが、いったん退くにしろ、この古代竜エンシェントドラゴン3匹には手傷を与えておかないと。


「うーん、巨体から考えると有効打にはなりにくいでしょうが、爪で攻撃してみましょうか。あれならば隙も少ないです」


 僕は腕に光りをまとい、人の体ほどの大きさがある指とそこからさらに伸びる爪を用意しました。

 狙いは……いまブレスを吐こうとしているあいつでいいでしょう。


「それでは、いきますよ……せい!」


「グギャァァァ!?」


 邪竜がブレスを発射した瞬間を狙い、あごの裏から喉元を爪で思いっきり突き刺しました。

 突き刺された邪竜は衝撃を伴うほどの悲鳴を上げ、僕のことを振りほどこうとしてきます。

 僕としてもこのまま爪を突き刺したままではどうしようもないので、大人しく抜かせていただきましょうか。


「ガァァァ……」


 爪を抜かれた邪竜は傷口からどす黒い血を流し、どうするべきかを考えているようです。

 このまま戦っても、あの邪竜は実質的に戦闘不能なので残り2匹も蹂躙されるだけ。

 それならばいっそこの場で逃げ出すべき……というところでしょうか。


「ガァァ!」

 

「グゥァァ!」


 邪竜たちが大きなためを使ったブレスを吐こうとしてきています。

 これは1匹だけ止めても、残りが地上に向かったら大惨事になるものですね。

 安全策をとって空中に逃げましょう。


「グワァッ!」


「ガァッ!」


「ゲァッ!」


 3匹が息を合わせて吐き出してきたブレス。

 それは彼らの頭上を取っていた僕のあとを追いかけ、揺れるように空を灼きます。

 しかし、それも途中までで、ある瞬間、3本のブレスの柱がひとつにまとまりました。

 しまった、その手で逃げますか。


 交わりあったブレスは大きな光りと爆煙を上げて周囲を覆い包みます。

 邪竜なので瘴気もただよい面倒なことこの上ありません。

 瘴気は魔法でさっさと打ち払い、風で爆炎を散らしましたが、古代竜エンシェントドラゴン3匹の姿は見つかりませんでした。

 時間的にもあの巨体を隠しながら身を隠すなどできないはずですが、どういうことでしょう?


 とにかく、いなくなったことは事実です。

 周囲を偵察しながらほかの邪竜たちの様子を見て一度引き上げるとしましょう。

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