164.第一回夏のギルド評議会
「はい! できました! 特級品ポーションです!」
「ボクの方は特級品マジックポーションです。これだけできれば万全ですよね?」
「そうですね。ある程度安定してるのでしたら問題ないでしょう。手順も錬金術実行時の魔力の流れもよどみがありません。満点ですよ」
翌日午前中は約束したとおり弟子ふたりの進捗状況を確認しています。
試しに特級品のポーションとマジックポーションを作らせましたが、安定していてとてもよろしいですね。
そのあとも課題として残しておいた霊力水の作製やその高品質化、ミドルポーションの作製なども確認させてもらいました。
さすがにミドルポーションまでいくと魔力のブレが出てきて安定していないみたいですが、これは練習次第でどうとでもなります。
何回かお手本を見せてあげ、そのあと反復練習させることで確実に腕も上がってきました。
うん、本当に良い弟子たちです。
このあと昼食を取ってから錬金術師ギルドに向かうところだったのですが、それよりも先にコウさんのお屋敷を訪ねてくる方がいました。
「申し訳ありません! こちらに錬金術師ギルドマスターがいらっしゃると伺ってきたのですが!」
「うん? この声はミライさん」
「なにがあったのでしょうか?」
「お兄様、様子を見に行ってあげては?」
「はい。行ってきます」
エントランスホールに行くとそこにいたのは紛れもなく護衛に守られたミライさんでした。
かなり息を切らせていますがどうしたのでしょう?
「ミライさん。なにかギルドの方で異変がありましたか?」
「ああ、ギルドマスター! ギルドで異変があったわけではなく、そのですね」
「はいはい。少し落ち着きましょう。焦っていては話したいことも話せませんよ」
「はい。……少し落ち着きました。先ほどギルド評議会から使者の方がお見えになって、ギルド評議会の開催が決まったので参加するようにという通知が届きました」
「……僕個人としては大変ありがたいタイミングなのですが、開催はいつなのですか?」
「明日の昼からです。そのため、急ぎギルドマスターにもご連絡したく」
「状況はわかりました。用意するものはありますか?」
「ギルドマスターの評議会制服は用意済みですのでご心配なく。ただ、今回の評議会には各ギルドのサブマスターも必ず参加するようにと言う通知でして」
「ミライさんの腰がひけている……わけではなさそうですね」
「はい。実はギルドマスター不在の間にもギルド評議会が一度だけ開催されました。そのときにギルドマスター代理として出席いたしましたので問題ありません」
「わかりました。それではこのあと打ち合わせが必要ですね。議題については連絡が来ていますか?」
「はい。来ております」
「では錬金術師ギルドに行きましょう。……そういえば、ミライさん。どうやってここまで?」
「いえ、その……走って参りました」
「ふむ、今後に備えて乗馬の練習もいたしましょうか。それで、錬金術師ギルドにも各種連絡用に何頭か馬を用意しておきましょう」
「乗馬……ですか?」
「最初はお尻などが痛くなると思いますが我慢してください。ああ、それとも馬車を用意しておきましょうか?」
「馬車なんて無駄です! 乗馬の練習をしますのでそちらでお願いします!」
「いいでしょう。とりあえず今日は急ぎということで衛兵さんたちにも少しばかり大目に見てもらいましょう」
「あの、なんの話ですか?」
「ウィング、来てください」
僕が呼びかけると数秒でエントランスホールの前にペガサスが着地しました。
言うまでもなくウィングですね。
『どうしたの、急に呼び出しなんて』
「すみませんが、錬金術師ギルドに急用です。空を飛ばず走って僕たちを送り届けてください」
『わかったよ。そのあとはどうすればいい?』
「そうですね……できればそのまま錬金術師ギルドの庭で待っていてくれると助かります」
『了解。すぐに出る?』
「急いだ方が良いのですよね、ミライさん」
「はい!」
「では、僕は皆さんに錬金術師ギルドに向かうことを告げてきますので少々お待ちを」
僕はすぐそこにいたメイドさんに伝言をお願いすると、護衛の皆さんには無理をしない程度で戻ってきてもらうようにお願いし、ミライさんと一緒に錬金術師ギルドまで移動しました。
ウィングには空を飛ばないように注意しておきましたが、普通の馬より遙かに速いことを失念していましたよ。
おかげでミライさんは全力で僕にしがみついてきて苦しかったです。
錬金術師ギルドについたあとは職員へのあいさつもそこそこにギルドマスタールームへと駆け込みました。
そこで明日の議題について聞き、それについての対策と僕が提案する内容についての資料をまとめます。
夜遅くまでかかってしまいましたが、準備はなんとか間に合いましたね。
あとは当日、状況に合わせて動くだけです。
********************
「皆のもの、急な評議会の招集および参加に感謝する」
議長である医療ギルドマスター、ジェラルドさんの発言からギルド評議会は始まりました。
やはり内容が内容だけに皆さんピリピリしたご様子ですね。
「さて、最初の議題は冒険者ギルドマスターおよび商業ギルドマスターから提案されたものだ。議題は『シュミット公国との友好関係樹立について』である」
ジェラルドの言葉に場の空気が更に重たくなりました。
皆さん、慎重に言葉を選んでいるのでしょう。
「ふむ、発言者がいないか。では、提案者のひとり冒険者ギルドマスターから説明してもらおう」
「おう。俺から言えることはいくつかあるが、まずは友好関係を結べればいざというときに力を借りることができるってことだな。この街はやはり防衛能力では脆い面がある。そこの強化を図れるのであれば図りたい」
「防衛力の強化は衛兵や冒険者の増加では事足りぬのか?」
「建築ギルドマスター、さすがに無理があるぜ。多少の軍勢なら蹴散らして見せるが、どうにもならない兵力差があるときはどうにもならねぇ。そんなときに頼れる場所があってもいいんじゃねぇか?」
「しかし、それではこの街の独立性が保てぬ」
「今度は鍛冶ギルドか。その程度で独立ができなくなるなら、この街はそれまでってことになるぞ。今だって国といい関係を保ってる……いや、大して重要視されていないから攻め込まれていないだけでな」
「そ、それは……」
「それからシュミット公国はポーションや薬草栽培が盛んな国だと聞いた。冒険者ギルドとしてはポーションや薬草の仕入れ口はなるべく多く確保したい」
「しかし、今の冒険者ギルドにはユニコーンやペガサス、それにカーバンクルが……」
「今はな。だが今後どうなるかわかったもんじゃない。錬金術師ギルドも改革が進んでいるが全体としての生産力はまだ足りてねぇだろう?」
「申し訳ありません。一般錬金術師の方々が腑抜けているためになかなか生産性の向上が望めず」
「と言うわけだ。そもそも、ユニコーンとペガサスはスヴェイン個人が冒険者ギルドにお恵みで用意してくれているもんだ。それをいつまでも勘定に入れてちゃいけねぇよ。こいつがふらっといなくなったら破綻する供給体制なんてないようなもんだ」
「その通りだな。そのほかに言いたいことは?」
「あと、シュミット公国の公太女様から出た話では……」
「冒険者ギルドマスター、そこからあとの話は私の方で引き受けてよろしいか?」
冒険者ギルドマスター、ティショウさんの話を遮ったのは商業ギルドマスターです。
評議会場に入ったときから気がついていましたが、顔がずっと青ざめていますね。
大丈夫でしょうか?
「……その様子だと、お前のところにも公太女様からの話が持っていかれたみたいだな」
「直接聞いたわけではない。だが、それ故に恐ろしい話を聞いた」
「へぇ。じゃあ、その話を聞こうじゃないか」
「そうさせていただく。これは商業ギルドの構成員から聞いた話だが、我々の国、および街の考え方は百年以上遅れているそうだ」
その発言には全ギルドマスターが騒然とします。
平然としているのは僕とティショウさんだけですか。
……後ろを見ればミライさんもあたふたしてました。
昨日のうちに説明しておくべきでしたかね?
「商業ギルドマスター、その話、詳しく伺おう」
「もちろん詳しく話す。その構成員が言うにはそもそも職業の上位下位で判断すること自体が古くさい風習なのだそうだ。私は今までそんなことを考えてもこなかった。だが、その話を聞いたとき怖気が走った。商業ギルドは実力主義だからこそ職業の意味を考えていないだけではないのか、とな」
「いや、だが。下位職業の者たちに作業をさせても進み具合が悪いぞ?」
「それに成長具合も遅い。職業の上位下位は絶対的なものではないのか?」
「いや、それについてなのだが……」
そこまで話したあと、商業ギルドマスターは僕のほうに視線を向けます。
ああ、僕に発言の許可を求めてきているんですね。
「構いませんよ、商業ギルドマスター。聞いたことをそのまま話してください」
「う、うむ。錬金術師ギルドマスターがいいというのであれば。例えば錬金術師系列の職業であるがスキル成長の補正は『錬金術師』で1.3倍、『錬金士』で1.25倍、『錬術師』で1.2倍だというのだ」
「スキル成長? 補正? なんだそれは」
「スキル成長というのはスキルレベルの上がりやすさ。補正というのは職業を授かっていない状態を1として考えた場合、その職業はどの程度スキルが成長しやすいかと言うことらしい」
「……待て待て。そんな荒唐無稽な話、信じろとでも?」
「実際、構成員、いや本名を出していいと許可を得ているので話すがネイジー商会のコウはその話と娘とその友人の成長度合いを聞いてつじつまが合っていることに驚かされた、いや恐ろしさが走ったそうだよ」
「どういう意味だ?」
「それは……」
商業ギルドマスターはそこで言いよどんでしまいます。
無理もありません、彼はそれ以上詳しく知らないでしょうから。
話が止まるのも問題ですし僕が続けましょうか。
「それは職業補正など本人のやる気と努力次第でどうにでもなると言うことです」
「錬金術師ギルドマスター?」
「ここまで話してしまえば探られるのも時間の問題ですし全部話しましょう。コウさんの娘、ニーベは僕の弟子です。彼女の職業は『魔術士』。スキル【錬金術】に対する職業補正は1.1倍。対してもうひとりの弟子、エリナは職業『錬金術師』。スキル【錬金術】に対する職業補正は1.3倍。スキル補正はこれだけの差がありますがふたりともミドルポーションの一般品質を安定化するまであと一歩のところまで来ています。これが職業優位論に対する答えです」
ここまで話してしまうと会場にいるほぼすべての人が凍りついてしまいました。
その中にはミライさんや冒険者ギルドサブマスターのミストさんも含まれています。
凍りついていないのは……愉快そうに笑っている冒険者ギルドマスター、ティショウさんと僕くらいですかね?
「待て。そのニーベとエリナという弟子が才能があるという……」
「特別才能が優れているというわけではありませんよ? エリナは僕と出会うまで魔力水すら満足に錬金術で作製できなかったのですから」
「だが、そのふたりがカーバンクルの作製者なのだろう。ならば……」
「はい。この国よりも進んだ考え方と指導方法、本人たちのやる気次第でどうにでもなると言う証明です」
ふむ、さすがに言いすぎましたかね?
ティショウさん以外は完全に青ざめてしまっています。
さて、この状況はどうすれば良いのでしょうか?
「おいおい、お前ら。スヴェインを錬金術師ギルドマスターに招き入れた時点でこうなることを想定していなかったのかよ?」
凍りついた空気をあざ笑うかのように発言したのはティショウさんです。
「そもそもだ。なぜ錬金術師ギルドが十日間でああまで変われたのかわかってねえだろ? あれはスヴェイン個人の指導力じゃなくスヴェインが今まで受けてきた指導を再現してみせた結果にしか過ぎねぇんだよ。スヴェインが天才なのは俺も認める。だが、こいつの実力は研鑽の果てに身についたもんだ。あれを見て自分たちが時代後れじゃねぇとでも考えてたのかよ!!」
「冒険者ギルドマスター、抑えてください。いえ、僕も少しばかり言葉が過ぎましたが」
「いんや、錬金術師ギルドマスター。こいつらはこれくらい言っても理解してねぇんだから始末に負えねぇよ」
僕とティショウさんだけで話し合っても先に進まないでしょう。
申し訳ありませんがギルドマスターの皆さんにも身をもって味わっていただきましょうか。
「さて、場が凍りついてしまったのでこの議題は先送りといたしましょう。これ以上この場で議論しようとしても時間の無駄です」
「う、うむ。その通りだな。シュミット公国との友好関係樹立については次回以降また考えるとする」
「はい。それでは僕からの提案です。議題は『錬金術師になれなかった錬金術師系統の人々に対する錬金術指導』です」
「は? いや、失礼。そのようなこと、ギルドの予算でできるのならば評議会にかけてもらわずとも……」
「いえいえ、評議会にかけてもらう必要があるのですよ。なぜなら、この指導は今後の錬金術師育成の試金石ですから」
「そ、そうか? それならば私は反対しないが……」
「私もです」
「私も……いやはや、あのような議題のあとに出されるのでドキドキしましたぞ」
「俺も賛成だ。だが、お前ら。スヴェインをまったく理解しちゃいねぇ」
「は?」
「今回僕が施すのはシュミット式の講義です。僕も三年……いやもう四年ですか。それだけ離れているので古いものになってしまっているかも知れませんが」
「ま、まて。たった四年で古い?」
「ええ。そして、自分たちの考え方が時代後れであることを痛感しろ、権力者ども」
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