276.街壁作り

 評議会のあった翌日より、いよいよ街壁作りです。


「スヴェイン様、アリア様。お達しの通り道は塞ぎましたが……本当に街壁なんてできるんですか?」


「できますわ。それよりも、ミライ様。あなた、今日はお仕事で私どもと一緒のはずでは?」


「いやあ、おふたりしかいないならいいかな、と」


「はあ、くれぐれも人のいる場所で名前呼びをしないか、普段から名前呼びをするように」


「……じゃあ、今後は名前呼びにじわじわ変えていきます」


「ずいぶん遠慮がなくなってきましたわ」


「春から一緒に暮らせると考えると……」


「一緒に暮らしますが、は私からですからね?」


「もちろんです。第二夫人の節度は守ります」


「……怪しい」


 僕も同感です。


 襲われないように夜は魔法錠もかけるべきでしょうか?


「それよりも早く街壁を。一時的とはいえ、人の往来を止めている現状はあまり好ましくありません」


「誰のせいだと思っているのですか」


「反省と自重を覚えてくださいな。さもなくば……」


「私だけ締め出しはご容赦を……」


「よろしい。スヴェイン様、私の準備はできました」


「僕はもう少し時間がかかります。アリアは存分に立場をわきまえていない第二夫人に説教を」


「はい。そもそも、ミライ様。こんなややこしいことになったのは……」


「少しだけ待ってください! 準備とは?」


「魔力の練り上げです。僕らでもこの規模の工事。準備が必要となります。そしてアリア、申し訳ありません。準備完了です」


「ではお説教は後ほど」


「お説教は確定なんですね……」


「はい。では、スヴェイン様、始めましょう」


「ええ」


 僕とアリアはお互い地面に手をつきます。


 そして、魔力の波長を合わせ街門の形に添って魔力の線を走らせました。


「……すごい。魔力が少ない私でもわかる」


「「『クリエイト・シティウォール』」」


 息を合わせた魔法発動。


 魔法を発動させる主体はあくまでもアリアです。


 僕はそれを支える役目ですね。


「な、なんですか!? この揺れは!?」


「失敗せずに。すみ、ました」


「このきぼ。さすが、に、私たちでも、つかれます」


 僕とアリアはさすがに魔力枯渇。


 僕お手製ので急速に魔力を回復させます。


 そして揺れが収まる頃にはいままでのコンソール街壁より五割ほど高い街壁がそびえ立っていました。


 見た目、鉄の門扉付きで。


「いくつか質問いいですか?」


「魔力も回復しましたし、どうぞ」


「あの門扉。鉄じゃないですよね?」


「さすが、伊達に一年の付き合いじゃない」


「表面を薄く鉄で覆ってありますが、ですわ」


「……そんなもの、どうやって開けるんですか?」


「内部に開閉装置……魔力を通して開け閉めするための装置があります。とりあえず今日は僕たちで開けましょう」


「ふたり同時に魔力を込めないと開かない仕組みですの」


「では次の質問。おふたりが飲んだ薬、なんですか?」


です」


「高品質ハイマジックポーションだけでは回復が追いつかないのでエリクシールも必要なんですのよね……」


「伝説の霊薬が……そんな数ある消耗品みたいに」


「スヴェイン様の第二夫人になるのでしたら覚悟を決めてくださいな。あなたが持つマジックバッグにもいくつか詰め込みます」


「そうですね。霊薬としては中の中と言ったところですが、僕なら素材の問題……問題? ともかく素材だけで量産できますから」


「植物素材だけですので聖獣農園だけですべての素材が揃うことが問題ですね……」


「こういうときは便利なのですが。それで、ミライさん。僕たちと一緒に来ますか?」


「行きます! これでも、評議会のお仕事ですから!」


「しゃっきりしてくれたようで結構です」


「……しゃっきりではなくふっきれただけでは?」


 さて、それでは新しい街壁の案内です。


 街壁内部の仕掛けを作動させて……と。


「なんですか!? 床がせり上がってます!?」


「魔導式昇降機ですわ。この高さの壁、いちいち登ってられません」


「見張りをする衛兵にも仕掛けを教えなければですね。この仕掛け、ごく少量の魔力でも発動できますし」


「そうなんですか?」


「帰りはミライ様が発動してください」


「そうすればわかりますよ」


 魔導式昇降機に乗りたどり着いたのは同じく魔導式の灯りに照らされた一室。


 きちんと開閉装置もできていますね。


「あの、浮いている球体上のものは?」


「門扉の開閉装置です」


「あれを開けるには多少の魔力が必要ですので……魔術師ギルドから人の派遣をお願いいたしましょう」


「とりあえず今日は僕たちで開けてしまいます」


「閉めるものがいませんが……そこは第一街壁で対応していただきましょう」


 僕とアリアは開閉装置に魔力を通します。


 すると鈍い音が聞こえ、街門が開くのが見えました。


「ああ。この部屋の窓は外側からは見えません」


「魔法などが直撃しても対魔法耐性が張ってあるオリハルコン製の窓ですのでご安心を」


「どうしよう。違う意味でまったく安心できない……」


「ほら、次の街壁に向かいますよ」


「六面すべて今日中に終わらせるのでしたわよね?」


「……うう、ジェラルド様。私の頭じゃついていけません」


「……私どもとの同棲生活」


「はい、頑張ります!」


「現金ですわ」


「色ボケしすぎです……」


 帰り道はミライさんに魔導式昇降機を試してもらい、ごく少量の魔力でも大丈夫なことを確認。


 あとは新しく作る街壁六面を回るだけでした。


 途中から弟子たちも合流して作業を見せると大はしゃぎ。


 作りすぎた霊薬も消費できて大満足ですよ。

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