212.ニーベとエリナの聖獣契約

 僕たちがコンソールに戻ってきた翌朝、朝食を済ませたあと遂にニーベちゃんとエリナちゃんの聖獣契約が始まります。


「うー、ドキドキします……」


「カーバンクルのときより緊張するね……」


 仕方がないでしょうね。


 鳳凰もフェニックスもカーバンクルより遙かに高位な存在ですから。


 ワイズの見立てですから間違いはないと信じたいのですが、本当に大丈夫なのでしょうか?


「スヴェイン殿、本当に大丈夫なのかね?」


「見た限りどちらの方も高貴なお方に見えますわ。今のふたりで大丈夫ですか?」


 コウさんとマオさんもかなり心配な様子。


 ハヅキさんもおろおろしていますし……どうしたものでしょうか?


『そこまで心配はいらぬぞ。あの魔力量なら十分に契約できる』


「ワイズ」


 皆が心配しているところにやってきたのはワイズでした。


 彼が言っているので試させるのですが……本当に大丈夫なんですよね?


『鳳凰もフェニックスもいろいろと策を考えて契約を望んできておる。それを計算に入れて儂は大丈夫だと判断した』


「本当に大丈夫なんですか? 聖獣基準の『大丈夫』はときどき当てになりません」


『お主、そんなことを考えていたのか……』


「心当たりがないとでも?」


「そうですわね。ワイズにはかなり無茶をさせられました」


『ぬぬ……。だが、今回は大丈夫じゃ。お主が作ったカーバンクルの指輪もある。無理そうだと感じたら強制中断させればいい。それで良いな』


「……まあ、それでいいなら」


 強制中断、あれってショック症状が出るので好ましくないんですよね。


 ですが魔力を吸われ尽くすよりマシです。


『ニーベ、エリナ。始めるがよい』


「はいです」


「わかりました」


 ニーベちゃんのお相手は鳳凰、エリナちゃんのお相手はフェニックスです。


 それぞれが各自の相手に対して魔力を流し始めて……ああ、なるほど。


「あれ? あまり苦しくないのです」


「本当だ。カーバンクルのときみたいに吸い出される感じがしない」


『だから言ったじゃろう。策を考えて臨んでいると』


 鳳凰とフェニックスがやっていることは簡単な事。


 それぞれの相手から送られてきた魔力をだけ。


 これにより魔力の循環が発生し、契約に必要な魔力を送っているのに苦しくない、という状態になっているのです。


「スヴェイン殿、アリア嬢。これは大丈夫なのか?」


「ふたりともかなり落ち着いていますが……」


「はい。大丈夫です。ただし、この方法では非常に時間がかかります。おそらく三時間はこのままでしょう」


「三時間、か」


「とても長いですわね」


「ふたりの様子は僕たちで見ています。おふたりはお仕事の方へ」


「……さすがに娘たちを放っておけぬ」


「ですわね」


「そうですか……」


 ……まあ、そうでしょうね。


 かなり安全なんですが。



********************



「そろそろ三時間がたちますわ」


「娘たちの様子は……変わらないな」


 だと思います。


 送った分の魔力が帰ってきているのですから。


 ですが、そろそろ終わる頃合いですね。


「あ、魔力が抜けていきました」


「ボクの方も」


「……終わった、のか?」


「ずいぶんあっけないのですが……」


「普通、聖獣たちがここまで気を遣う事などありえませんから」


 吸収された魔力は最後に途切れたときの分だけでしょう。


 聖獣契約とはこんな生やさしいものではないはずなんですけどね。


「ふたりとも、名付けを」


「あ、そうでした!」


「そうですよね。何にしましょう……」


 ふたりとも本当に契約できるとは考えてもみなかったようで、名前がまったく思い浮かばないようです。


 あれこれ悩んだ末に出た結論は……。


「うん! カーバンクルがガーネットなので鳳凰はルビーです!」


「フェニックスはクリスタルにします」


 二匹の体が輝き少しだけ成長しました。


 契約はこれで成立ですね。


「先生、契約終了ですか?」


「はい。終了ですよ」


「でも、この子たち喋りませんね」


「多分喋れないほど若い個体なのですわ。カーバンクル同様、育っていけばいずれは喋れるようになるでしょう」


「そのときが楽しみです、ルビー!」


「これからよろしく、クリスタル」


 ふたりの呼びかけにそれぞれが応えると、くるりと背中を向けてしゃがみ込みました。


 意外と甘えたがりなようですね。


「先生、これは?」


「どうしたのでしょうか?」


「ふたりを乗せて空を飛びたいそうです。せっかくなので乗せてもらいなさい。僕たちもウィングとユニで一緒に行きます」


「空を飛べるのですか!」


「それは楽しみです!」


 ふたりは早速背中に乗り込むと二匹とも宙に舞い上がります。


 ただ、それだけしかしないということは僕たちを待っているのでしょう。


「スヴェイン殿、大丈夫なのかね?」


「若い個体とはいえ聖獣です。大丈夫ですよ」


「それでは、おふたりを連れて空の散歩に行って参ります」


 僕たちがウィングとユニにそれぞれまたがって空を飛べば、ルビーとクリスタルもあとをついてきます。


 若い個体とはいえ高位存在、飛ぶ速度は速いですね。


「さて、どこに行きましょうか?」


「どこでもいいのです!」


「ユニも空は飛んでくれませんでしたので……」


『許可がなければ危ないもの』


「では、適当に……カイザーのところに行きましょうか」


 僕たちは空を舞い、一路カイザーの居座る街道へ。


 カイザーも僕たちを見つけると立ち上がって応えてくれました。


 そのあとも、夕方近くまで弟子たちは空の旅をせがみ続け、お屋敷に戻ったのは夕食近くになってからです。


 いい思い出になりましたかね?

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