270.武具錬成指導 準備編

「先生、今日はなにを作るんですか?」


「新しいものを作るのでしたら皆さんにも見ていただいた方が」


 弟子たちに新しい技術を伝授すると決めた日の午後、早速と言わんばかりにへと取りかかります。


 さて、彼女たちは何日でものにできるでしょうか……。


「今の段階では準備だけです。それにいまから伝えるのは師匠から弟子に伝える秘伝の技術。すみませんが、作製手順を錬金術師ギルドに公開するのはまだ早いんですよ」


「秘伝の技術……」


「先生、急にどうしたんですか?」


「なあに、セティ師匠のおかげであなた方の学習進度が更に上がりました。このペースでいってしまうとアリアがのんびり仕上げをしても、来年の夏には『神霊の儀式』における条件を満たしてしまうんです」


「そこまで早くなっていたんですか……」


「ボクたち、急ぎすぎてますね……」


「はい。ですが残りの時間を遊ばせてはあなた方の意欲が落ちる可能性もある。かと言って、魔物素材などを集めさせるにはまだ早すぎる。なので、秘伝の技術のうち安全なもののみを選んであなた方に教えることとしました」


「それは楽しみです!」


「是非教えてください!」


 うんうん、やる気が満ちているようで結構です。


 最近は座学が多かったので意欲が削がれていないか心配でした。


「さて、まずは準備作業。あなた方にあわせた錬金台を作ります」


「錬金台を作る?」


「ボクたちが作ってはダメなんですか?」


「素材に魔物素材が含まれるのでダメです。作るのは初級なので冒険者ギルドでも依頼を出さず余裕で買えますが、錬金台の作り方は僕が教える技術をマスターしてから初めて教えましょう」


「なんだか先生がもったいぶるのは初めてです」


「緊張してきました」


「やることは難しくありません。……よっと」


 僕はテーブルの上に少し大きめの錬金台を乗せます。


 ふたりとも普段使っている錬金台との差を探すのに必死ですね。


「……ここ、魔法文字が違うのです」


「それを言い出したら属性配置がバラバラだよ。先生、こんな錬金台で錬金術を使えるんですか?」


「普通の錬金術は使えませんよ。あなた方の見立て通り、通常の錬金台とはまったく異なりますから」


 この子たち、本当によく勉強しています。


 まさか、錬金台を見ただけで通常の錬金術に使えないことを見抜くとは。


「さて、それでは『調律作業』です」


「調律って前にオババのお店でやったやつですか?」


「これには必要なんですね」


「はい。術者の魔力波長と錬金台の性質があっていないとうまくいきませんから。ではニーベちゃんから」


「はいです。ゆっくり、ゆっくり……」


 さすがに二回目の調律とあって魔力の流し方も緩やかです、しかしまあ、これはこれは……。


「あっ!?」


「錬金台の中央が!?」


「はあ。あのときオババがあなた方を『じゃじゃ馬』と呼んでいた理由がよくわかりました。ニーベちゃん、あなたの魔力波長は荒すぎる。まるで、氾濫寸前の川のようだ」


「すみません……」


「ああ、怒っている訳ではありません。それだけ癖が強いと言うことです。この先、自分たちで錬金台を作る時は気をつけないと不良品ばかりできますよ」


「直した方がいいんですか?」


「いえ、無理に直そうとすれば余計な歪みが発生します。自分の癖を覚えておいてそれにあわせた道具を作るようにしてください」


「はいです!」


「それではニーベちゃん用に調律した錬金台を……うん、どうぞ」


「あっ! すごく魔力が通りやすいです!」


「僕の調律の腕も見せておかないと。これでも師匠ですから」


「ありがとうございます!」


「では、エリナちゃん。お待たせしました。エリナちゃんも中央部分が一度壊れるはずですが気にせずにどうぞ」


「はい」


 エリナちゃんの調律も行いましたが……エリナちゃんの魔力はこれまた複雑に絡み合っていますね。


 オババがあれでもダメなら無理と言うわけです。


「さて、錬金台は揃いました。これからなにを行うかを教えましょう」


「なにをするんですか?」


「早く教えてください」


「はい。あなた方には『武具錬成』をやっていただきます」


「『武具錬成』!?」


「それって武器を作るやつじゃ!?」


「武器以外も作れますよ? 例えば、あなた方が指につけているカーバンクルの指輪とか魔法強化の指輪、ローブも武具錬成です」


「……知らなかったのです」


「てっきり魔法だとばかり」


「僕の場合、小規模なものは錬金台がなくてもやってしまいますからね」


「あれ?」


「ひょっとして……」


「はい。あなた方がポーションに刻印している『カーバンクル』。あれも『武具錬成』の応用技術です」


「本当に知らなかったのです」


「先生、もっと早く教えてくれても」


「早く教えても理解できなかったでしょう?」


 僕の問いかけに対してふたりは顔を見合わせ頷きます。


 そして一言。


「はいです」


「理解できませんでした」


「だからこそいまです。わかってもらえましたね?」


「「はい」」


「よろしい。では次に、錬金炉に魔力を通して使用可能状態にしてください」


「はいです!」


「わかりました!」


 さて、元気はいいのですが錬金炉を稼働できますかね?


「なんですか、これ!?」


「魔力が吸い取られる!!」


「頑張って調整してください。気をつけないと魔力枯渇で気絶しますよ」


「はいです!」


「はい!」


 ああ、返事をするだけの余裕がありますか。


 本当に成長しましたね。


 そのまま錬金炉に魔力を通し続ける事一時間あまり、ようやく使用可能状態になりました。


 ふたりは当然のように魔力枯渇です。


「はあ、はあ」


「きつい、ですね」


「ふたりとも、これを錬金炉に入れたらしばらく寝て休みなさい」


「これ、なんです?」


「銀?」


「あなた方向けに調律した純銀の塊です。これならこのあとの作業もやりやすくなるでしょう」


「わか、たのです」


「は、はい」


 ふたりはかなりつらそうに錬金炉の中へ銀の塊を放り込むと、ふらふらとした足取りでベッドへと向かいます。


「この部屋には結界を張っておきます。内側からしか開かないのでふたりとも起きたらギルドマスタールームへ声をかけに来てください」


「わか、りました……」


「は、い……」


 おやおや、ふたりとも眠ってしまいましたか。


 起きるのは何時間後でしょうね?

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