339.竜の動向

 ったく、ビンセントのやろう、おとなしく領都で指揮を執れってんだ。


 おかげでスヴェインから借りたサンダーバードを使っても、半日かかってようやく見つけられたぜ。


「おい、ビンセント!」


「その声、ティショウか! なぜお前が聖獣に!?」


「『聖獣卿』からの借り物だ。俺の剣と盾それに足として使えとさ」


「うらやましい。ちなみに、各地に現れているという竜、それも『聖獣卿』の差し金か?」


「竜、だと?」


 確かにアイツは『竜の帝』だ。


 だが、竜をただの戦争に使うような真似は……。


「各地の村や要衝を守っている兵たちから早馬が続々届いている。聖竜族が次々と飛来し、敵軍のみを聖なるブレスで焼き払っていると」


「はあ!?」


「聞けば、カイザー殿はホーリードラゴンの主と聞く。ならば『聖獣卿』であれば聖竜族を動かすことも……」


「いや、そんな命令アイツが……」


『竜の帝からは命を受けていない』


 俺たちの会話に割り込んできたのはでかいドラゴン。


 ……って、こいつ、古代竜エンシェントドラゴンクラスだぞ!?


『『竜の帝』から受けた命はただひとつ。我らが守るべき原石を守れと。この地には守るべき原石がある。ほかの地にもあるはある。侵略者どもなどに原石を渡すような真似は一切許さぬ』


「エンシェントホーリードラゴン、だよな?」


『名前はないがな。カイザー様の配下だ』


「動いてよかったのか?」


『好きにせよとの命令だ。好きにしたまで。動いたエンシェントホーリードラゴンは我一体。ほかは聖竜のねぐらを守っている。……配下の竜どもめ。『シュミット』という宝石を聖獣たちに先を越されたのが相当悔しいらしい。今回はカイザー様が先に居座った場所。自分たちに優先権があると主張するつもりのようだ』


「なにやらスケールが違いすぎるのだが……我が軍を守っていただけるのですかな?」


『侵略せず、略奪せず、誇りを持って戦うのであれば皆が好き勝手に守るであろう。まったく、帝も余計な命を出す。これでは血気盛んな竜どもは手に負えんぞ?』


「……だとよ、ビンセント。まさか、他領へ侵攻してはいないだろうな?」


「当然だ。あくまで私の領地のみで守りを固めている」


「よかったな。あとは竜たちが勝手に守ってくれるぜ?」


「いや、そうもいかん。竜が背後を守ってくれるのであれば、我らは更に前へと出て侵略者を追い散らさねば!」


『その気概やよし。竜たちも喜んで力を貸すだろう』


「全軍、聞いたな! 各地に檄文を飛ばせ! なんとしてでも侵略者どもを蹴散らすのだ!」


「「「おー!!」」」


「さて、ビンセント。お前にはいろいろ話したいことがある」


「奇遇だな、ティショウ。私もだ」


「とりあえず、着陸してもいいか? 多分、このサンダーバード……ライウって言うらしいんだが、こいつは俺を背中から降ろしてくれないだろうが」


「緊急時に些細なことは気にしない。いろいろ説明してもらえるな?」


「説明できる範囲でな。説明できない範囲はコンソールに来たら説明できるかもしれねえ」


「ではこの戦乱が終わったらいの一番にコンソールへ。公太女様にお詫びと追加の依頼も出さねば」


「あの公太女様なら笑って許してくれそうだがな。エンシェントホーリードラゴン、アンタは……ってもういないのか」


「……気がつけば姿を消すとは。聖竜族の頂点、神秘の守護者とはまさに彼らを指すな」


「神秘の守護者、更にその頂点はコンソールに向かう道で普段寝ているけどな?」


「そういえばそうだった。では話を聞こう」



********************



「なんとしても村を守り抜け! 我々の背後には無辜の民がいるのだ!」


「死守だ! 命に替えてでも……なんだ? 空が急に暗く?」


「白い鱗のドラゴン?」


「よもや伝承にのみ存在するホーリードラゴンか!?」


「見ろ! 敵兵のみがドラゴンのブレスで焼かれていくぞ!!」


「これは……一体?」


『気に入ったぞ、気高き者どもよ』


「この声は、竜の声?」


『我々はあなた方に力を貸しましょう』


『今は羽を休め、次なる戦いに備えよ』


「まさか、各地で噂されていた聖竜の守りが本当だったとは」


「なにをぼさっとしている! 聖竜様たちの前に防衛陣地を再構築だ! 聖竜様に甘えるな!!」


「「「は、はい!!」」」


『いや、本当に羽を休めてもらいたいのだが……』


『これでこそ原石なのでしょう』


『うむ。心意気は買おう。なにかあれば我々がまた動けばよい』



********************



「ティショウ、その話は本当か?」


 さすがにティショウの話とは言え信じがたい。


 コンソールがに守られているなど。


「おう、ビンセント。ライウに乗って飛び出したら空中にうじゃうじゃいたぜ。一体なにから街を守るつもりなんだ? って言いたくなるくらいにはな」


「いや、まて。カイザー殿がいるとは言え、なにがそこまで……」


「俺にもよくわからねえ。竜たちが俺たちを認めてくれたらしいんだが……なにがどうなっているのかさっぱりだ」


「それもまた『聖獣卿』の差し金か?」


「いや、アイツやカイザーに言わせると『竜が勝手に動いた』そうだ。命令すれば散ってくれるそうだが、ギルド評議会としては受け入れるだろうよ」


「なにが竜をそこまで……」


「竜にとってコンソールの街は『宝』だそうだ。だからこそ今は守ってくれている。『宝』じゃなくなれば……竜によって滅ぼされるかもな」


「それをコンソールは受け入れたと?」


「受け入れるより道はない。それに『竜の宝』なんて栄誉、滅多なことじゃあり得ないからな!」


「ティショウ……」


「信じられないなら、こんなくだらない戦はさっさと終わらせてコンソールまで遊びに来い。ひょっとしたら竜の一匹や二匹残っているかもな」


「わかった。私たちの役目はシュベルトマン領の平定だけだ。それが終わり次第、コンソールに向かう」


「そうしてくれや。それじゃ、俺は借り物の聖獣も返さなくちゃいけねえし、これで帰るわ。じゃあな!」


 ティショウは、あのサンダーバード……ライウと言ったか、それで飛び出して行ってしまった。


 コンソールの街は昨年の秋からどれだけ様変わりしたというのだ……。

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