73.帰りの護衛選考

「ふむ、私は2番のパーティに4番のパーティを指導させるのがよいと思います」


「爺さんもそう思うか。俺たちもそう思っていたんだ」


 マオさんたちの出発を明日に控え、僕たちは帰りの護衛を選ぶことになりました。


 護衛のリーダーになる【ブレイブオーダー】の皆さんが候補のパーティを連れてきてくださり、面接を行いました。


 今は面接が終わったあとの最終選考ですね。


 これには、孫娘が同行することになったエルドゥアンさんも手を貸してくれてます。


「私たちとしても女性が多いというのは助かります。ねえ、オーナー?」


「そうですわね。やはり、冒険者の方々は男性がほとんどとわかっていても……ね」


「まあ、それもあってこの人選だったんだがな。2番のパーティ【ドラゴンブレス】は、4番の【アクアボルト】の姉貴分らしいんだよ。【アクアボルト】ははっきり言って、護衛をするには力不足、経験不足だが【ドラゴンブレス】が補ってくれるなら問題はない」


「そうですね。見た限り、【アクアボルト】の4人はまだまだですが、コンソールまでの旅ならなんとかなるでしょう。彼女たちは拠点をコンソールに移したいのですか?」


「そうらしい。やっぱり、コンソールの方が実入りの大きい依頼は多いからな。その分、危険も多いんだが……」


「そこは自己責任というものです。冒険者なのですからな」


「爺さん、厳しいねぇ。同感だけどな」


「コンソールの依頼はほとんど見てこなかったのですが、Dランククラスだと、どのような依頼があったのでしょう?」


「んー? 一番多いのがモンスターの間引きだな。時期によるがゴブリンやウルフ、オーク、コボルト、いろいろあるぞ?」


 Dランクでオークも相手にするのですね。


 僕も子供の頃から相手にしていましたが、装備の質が違いましたし、魔法メインでしたので……。


「……彼女たちの装備ではオークにはかないませんね」


「お、一目見ただけでそこまでわかるか」


「ええ。これでも鑑定には自信があります。それに、錬金術でですが装備も作りますから」


「それって『武具錬成』って奴じゃねぇか? かなり高度な技術だと聞いているが……」


「スヴェイン様は見た目以上の錬金術師ということでございますよ」


「……だわなぁ。俺たちが生きてるのも、尋常じゃないポーションのおかげだし」


「リーダー、話が逸れてきてるぞ」


「おっと、悪ぃ。じゃあ、2番と4番、【ドラゴンブレス】と【アクアボルト】に決定ってことで文句はないな」


「私からは異存ありません」


「僕たちも大丈夫だと思います」


「マオさんたちは構わないですか?」


「ええ、冒険者の皆様が決めてくれたことに素人が口だしするわけにも参りません」


「じゃあ、決定だ。結果を伝えに冒険者ギルドまで行ってくる」


「ええ、よろしくお願いしますわ」


「スヴェインたちはどうする? 話に聞くと、この間、顔を出したようだが……」


「そうですね、もう一度くらい顔を出しておきましょう。もう1週間程度は滞在しますが、その間に冒険者ギルドへ行くかどうかわかりませんし」


「わかった、じゃあ一緒に来てくれ」


 僕とアリアも【ブレイブオーダー】の皆さんと一緒に、依頼の選定結果を伝えに冒険者ギルドまで向かいます。


 ギルドに到着するまでは問題なかったのですが、到着してからが問題でした。


「俺たちが選考外でアイツらが指名されたってどういうことだよ!」


「俺にすごむな。今回の依頼主は女性メインだ。そうなると、旅の護衛も女性が多い方が安心するという判断だよ」


「そんなことで納得できるか!」


 あー、これはしばらく揉めそうです。


 さて、どうしましょう?


「おう、スヴェインにアリアじゃないか。今日は見学か?」


「ああ、いえ。あちらの【ブレイブオーダー】の方々と一緒に護衛依頼の選考結果を伝えに来たんです」


「へー。だが、あれは揉めそうだなぁ。あいつら、腕はいいんだが護衛依頼とかだとトラブルが多いんだよ」


「そうだったんですね、知りませんでした」


「まあ、この街に詳しくないと知らないわな。とりあえず、ジュースを一杯おごってやるから少し話をしないか?」


「おごっていただかなくても話は聞きたいですね」


「おごるのは、年上の甲斐性みたいなもんだからおごられておけ。おーい、果実水、ふたつ」


「おうよ。そいつらの分だったらサービスしとくから持ってけ」


「サンキュー。ってわけだから、最終的には酒場のマスターのおごりだ」


「ありがとうございます、マスター」


「ありがとうございました」


「気にすんな。イナちゃんの歌がまた聴けるようになって、俺たちも嬉しいんだからよ」


「で、アイツらの件だが。パーティ名は【ハンティングエッジ】って言ってな、専門はモンスター退治だ。モンスターを倒す腕前だけならCランクでも上位にあたる」


「では、相応に強いのですか?」


「あー、『倒す腕前だけなら』強い。だが、新人やほかの街から来た冒険者とたびたびトラブルを起こしたり、護衛依頼で雇い主と揉めたりと対人関係の構築に多大な問題を抱えている。だから、Cランク止まりなのさ」


「Bランクになるには対人関係も判断されるんですか?」


「アリアの嬢ちゃん、正解だ。Cランクになるにはモンスター退治や盗賊退治なんかの実績だけでもいけるが、Bランクになろうとすると一定以上の推薦や評価が必要になるのさ。それこそ難しい護衛依頼の達成とかな」


「なるほど……Dランク止まりでくすぶっている人には注意と言われたことがありましたが……」


「Dランクまではわりと簡単に上がってくな、無理をせずに堅実にやっていけば。DからCはモンスター討伐や盗賊討伐の実績が必要になるからくすぶりやすい。CからBはもっとだ」


「貴重なお話ありがとうございます」


「いいや、気にするな。……そうだ、お前たち特殊採取者だったよな? ちょっと受けてほしい依頼があるんだ。話だけでも聞いてもらえないか?」


「はい。どのような依頼でしょう?」


「それはだな……」


「あのガキどもでもできた護衛なんだろう! なら俺たちが受けても問題ないだろうが!」


 おっと、どうやら火の粉がこちらに飛んできたようです。


 どうしましょうか。


「気にしなくていいぞ。アイツらの常套手段だ」


「うーん、ですが【ブレイブオーダー】の皆さんにこれ以上お時間を取らせるのも悪いです。ちょっと行ってきますね」


「あ、おい!」


 とりあえず、僕ひとりで例の【ハンティングエッジ】という方々のところに向かいます。


 彼らはニタニタと笑っていますが……実力差を把握できないのでしょうね。


「おい、【ブレイブオーダー】さんよ? このガキでも護衛のひとりになれたんだから、俺たちでもなれるよな?」


「……すまないな、スヴェイン。俺たちだけで説得しきれなかった」


「いえいえ。手っ取り早く話をすませましょう。僕相手に勝てたら、護衛として雇ってもらうように交渉しましょう」


「話がはええじゃねぇか。よし、訓練場へ行くぞ。そこで模擬戦だ」


「ええ、構いませんよ。その代わり、負けたら大人しく諦めてもらいます」


「いいぜ! お前みたいな子供に負けるわけないからな!」


 後ろで【ブレイブオーダー】の皆さんが、やれやれといった雰囲気を出しています。


 僕もさっさと終わらせたいですね。

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