993. スヴェインの目覚め
ディーンの帰還から一週間後、ようやくスヴェイン様が目を覚ましました。
本当にようやくです。
もう、眠りについてから数週間が経過しています。
相当な負担がかかっていたようですね。
「申し訳ありませんでした、皆さん。それで、変わったことはありましたか?」
「変わったことではありませんが、スヴェイン様の代理で私が裏社会のボスと交渉を行いました」
「ああ、彼女と。大変だったでしょう?」
「本当に大変でした。スヴェイン様はあのような方と毎回対峙しているのですか?」
「対峙していると考えるのがよくありません。同じコンソールの市民で、民の生活をよくしようとしている仲間だと考えればいいのです。立場的には表社会のトップであるギルド評議会議員と裏社会のボスという相容れない立場ですがね」
なるほど、対立ではなく調和を目指すと。
そういえば、裏社会のボスもギルド評議会の出した提案を頭から否定するわけではなく、理由を持って否定し、受け入れられる範囲は受け入れていました。
そこを裏社会のボスもわかっていたのでしょう。
本当にやりにくい。
まったくもってスヴェイン様を相手にしている気分です。
「回復したら彼女にはあいさつに行きましょう。僕がいないことで溜め込んでいる案件があるかもしれません」
「え? スヴェイン様がいない間は私が代理に立つとお伝えしていますよ?」
「代理ではどうしても即断できませんからね。僕はギルド評議会の一員なので自分の権限で対応できる範囲ならその場で決めてしまいます。ですが、アリアはそれすらできないでしょう? アリアが間に挟まることで発生するニュアンスの変化も避けたかったのかもしれません」
「はあ。本当にスヴェイン様を相手にしているような気分です。できる範囲は即決を迫り、できない範囲は持ち帰らせる。どこまで情報が漏れているのかもわかりませんし、気分が落ち着きません」
……はて、そう考えるとおかしいですね?
いままでギルド評議会や各ギルドに新市街の勢力が向かったという話を聞きません。
どういうことでしょう?
「どこまで知られているかといえば、ほとんどすべて知られていますよ、きっと」
「え?」
「さすがに円卓会議の場で直接盗み聞きはしていないでしょう。ですが、議題や話した内容はこちらが教えなくても知られていると思います。各代表者の家も知っているでしょう。その上で、新市街の住人が手を出さないように支援と圧力掛けを行っているのですよ」
「……それ、いつから知っていたのですか?」
「彼女が新市街全域のボスになった頃には知っていました。それくらい、彼女は能力が高いですし行動力も高い」
「なるほど。敵対せずに調和を選んだ方がよさそうですわね」
「そういうことです」
呆れかえるくらい優秀な方だったんですね。
あれ、そうなると?
「スヴェイン様、普段はどうやってあの方に会いに行っているのですか?」
「どうしてです?」
「私はあの方に会いに行くとき、必ず案内人をつけてもらい、秘密の通路を進みました。ですが、スヴェイン様が現れるときには案内人もつけず秘密の通路を通った痕跡もないと。普段はどうやって?」
「ああ。ちょっとした抜け道を使っているんですよ。僕にしか通れない抜け道をね」
なんとなく察しました。
これは話さない方がいいでしょう。
ともかく、スヴェイン様はもう少し安静ですね。
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