166.シュミット式の講義 2
ここからはいつもの説明タイムです。
魔力水の作り方、その説明は何度もしているので慣れていますよ。
「……以上になります。コツは無理矢理魔力を押し込めないこと。あくまで水をかき混ぜる中に魔力を溶け込ませるイメージが大切です」
「……魔力水ってそんな簡単な手順だったか?」
「私が調べたときはもっと複雑だったけど……」
「あの人はギルドマスターらしいし試してみようぜ。ダメでも昼飯はもらえるんだし」
「やり方のイメージがついた人は始めてください。イメージが難しい人は近くにいる錬金術師ギルドのローブを身につけた人に相談してみてください」
今回の講習会にあたり、精鋭たちを総動員いたしました。
彼らは僕に恩返しができると言うことでとても乗り気でしたよ。
「……あれ、青い水ができた?」
「俺もだ。……って、魔力水!?」
「嘘だろ?」
「魔力水ってもっと複雑な手順を経て作るものじゃ……」
うんうん、いい感じですよ。
もっと盛り上げていきましょう!
「皆さんいろいろと疑問があると思いますが、ご自分の作った魔力水を鑑定してみてください。品質はなにになっていますか?」
「そんなの最下級品に決まって……嘘だろ!? 低級品!?」
「こっちは一般品だぞ!? どうなってるんだ!?」
「私も一般品だ! なにこれ、だまされてるの!?」
そうそう、その感じ!
こうでなくてはいけません!
「だましているわけでも特別な水を用意しているわけでもありません。普通の湯冷ましを濾過していただき、その濾過水で魔力水を作っていただいただけです。ね、魔力水を作るだけなんて簡単でしょう?」
僕の言葉に会場が一瞬静まりかえり、歓声があたりを包み込みます。
いいですね、いいですね!
「さて、それでは今作った魔力水は席の隣に用意してある樽に捨ててください。このまま濾過と錬金術での作製を繰り返し一般品質の魔力水を安定して作製できるようにしましょう。湯冷ましのおかわりはたっぷりあるのでお気軽に声をかけてください。また、気分が悪くなってきた方も教えてください。おそらく魔力枯渇の症状です。本来なら休んでいただくのが最善なのですが、この時間を無駄にするのはもったいないでしょう? マジックポーションを配布いたしますので遠慮なくどうぞ」
そのあとはお祭り騒ぎのように全員が魔力水を作り続けます。
途中、本当に魔力枯渇の症状を出し始める方が現れましたがそれだけ嬉しかったのでしょう。
その後、昼食を挟み午後からは傷薬を作っていただきました。
そして、終わりが近くなったとき最終目標の発表ですよ!
「さて、皆さん。傷薬も安定し始めましたね。今日の講習会ももうすぐ終わりです。最後の記念にポーション作りに挑んでみましょう」
これにはさすがに困惑が返ってきます。
ですが、甘いですよ?
帰る前に皆さんの今の実力、思い知っていただきましょう!
「ポーションを作る手順は傷薬と大差ありません。傷薬を作る際に水の錬金触媒を追加するだけです。コツは薬草を錬金触媒を通過させながら魔力水に混ぜ合わせる感じですね」
「そ、そんな簡単に……」
「いや、でも、今日だけでこんな簡単に魔力水や傷薬を作れるようになったんだ。ポーションもいけるんじゃないか?」
「でもポーションって『錬金術師』が錬金術師ギルドに入ってから三年以上経過しないとまともに作れないんだろう? 俺たちには……」
「おやおや、皆さん。ここにいる講師が誰だかお忘れですか? 僕は錬金術師ギルドのギルドマスターですよ? ポーションの簡単な作り方くらいお教えします」
「いや、でも……」
「まあ、だまされたと思って試してください。怪我をしないような設計になっていますから」
ほとんどの参加者が渋々といった様子で素材を職員や精鋭たちから受け取ります。
さあ、本日一番の魅せ所ですよ!!
「皆さん素材は手元に行き渡りましたね? では、始めてください」
「まあ、怪我しないっていうなら……って、ポーションができてる!?」
「私もポーションになってる! 低級品だけどちゃんとしたポーションだ!」
「なんだこれ!? 本当にだまされているんじゃないだろうな!?」
いいですよ、いいですよ!
その感動、是非持ち帰ってください!
「さて、今回ポーションが成功した方、失敗した方。それぞれだと思いますが本日の講習はいかがでしたでしょうか?」
僕の問いかけに帰ってきたのは響き渡る歓声。
うんうん、これですよ!
「これで講習会は終了となりますが、最後に重要なお知らせがあります」
「重要なお知らせ?」
「一体なんだろう……」
場の空気が冷えないうちにたたみかけましょうか!
「我々錬金術師ギルドでは今改革を実施中です。それにあたり錬金術師の数が非常に不足しております」
その言葉を聞いて更に場が騒然となりました。
うん、悪くないですね。
「今はまだ準備が整っていません。ですが、準備ができ次第、錬金術師を大量に募集したいと考えています」
「錬金術師の募集か……」
「私たち『錬金術師』じゃないものね……」
「勘違いされているようですが、僕が欲しているのは星霊の儀式で職業として『錬金術師』を授かった方ではなく、やる気に満ちあふれた錬金術師系統の方々すべてです」
「は?」
「今、なんて?」
「もう一度、わかりやすく言いましょう。熱意を持って集まってくださるのなら、ここにいる全員を受け入れることも野望として僕は持っています!」
この言葉に帰ってきたのはさらなる歓声。
職員は慌てていますが……あとで謝りましょう。
「もちろん、決して平坦な道程ではありませんし、給料もポーションの出来高に応じた歩合制を取っています。ですが、やる気があるのなら高みを目指せる教育環境を整えていきます。ええ、それこそ私財を持ち出してでも!」
更に職員がパニックを起こしていますが、申し訳ありません、もう少しだけ続きます。
「現在の錬金術師ギルドの建物では到底規模が足りません。集まってくれた人数次第ではギルド支部を建設してみせましょう!」
これくらいしないと僕の代わりになるだけの供給能力は達成できません。
支部を作る際には職員も大量に増やさないといけませんね。
「さて、発表は以上です。出来上がったポーションですが、すみませんが置いて帰っていただけますでしょうか。記念にお持ち帰りいただきたいのはやまやまですが何分、ギルドの建前もありますので。ああ、この場で自分が飲む分には構いません」
「そうなのか? ……あれ、そんなに苦くない」
「本当だ。ポーションって苦くて不味いものだとばかり思ってたんだけど」
「だよな? 俺も去年ポーションのお世話になったがクソ不味かったぞ?」
「なんでこんなに味が違うんだ?」
「いろいろと質問があると思いますが今日はお時間です。申し訳ありませんがお帰りください。ああ、錬金台は記念に持ち帰っていただいても構いませんのでどうぞ」
「どうする?」
「俺は持って帰る。薬草が手に入らないからポーションや傷薬は無理だけど魔力水くらいは練習できる」
「私も持ち帰る。錬金台だけでもすごく高いから錬金術師なんて諦めていたのに……コンソールの錬金術師ギルドってどうなっちゃうんだろう?」
「俺も持ち帰ろう。それで、将来は錬金術師ギルドの門を叩いてみせる!」
いい感じに火が付きましたね。
これでこそのシュミット式ですよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます