975. 裏社会の女の来訪

***ミライ


 私はギルドマスター代行としてせっせと働きました。

 働きましたとも。

 さすがに研究関連はギルドマスターであるスヴェイン様か次期ギルドマスター代行のハービーにしかわからないのでそちらに任せましたが、書類作業などは頑張りました。

 でも、それにしても、スヴェイン様のやっていた作業って多い……。


「ミライ様、少し休憩にしませんか?」


「はい、アシャリさん。いや、それにしても、本当にこれだけの書類を仕分けていたんですね」


「そうですね。私たちから上がってくる事務関係の書類だけではなく、各ギルド間の連絡書類、研究班であるギルド員からの報告書など多岐にわたると思います。さらに、その上自分の研究やハービーさんへの指導も行っていたんですから、その仕事量は想像しがたいです」


「うーん、その一部だけでも代行できませんかね?」


「おそらく無理でしょう。事務の仕事はすべてギルドマスターの決済が必要なところまで処理してから渡しています。各ギルド員からの研究報告書はギルドマスターの直轄ですし、ギルド間の連絡事項もギルドマスターとサブマスターの間でやりとりされるものです。仕事量を減らすのは難しいでしょう」


「うーん」


 久しぶりにギルド事務をすべて担当することになったけど、これは本当に過労を起こす。

 私じゃこんな量の仕事をさばききれない。

 もう少しスヴェイン様の仕事量を減らす手段はないものかな。


「失礼します。あの、ギルドマスターに面会希望という女性が受付に来ています」


「ギルドマスターに? スヴェイン様にですか?」


「はい。ただ、ギルドマスターに会うにしては妙に色っぽいというか、夜の女っぽいというか。ともかく、色気をただよわせている方です」


 色気をそんなにただよわせている女性。

 まさか!


「すぐに会いにいきます! 案内してください!」


「は、はい」


 1階に降りてくると受付で待っていたのは、豊満な胸を強調したドレスに身を包んだ女性。

 確かに、見た感じ夜の商売をしている女性だ。

 でも、そんな人がスヴェイン様に堂々と近づいてくるはずがない。

 となると、答えはひとつ、この人は連絡係だ。


「お待たせいたしました。私は錬金術士ギルドサブマスターのミライと申します」


「サブマスター? 私が呼んだのはギルドマスターだよ?」


「申し訳ありません。ギルドマスターは、その、倒れて寝込んでいまして」


「倒れた!? あの、コンソールの怪童が!?」


 よっぽどこの女の人にとってもスヴェイン様が倒れたというのは想定外だったんだろう。

 本気で驚いている様子がうかがえる。


「はい。今朝、家で急に意識を失って」


「それで、命に別状はないのかい?」


「そちらは大丈夫です。ただ、特別な薬を飲ませたため、体が回復するまで目を覚ましません」


「いや、それだけわかれば十分だよ。あのコンソールの怪童が約束をすっぽかしたから、様子を探ってこいって言われてきたのさ。邪神だの竜災害だの麻薬だの災難続きだったからね」


「はい。申し訳ありませんが、裏社会のボスにもよろしくお伝えください」


「ああ、あたしがボスの使いだってことはわかったんだね」


「途中から隠すつもりもなかったですよね?」


「まあね。しかし、困ったね。コンソールの怪童がいないとなると、ギルド評議会との連絡役を誰にするか」


「直接ギルド評議会とやりとりするのはだめなんですか?」


「だめだね。ギルド評議会がボスとつながりを持つのは良くないだろう。清濁併せ飲むのがうまいコンソールの怪童だからこそやっていけてるんだ」


 スヴェイン様、こんなところでも信頼されているんだ。

 でも、そうなると、本当に困ったことになった。

 誰かが代役を務めないと新市街の支援の手が滞りかねない。

 どうしよう?


「あら。それでしたら、私が引き受けましょう」


「え?」


「ん、あんたは……」


「アリアと申します。スヴェインの妻ですよ」


 アリア様!?

 一体なんでここに!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る