74.マオさんとの別れ
「おい! スヴェインひとりにお前たち3人がかりか!」
「ああ? なにか問題があるのか、タイガ? こいつは俺たち相手に勝てるって言ったんだぞ?」
さっきの冒険者さんは『タイガ』と言うんですね。
いい方のようですし、覚えておきましょう。
「子供相手に卑怯だと思わねーのかよ、【ハンティングエッジ】!」
「しかも、スヴェイン相手だと!? ふざけんな!」
「この試合が終わったらボコボコにしてやる! 待ってやがれ!」
模擬戦をやるため、ということで訓練場から退いてくれた方や酒場の方から心配してついてきてくれた方など、たくさんの人がいます。
あまり、お手間をかけさせるわけにもいきませんし、さくっと終わらせましょう。
「早く始めましょうか。時間の無駄です」
「てんっめ……そうだな! 早くぼこってやるよ!」
「おい、模擬戦開始はまだ……」
「うっせぇ! 行くぞ、お前ら!」
審判員の開始の合図を待たずに攻めかかってきましたね。
散々煽ってはいますが、確かに人格に問題がありそうです。
「サンクチュアリ」
「んがっ! なんだこの壁は!」
「くそ、殴っても壊れねぇ!」
「一体なんだよ、これは!?」
ふむ、知識も不足していますね。
……この程度でCランクって名乗れるんですか、不安です。
「さて、今度は僕の番ですね」
僕はストレージから蒼い魔装剣、『装剣ハイドロエッジ』を取り出します。
普段はあまり使わないのですが、たまには使ってあげましょう。
「『切り裂け』ハイドロエッジ」
僕のキーワードに反応してハイドロエッジから魔力刃が発生します。
それを【ハンティングエッジ】の武器めがけて飛ばしました。
すると、彼らの武器は中程からきれいに切断されて宙に舞います。
「は?」
「お?」
「なんだ?」
「さて、仕上げです。セイクリッドブレイズ!」
「あ、おぉぉ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「なんで、白い炎が熱い!」
「無知ですね。聖属性の魔法も密度を上げれば生物に効くのですよ?」
セイクリッドブレイズの炎に焼かれる3人ですが、殺すのも後味が悪いので体内の魔力を焼き払い、肉体にダメージが入り始めたところで解放します。
うん、まあまあですね。
「おい、早く、担架を!」
「魔力枯渇による気絶ですから死にはしませんよ? 3日間ほどは眠り続けるでしょうが」
僕のその声は意外と大きく響き渡ったようです。
そして、次の瞬間には大歓声が巻き起こりました。
「いいぞ、スヴェイン! お前、強いじゃねえか!」
「見た目にだまされてたぜ! 今度俺たちとも手合わせしてくれ!」
「いいぞ! 【ハンティングエッジ】も最近調子づいてたし、いい気味だ!」
うん、概ね好意的な反応でよかったです。
冒険者の皆さんに歓声をかけられながら訓練場から出て行くと、【ブレイブオーダー】の皆さんと【ドラゴンブレス】、【アクアボルト】の皆さんがいました。
タイガさんとアリアも一緒ですね。
「スヴェイン。お前、あんなに強かったんだな……」
「ええ、まあ。必要な素材を集めたり、スキルを鍛えたりする間に強くなりました」
「タイガさん、言っただろ。俺たちよりもスヴェインの方が強いって」
「信じられないだろうに。しかし、そうなるとランク詐欺の問題があるな……盗賊討伐の実績は?」
「残念ながら。まだ冒険者登録から1カ月経っていませんし」
「なるほど。よほど困難な依頼をこなした実績でDランクまで上がったのか。なら、特殊採取者のままの方がいいな」
「その方が波風が立ちませんよね?」
「ああ。特殊採取者なんて奥地までレアな素材を取りに行ったりする連中だ。ランクと強さがかみ合わないものがほとんどだよ」
「それはよかった。それから、【ドラゴンブレス】と【アクアボルト】の皆さん、帰りはマオさんたちの護衛をよろしくお願いします」
「あ、ああ。でも、あなたが護衛をしてこの街に戻ってきた方が……」
「元々、片道だけの予定だったのです。それを変えるつもりはありません。容態が心配な患者もいますしね」
「それってイナさん……わかったわ。必ず、依頼主を無事に送り届ける」
「よろしくお願いします。それで、タイガさん。先ほど受けてほしい依頼があると聞きましたが……」
「いま、この空気で言うか? 明日以降にまた来てくれ。俺は基本的にこのギルドにいるから」
「わかりました。それでは」
無事、引き継ぎも終えましたし、あとはお任せいたしましょう。
さて、戻ったらマオさんに渡すものを渡さないと……。
**********
「オーナー、荷物の積み込み完了です!」
「わかりましたわ。冒険者の皆様もわざわざ宿まで来ていただき助かります」
「いえ、今回は宿までの護衛もいないことですし」
「必要なら、街門までは見送りましたよ?」
そんな薄情だと思われていたとは心外です。
「ああ、そう言うわけじゃなくてだな……」
「若い子たちにいろいろとマナーを覚えさせたいのさ。だから、わざわざここまで出向いたんだよ」
「うっさい。……まあ、そういうわけだ」
「そうでしたか。では、マオさん、しばしのお別れです」
「次に会うのは……1カ月半ほど先ですわね」
「それくらいですね。……ニーベちゃんにはこの手紙を渡してください」
「この手紙は?」
「エリナちゃんが合流したことによる、指導予定の変更内容を書いてあります。これをよく読んでふたりで目標を達成できるように言い聞かせてください」
「わかりましたわ。必ず渡します」
「よろしくお願いします。……エリナちゃんも来たようですね」
「お待たせしました、マオ様」
「マオさん、で結構ですよ、エリナちゃん」
「え、でも……」
「そこは追々慣れていただきましょう。あなたの荷物も積み込んであります。馬車は私と同じものになりますから、旅の間よろしくお願いしますね」
「は、はい!」
エリナちゃん、緊張していますね。
まあ、無理もないですか。
「さて、エリナちゃん。あなたにも手紙を書いておきました」
「手紙、ですか?」
「これからコンソールに向かうにあたって練習すること。そして、コンソールでマオさんの家で姉弟子にあたるニーベちゃんに学ぶことを書いてあります。ニーベちゃんにも手紙を書いてありますが、あなたにも課題として出しておきます。僕が次にニーベちゃんの家を訪れる約1カ月半後までに課題を進めておくように」
「はい! わかりました!」
「よろしい。僕からは以上です。あなたは基本がおろそかになっているので、その修正からはいることになります。それを忘れないように」
「はい!」
「では、先に馬車に乗っていてくださいまし。エルドゥアン様たちにごあいさつしてきますので」
「はい、お先に失礼します!」
エリナちゃんが馬車に乗り込むと、エルドゥアンさんとレオニーさんが近くにやってきました。
ふたりともどこか心配そうな顔をしていますね。
「マオ様、エリナのこと、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
「ええ。スヴェイン様からも頼まれていますし、ニーベのためでもあります。大切にお預かりしますわ」
「はい。……それから、少ないですがこれを」
エルドゥアンさんは金貨が入った袋をマオさんに渡そうとします。
ですが、マオさんはその袋をそっと手で制しました。
「お金は必要ありませんわ。私たちの都合で預からせていただく側面もありますし」
「しかし、錬金術師の修行にはなにかとお金が……」
「実は、その費用はすでに師匠が支払っているのですの。弟子の初期費用くらいは自分が出す、といいまして」
「な、スヴェイン様?」
「まあ、そういうわけです。初期費用は僕が持ちます。今後必要になってくる費用は、自分たちで稼いでもらいますが」
「……と、こういうスパルタな師匠ですわよ。最初だけは甘えておくべきですわ」
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「ええ。……それでは、そろそろ出発いたしますわね。ごきげんよう、皆様」
「はい。マオさんたちもお元気で」
「道中、お気をつけて」
マオさんが馬車に乗り込むと、彼女たちを乗せた馬車はゆっくりと動き始めました。
そして、街門がある方向へと進んで行きます。
なんだかんだ、マオさんとは長い付き合いでしたね。
さて、朝食をいただいたら、タイガさんのところに行ってみましょう。
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