947. 中等症の患者
午前中は初期症状の患者の治療に従事しました。
ひとりひとり麻痺させて薬を飲ませ、麻痺を解除して状況を説明するのでかなり時間がかかったんですよね。
これでも全体の3割程度しかいなかったのらしいのですから先が思いやられます。
少し休憩を挟んで、次は中等症の患者たちの隔離室へと向かいます。
今度の病室は、初期症状の患者同様患者が鎖でつながれているものの、暴れている様子はなく。むしろ大人しく感じてしましますね。
一体どういうことでしょうか?
「ボス、これは?」
「中等症になると暴れる力もなくなってくるのさ。食事だけは飲み込めるようだが、言葉もまともに発することができない。それでも助けるのかい?」
「助かる見込みがあるなら。ひとまず薬を試してみましょう」
患者のひとりに近づいてみると、初期症状の患者では黒い筋だったものが、黒い斑点のように体中に浮かび上がっています。
これは相当毒が体を侵食しているのでしょう。
果たしてこの状態で助かるのでしょうか?
「どうするのだ、スヴェイン殿?」
「念のため、麻痺させてから飲んでもらいましょう。吐き出されても困ります。薬効が薬効だけに、半端に効くともう一度とはいきません」
最初の患者には麻痺してもらい、口の中に回復薬を注ぎ込みます。
それを飲み干したあと、体中にあった黒い斑点が消えていきましたが、斑点のあった場所が茶色いあざのようになってしまいました。
これはあまりよろしくないですね。
「スヴェイン殿、これは……」
「僕たちの想定以上に侵食が進んでいたようです。用意した回復薬では再生しきれなかったのでしょう」
「どうするのだ?」
「再生効果をこれ以上高めるのは人体にとって有害です。厳しいですが、これも麻薬に手を染めた罰として受け入れてもらいましょう」
麻痺から解かれた患者はどこか意識がはっきりせず、呆けたような顔をしていました。
これは脳の再生も追いついていないようですね。
これではまともな日常生活を送ることは困難でしょう。
さて、どうしたものか。
「スヴェイン、治療はうまくいったのかい?」
「ボス。治療はうまくいきましたが、麻薬の侵食が想像以上に強かったようですね。体の再生が追いつきませんでした。これではまともな生活を送ることは難しいでしょう」
「ふうん。ギルド評議会では引き取れないと?」
「すぐに出せる結論ではないですね。リハビリ施設の用意をするのも時間がかかりました。ギルド評議会は大きな組織ですので、重要な決定には時間がかかることもあるんです」
「まあ、わかった。今回の患者は私らで一度預かろう」
「いいんですか?」
「完全に治療する薬なんて作れないんだろう? ギルド評議会が動くまでの間は預かっておくよ」
申し訳ありませんがボスの申し出を受け取っておきましょう。
治療薬を再研究するには時間が足りませんし、これでも人体に悪影響のでないぎりぎりのラインなのです。
申し訳ありませんが、中等症以上の患者は完全に回復できないと判断しましょう。
しかし、中等症でこれだということは、重症になるとどれだけのことになっているのか。
想像したくもないですね。
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