165.シュミット式の講義 1
「ガッハッハ! 見たか、あのジェラルドの顔! あの爺さんが真っ青になっているところなんて初めて見たぜ!」
評議会で錬金術指導の許可もいただき僕とミライさん、それにティショウさんとミストさんは錬金術師ギルドまでやってきました。
ティショウさんは終始上機嫌、残りのふたりはいまだに青ざめたままですが。
「うーん、本当に言いすぎましたかね?」
「いんや。スヴェインよぉ、あれくらい言ってやらないとわからねぇぜ。あの爺どもはよ!?」
「だといいのですが。それから今回の講習会何人くらい集まってくれますかねぇ?」
「ギルド評議会の名前を使って募集する許可を得たんだろう? 対象年齢はどの範囲にするんだ?」
「とりあえず、星霊の儀式を終えた十歳から二十歳くらいまでですかね。それ以上になると頭が固そうで指導を受け入れてもらえるか自信がありません」
「いいんじゃねぇか? 本当ならもっと下にも教えたいんだろうが」
「ですねぇ。できれば交霊の儀式を終えたばかりの五歳くらいから教え始めたいです。ですが、僕ひとりでは到底叶わない望みですし、場所も確保できません。ままならないことばかりです」
「人生そううまくいくことばかりじゃねぇってことだよ! ……にしても、いい加減しっかりしろ、ミスト!」
「は、はい!?」
「ミライさんもそろそろ気をしっかり保ってください。僕たちのギルドはやることが……あまりありませんね。僕が全部用意してしまいますから」
「……はっ!? 今目が覚めました! ギルドマスター、本気ですか!? 今回の講習会の規模は何人くらいを想定しています!?」
「うーん、千人くらい集まってくれると嬉しいです。念のため、三千人分くらいの素材と錬金台は用意しておきましょう」
「千人って……そんなに集まるわけないじゃないですか……」
「今回集まらなかった分は次回に持ち越せばいいのですよ」
「次回って……次も考えているのですか?」
「お前ら、本気で今まで俺らの話が聞こえてなかったんだな……」
「面目ありません……」
「申し訳ありません……」
「まあまあ、この国の風習に染まりきった人間があんな話を聞けばこうなりますよ」
「はっきり言えよ、スヴェイン。この程度で腑抜けていたらシュミットにマジで乗っ取られるってな」
「シュミットはそんな真似しませんよ。そもそもこんな飛び地に出先を持っても管理が面倒で仕方がないと考えるような国でしょう」
「さすが。本来なら公太子だった人間の発言は違うねぇ」
「いえいえ、ティショウさん相手なら本音を話しても大丈夫と判断したまでです」
「そうか? ……で、本当に大丈夫なんだろうな?」
「当然です。ミライさんではないですが、人が集まるかどうかだけが不安ですね」
「そっちは冒険者ギルドでも声をかけて集めさせるから任せろ」
「お願いします。さて、一日でどれだけ教えることができますかねぇ?」
「あぁん? 魔力水を作るだけじゃないのかよ?」
「進捗状況次第では傷薬やポーションに挑戦してもいいと考えています」
「そこまでは考えてなかったわ」
さて、それでは当日に向けていろいろ仕込みを始めましょう。
最大の問題は夜更かしすることについて、アリアの了承を得られるかですね……。
********************
「さて、ギルドマスターの皆さん。見学は構いませんがこのローブを身につけてください」
仕込みも無事完了し、講習会当日の朝。
見学を申し出たギルドマスターたちにローブを配って回ります。
見学を申し出たのは評議会に参加しているすべてのギルドマスターですけど。
「錬金術師ギルドマスター、このローブは?」
「【気配遮断】と【隠密】が付与してあるローブです。ギルドマスターの皆さんは覇気があって参加者を萎縮させてしまいますからね」
「なるほど。俺たちを守るためじゃなく俺たちがいることをばれなくするためか」
「はい。ああ、そのローブは悪用されると困るので終わったら回収させていただきます」
「う、うむ」
「では、参加者が集まるまでしばらくお待ちを」
今回の講習会で会場として借りることができたのは街の大講堂です。
収容人数も千人ちょっとと聞いていますので、これが埋まってくれるとありがたいのですが。
そして、受付が始まると人が集まってきました。
考えていたよりも初動は多いですね。
さて、どのくらい集まるでしょうか?
しばらくするとミライさんがやってきて状況を教えてくれました。
「ギルドマスター、すごい人数が集まってますよ?」
「ミライさん、今のおおよその人数はどれくらいですか?」
「七百人を超えたくらいだと聞いています。受付締切まであと三十分ありますし、もう少し増えるかも」
「そうですか。まあ、問題ないでしょう。ただ、この会場から人があふれそうになった場合はお断りしてください。そのときに、次回の講習があることを伝え忘れないよう心がけて」
「わかりました。……そこまで人が集まるのかなぁ?」
ミライさんは半信半疑だったようですが、終了間際に駆け込みで来た人数が多く会場からあふれることになりました。
職員にはミライさんにお願いしたとおりの対応を取っていただいたので、また次回に来ていただきましょう。
それでは始めますか。
「初めまして、皆さん。現錬金術師ギルドマスター、スヴェインです」
演壇の前に立ち、あいさつを始めると戸惑いの声があがりました。
想定の範囲ですけどね。
「僕は十三……いや、もう十四になったのかな? それくらいの歳です。ですが、少々事情がありまして錬金術師ギルドマスターの役職を務めております」
年齢を言ったときに更に戸惑いの声があがりました。
当然ですね。
「さて、本日のお題は『魔力水を錬金術で作製する』になります。皆さんの頑張り次第では傷薬やポーションの作り方もお教えいたしますので頑張ってください」
戸惑いの声は更に大きくなりましたね。
この国、この街の風習では当然ですか。
「まあ、今日一日です。昼食もご用意してありますのでだまされたと思って付き合ってください。損はさせませんので」
そんな感じで講習は始まりました。
まずは注意事項からですね。
「まず皆さんの前に置いてある機材ですが錬金台になります」
「え……? でも、街で売っているものとは違う」
「はい。僕お手製の超初心者向け錬金台です。どんなに頑張ってもポーションまでしか作れませんが、どんなに過剰な魔力を流しても爆発などをしない仕掛けを組み込んであります。安心して使い倒してください」
「あの、ギルドマスター? ここに置いてある水は? それと布を張ってあるコップはなんでしょう?」
「水は一般的な湯冷ましです。布を張ってあるコップはこれから錬金術の素材を作ってもらうための機材になります。ほかに質問のある方はいますか?」
僕の問いかけに誰ひとりとして返事はありませんでした。
当然でしょう、それしか各個人の席には用意されていないのですから。
「では手順を説明いたします。まずは湯冷ましを布の張ってあるコップにゆっくりと注いでください。これを濾過と言います」
会場にいる全員がおっかなびっくりではありますが濾過水を作ることには成功したみたいです。
当然ですよね、ただ単に水を布の上からかけるだけなのですから。
「あの、ギルドマスター。今の行為に何の意味があるのでしょう?」
「布の上をよく見てください。小さなゴミが乗っていませんか?」
「……はい、乗っています」
「これらを取り除く作業を濾過と言います。そして、濾過を行った水を濾過水と言います。ここまでは皆さん大丈夫でしょうか?」
僕の問いかけに反応はありませんね。
ここで躓かれてしまうと先に進めないので困ります。
「さて、それでは濾過水を使って魔力水を作ってみましょう」
「ギルドマスター!? 作ってみましょうってそんな簡単に!?」
「実際簡単ですから仕方がありません。これから手順を説明しますのでゆっくり聞いてください」
さあさあ、ここからがお祭りの始まりです。
気合いを入れて行きましょうか!
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