213.指輪とローブ
「はい! 『サンクチュアリ』です!」
アリアの魔法がニーベちゃんの『サンクチュアリ』によって砕け散ります。
エリナちゃんのものも見せていただきましたし、本当に半年分の宿題を終わらせていたのですね。
「……うん、聖属性は問題ないでしょう。あとはもっと小さく『サンクチュアリ』を展開できるようになれば魔力消費を抑えられますよ。そちらは今後の課題としましょう」
「「はい!」」
「さて、スヴェイン様の錬金術についても課題の確認は終わりましたし……このあとはどうしましょう?」
「はい! 錬金術道具の自作方法を学びたいのです!」
「そうですね。まだまだ大丈夫ですが、将来に備えて覚えておきたいです」
「あらあら。スヴェイン先生、どうしましょうか」
錬金術道具ですか……。
ミドルマジックポーションも作れるようになってきたようですし、始めるべきですかね。
「いい頃合いでしょう。いまは錬金台も一台で足りていますが、今後は何台も必要になってきます」
「何台も、です?」
「そんなに必要なんですか?」
「ふたりにも見せているでしょう? 武具錬成のときに使う錬金台やハイポーションのときに使った錬金台を」
「ああ、そうでした!」
「ということは、細かく錬金台も分けた方がいいと?」
「少なくとも薬品作りと武具錬成では分けなければいけません。薬品作りでも錬金術師によっては回復専用のものだったり状態異常専用のものだったり使い分けるものもいます」
「先生はどうなんですか?」
「僕は薬品と武具錬成でしか分けていませんね。ただ、薬品作りのグレードによって錬金台を使い分けることはしますが」
「なるほど。ボクたちはどうすれば?」
「とりあえず自作の方法だけ教えます。あとは自分の好みに合わせて調整してください。こればかりは本当に個性が出るのでなんとも」
「セティ様はどうしているのです?」
「セティ師匠は……回復ポーションと状態異常回復ポーション、それから状態異常付与ポーションで分けていました」
「本当に好みなんですね」
「はい。なので作り方だけしか教えられません。各種にあわせた調整方法も教えます。かなり難しいので、気長にやりましょう」
「はいです」
「わかりました」
「結構。では、アトリエに……」
「スヴェイン先生、また忘れているものがありますよ?」
忘れ物……。
ああ、本当にうっかりしていました。
「申し訳ありません。また、忘れるところでした」
「しっかりしてください、スヴェイン先生?」
「はい」
「忘れ物ってなんです?」
「なにか拠点でお忘れになったのでしょうか?」
そう考えられてしまいますよね。
うん、情けない。
「いえ、違います。あなたたちに渡さなければならないものがあったのにそれを忘れていただけです」
「先生!」
「しっかりしてください!」
「本当に申し訳ない」
弟子にまで怒られてしまいました。
本当に情けない。
「それではあらためまして。あなたたちに渡すものです。今回もふたつばかり用意いたしました」
「ふたつです?」
「今度はなんでしょうか?」
「まずひとつ目はこれです」
僕はマジックバッグからふたつの指輪を取り出します。
はめられている石はメインにアレキサンドライトキャッツアイ、それを取り囲むようにダイアモンド。
まったく同じものがふたつです。
「先生、それはなんですか?」
「指輪でしたらカーバンクルの指輪が……」
「はい。それは重々承知しています。ですが、カーバンクルの指輪は防御と回復用。これは攻撃用です」
「攻撃用!?」
「先生!?」
「本来であればこれを渡すのは二年くらい先になるはずでした。ですが、あなた方の成長度合いを考えるともう渡さなければなりません」
「で、でも……」
「攻撃用なんて……怖すぎます……」
「それがわかっているのならば、これを持つ資格は十分にあります。かけてあるエンチャントの種類は明かせません。ですが、どれも魔法効果を増幅させるものばかりです」
「せ、先生……」
「どうして、今のタイミングで……」
「今のあなたたちは有名すぎます。その割に無防備です。いざとなればカーバンクルが守ってくれますが、あなたたちの魔力も有限。魔力が尽きれば、カーバンクルは敵対者を皆殺しにします」
「は、はい……」
「そ、それで、どうすれば……」
「今後は僕も魔法を教えます。アリアは不得手ですが、僕は非殺傷系の魔法も得意としています。それを覚えなさい。カーバンクルに殺人をさせたくなければ」
「わ、わかりました」
「怖いですが、受け取ります」
「結構。個人認証をかけますので指にはめてください」
僕の言葉に従い震えながらも指輪をはめるふたり。
僕はそれぞれに個人認証を行い作業を終了させます。
「その指輪も可能な限り外さないように。いいですね?」
「「わかりました」」
「結構。それではもうひとつなんですが……これはちょっと手を加えなければなりませんね」
「もうひとつはなんですか?」
「また怖いものじゃ……」
「ああ、新しいローブです。いままでのものより遙かに頑丈な。それの素材は教えていませんでしたが、あなたたちのローブにはカラードラゴン五種の革すべてを使用しています」
「「カラードラゴン!?」」
「そういう反応をされるから黙っていたんですよ。今回のローブはエンシェントホーリードラゴン、つまりカイザーが脱皮したときに残った翼膜を使っています。アリアのローブと同じ素材ですので、おそらく世界中でもっとも防御力の高いローブでしょう」
「先生、それも怖すぎるのです……」
「それって、必要なんですか……」
「はい。必要です。あなたたちは『カーバンクル』。錬金術師としてこの街では僕の次に有名でしょう。この街の冒険者は僕の庇護下にあるあなたたちを狙うような愚かな真似をしません。ですが、ほかの街から来ている冒険者たちまではわかりません。なので、このローブを渡します」
「そう言われると私たちはすごい人間になってしまったのです……」
「ボク、一年前までは魔力水すら作れなかったのに……」
「このローブはフードをかぶってなくても頭部などを守ってくれますし、無理矢理剥ぎ取ることができるとしたらエンシェントドラゴンくらいでしょう。あなた方はこの街、いえ世界でもトップクラスの錬金術師に近づいている事をそろそろ自覚せねばなりません」
「わかったのです」
「わかりました」
「結構です。それで、手を加える部分なのですが……紋章がカーバンクルだけだったんですよね……」
「それだと問題があるのです?」
「なにも問題がないような?」
「あなた方、鳳凰とフェニックスとも契約したでしょう?」
「「あ」」
「その意匠も加えねばなりません。ついでに色も少しずつ変えましょう。少々お待ちを」
今回も青一色で作っていたローブですが、それぞれ、赤から青へと変わっていくグラデーションとします。
また、ニーベちゃんのローブには鳳凰のデザインを、エリナちゃんのローブにはフェニックスのデザインを組み込みました。
これで完璧ですね。
「完成しました。それではあらためて、僕の弟子であることを示すローブです。受け取ってください」
「はいです!」
「ありがとうございます!」
ふたりは早速ローブを着替えて嬉しそうにはしゃいでいます。
こうしていると年相応の少女なのですがね……。
「もう一点注意事項を。今後は出かけるときルビーとクリスタルに乗って出かけるように。若い個体とはいえどちらも高位聖獣です。人間ごとき殺さずに戦闘不能とする手段はいくらでも持っています。無益な死人を出したくなければ守るように」
「わかりました!」
「気をつけます!」
「よろしい。では、錬金術道具の自作方法を一連の流れだけ見せましょう。今日は実習するほどの時間がありません。それはまたいずれ」
「楽しみにしています!」
「はい!」
「あらあら、本当に嬉しそうですね。ふたりとも」
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