264.ミライもまた弟子、新生コンソール錬金術師ギルド誕生
「あー、演壇に立たされちゃいました。事務員から引っこ抜かれただけのサブマスター、ミライです」
いや、本当になにを言えば……。
「実を言えば私も旧コンソール錬金術師ギルドで腐っていた人間のひとりです。あの前ギルドマスターと威張り散らすしか能のない錬金術師どものお世話をして、適当な時期に結婚をして家庭を持つんだろうなーとかしか考えてませんでした」
ああ、なにを言ってるの、私!?
「そもそもスヴェイン様との出会いからして偶然です。ギルド評議会のジェラルド様から、新しいギルドマスターが来たのでその案内役をやってほしい、と頼まれただけです。ぶっちゃけ、その前に講堂で行われた前サブマスターの追い出しも見ていませんでした」
ああ、こんなこと言ってたら幻滅される!?
「それで案内役を任せられて新しいギルドマスターの顔を見に行けばまだまだ子供。落胆を隠すだけでも精一杯でしたよ、ええ。昔は受付業務をしていたので、愛想笑いは得意でしたからなんとか持ちこたえましたが。……カーバンクルの主となったいまだからわかりますが、そんなのすべて見抜かれていたんでしょうけどね」
うわーん!
こんなこと言ってたら本当にサブマスターから解任される!?
「その上で滞っていたサブマスターやギルドマスターの事務処理を押しつけられ、本人はなにをやっているんだろうなとこっそり覗きに行けば見習い……今の第二位錬金術師たちへのあり得ない速度での錬金術指導。ああ、もう、燃えないわけがないじゃないですか!」
本当になに言ってるの!?
「そのあとは書類を全部片付けて、ときどきこっそり指導の様子をのぞき見に行っていました。……すべてお見通しだったのでしょうが」
ああ、もう、どうにでもなれ!!
「ギルドマスターのお試し期間が終わる最終日、私は呼び出されてサブマスターにされちゃいました。最初は本当に困惑しましたが、内心ではすごく嬉しかったです。自分の頑張りが認められることがこんなに楽しいだなんて」
……本当に困惑とうれしさがごっちゃになってましたからね。
いまだったら喜んで引き受けるのですが。
「そのあとは……まあ、皆さんご存じの通りです。ギルドマスター相手に軽口を叩いているのも本心は見抜かれていでしょうから省きます」
軽口でも叩いていないと興奮しそうですからね。
本当に、ほんっとうに、ニーベ様、エリナ様がうらやましくてたまりません。
「その上で皆さんに言えるのはひとつだけ。スヴェイン様のあとを追いかけましょう。あの方は『努力の鬼才』。立ち止まることを良しとしない以上、追いつくことはありません。でも足跡のひとつやふたつは見つかります。それを探すだけでもいいじゃありませんか? 今の私たちができることはそれだけなんですから。私からは以上です」
……言い切った。
言い切ってしまった。
そして、帰ってきたのは喝采。
ああ、これでよかったんだ。
『ふむ。やはりこの場はよい。活気と熱気に満ちている。実に私好みだ』
誰!?
振り向いてみると、そこにいたのは鎧に身を包んだ巨大な虎!
聖獣!?
「あの、あなた様は……」
『私はアーマードタイガー。誇りあるものを守る鎧』
「は、はぁ」
なんでしょう?
そのような方がなぜこの場に?
『お前たちの誇りと覚悟しかと見届けた。それで、ここの主たる少女よ。この場はなんという?』
「え、主? 主はスヴェイン様……」
『あれは、『聖獣郷』の主は違う。今でこそひな鳥たちに餌を運んでいるが、ひな鳥たちが巣立ちを迎えれば去って行くもの。故に、今の主は少女よ、お前だ』
……なんだか、すごい話になっているんですけど!?
『それで、この場の名はなんという?』
なんだかすごいことになりそうなんですけど……怯えてもいられませんね!
「コンソール錬金術師ギルド……いえ〝新生コンソール錬金術師ギルド〟です!」
私が名前を告げると虎が光り輝きました。
やっぱりこれって【聖獣契約】じゃないですかぁ!!
『契約は果たされた。お前たちが誇りと覚悟を忘れぬ限り、私がお前たちの鎧と牙になろう』
うっわー。
超大事ですよ?
これはスヴェイン様に報告できませんよ!?
絶対にばれますけど!!
『……そうだ。私は魔草が好みでな。お前たち人間の作るマジックポーションとやらにも興味がある。味見がてら腕前を測ってやろう』
会場騒然。
ですよねー。
聖獣自らマジックポーションの腕前を見てくれるんですからねー。
私はもう知りません!!
『それでは、私はここの前庭に棲み着かせてもらう。……ああ、マジックポーションの味見は多くても一日ひとり一回までだ。忘れるな』
それだけ告げたらのしのし壁の方へと歩いて行き、壁をすり抜けて消えていく虎さん。
そっかー。
私だけじゃなく、コンソール錬金術師ギルド、いえ、新生コンソール錬金術師ギルドも人外方面かー。
「あ、あの。ミライサブマスター。いまのって……」
「【聖獣契約】です。新生コンソール錬金術師ギルドは、あのアーマードタイガー様と契約を結びました」
「へ?」
「皆さんが先ほど語った誇りと覚悟。それを忘れなければ、このギルドを守っていただけるそうです」
「それって、ものすごいことでは?」
「ものすごいことですよー。あと、マジックポーションの味見……と言う名の出来映え判定も請け負ってくれるそうです。よかったですねー」
「ミライサブマスター。なんでそんな投げやりに……」
「私だってパンクします! なんなんですか、もう!?」
さすがにこれ以上は知りません!!
********************
弟子とついでにギルドの錬金術師全員に最高品質ミドルポーションの作り方実演を終えた次の日、錬金術師ギルドに出勤してみると珍客がいましたよ?
「アーマードタイガーさん? ここでなにを?」
『大したことではない。ここが気に入ったから休ませてもらっている。ただそれだけだ』
「はあ……?」
聖獣とは気まぐれなもの。
なにかの気まぐれでしょうか。
「ええと、ここにはペガサスとか鳳凰、フェニックスも……」
『知っている。ケンカはしないから気にするな』
「ならいいのですが」
やっぱり聖獣の考えは僕でもよくわかりません。
『……そうだ。一般品質のマジックポーション、それから高品質と最高品質のマジックポーションを飲ませてはもらえぬか?』
「そういえばアーマードタイガーは魔草が好みでしたね。一般品質のマジックポーションは作り置きがあるのですが、それ以外はいま作らないといけません。それでもよろしいですか?」
『構わぬ。よろしく頼んだ』
「はい。……できました。それでは、どうぞ」
『うむ。……いや、実にうまい。お主のポーションを飲んだことのある聖獣たちが自慢して回るのもわかるというもの』
「ありがとうございます。ミドルマジックポーションや高品質ミドルマジックポーションもありますが飲みますか?」
『そこまでしてもらっては舌が肥えすぎる。いま程度がちょうどいい」
「はあ? それでは失礼しますね」
『うむ。この場の守りは任せろ』
「ん? はい」
アーマードタイガーってどこでも守る種族でしたっけ?
そして出勤早々ミライさんから持ち込まれた案件ですが……。
「ギルドの名称変更?」
「はい。このギルドは完全に生まれ変わりました。古い体制からの決別としてギルド名も変えたいと、皆さんからの要望でして」
「まあ、頭に新生とつくだけですし構いませんよ。変なギルド名だったら恥ずかしいので却下したところですが」
「わかりました! すでに予算は取ってありますのですぐにでも看板を作り直してもらいます!」
ミライさん、走って出ていってしまいました。
そんなに大事ですか?
窓の外を見ればアーマードタイガーにポーションを飲ませている錬金術師もいますし。
ミライさんにつけている聖獣から報告がないと言うことはそこまで大事ではないのでしょう。
そろそろ弟子たちもやってくる頃でしょうし、今日はおとなしく高品質ミドルマジックポーションの作製練習をしていてくれますかね……。
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