522.父親の居場所判明

聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!

これは一話目です。

二話目は夜19時ごろ公開予定。

お楽しみに!


――――――――――――――――――――


 ヴィルジニーさんのお父さんに対する対策会議が終わったあと、とりあえず三日間は何事もありませんでした。


 僕がやったことといえば契約聖獣たちに命じてヴィルジニーさんと似た気配を持つ男性を探させることくらいです。


 馬車の旅というのは誤差が出やすいもの、万が一既に到着している可能性も考えてコンソールの街も探させておきましたがそちらはハズレだったようですね。


 一安心です。


 そして、四日目、待ちに待った報告が来ました。


「……そうですか。まずはヴィルジニーさんに報告して今後の対処を決めねば」


 今日は出勤日のはず……と言うか不意に鉢合わせになるおそれを考えてしばらくは休みを取らないように指示してあります。


 僕は早速第二期第二位錬金術師のアトリエに向かうと……ヴィルジニーさんは無理をしない範囲で最高品質ポーションを作っていました。


「ヴィルジニーさん。自制ができるようになってくれてとても嬉しいですよ」


「あ、ギルドマスター様。その、いろいろと懲りました」


「そうですか。なら結構。それから、僕のことはギルドマスターだけで構いませんよ。皆もそう呼んでいるでしょう?」


「ええと、それではギルドマスター。今日は何用でしょう?」


「あなたのお父さんの所在がわかりました」


 その言葉にヴィルジニーさんだけではなく、このアトリエにいた全錬金術師たちの注目が集まりました。


 やはり、皆が皆気がかりだったんでしょう。


「ギルドマスター、ヴィルジニーのヤツのお父さんは今どこに!?」


「ギルドマスターが落ち着いているってことはまだコンソールにいないんですよね!」


「とりあえず皆さんも落ち着いてください。今から説明させます。出てきていいですよ、カゲエ」


『わかりました。初めまして、皆さん、シャドウキャットのカゲエでございます』


「あの、初めまして、カゲエ様」


『ヴィルジニーさん、お気を楽に。それで、あなたのお父様の姿ですが、この方であっていますでしょうか?』


 カゲエは空中に幻の姿を浮かび上がらせます。


 そこにはいかにも建築師といった姿の男性が。


「はい。間違いなくお父さんです」


『ハズレでなくてよかった。この方ですが、コンソールまであと十日ほどかかる位置にいました』


「コンソールまで十日……予定よりもかなり遅れているんですね」


「馬車での長旅などそういうものです。道の状態や天候によって一週間程度の予定ですら狂いますから」


『はい。それでこの方ですがかなりいらだっていました。長距離移動の馬車とはいえ大幅に遅れていることが我慢できないようですね』


「お恥ずかしながらお父さんらしいです。自分の思い通りにいかないとすぐに怒りをあらわにする性格なので」


 ヴィルジニーさんはかなりご苦労されていたようです。


 ひょっとすると虐待を受けて育っていたのかも知れません。


「それで、ほかにお父さんはどんな様子でしたか? お母さんやほかの家族は?」


『すみません。ヴィルジニーさんと似た気配を持つ方はこの方だけでしたし、馬車の中で彼に話しかける者もいませんでした。おそらくひとり旅だと考えられます』


「そうですか……コンソールまで渡るだけのお金はあったのでしょうか」


「そこまで貧乏だったのか、ヴィルジニー?」


「はい。家族五人、生計を立てるだけでもぎりぎりでした。弟なんて『『剣士』なんだから十二歳になったら冒険者にでもなってさっさと家を出て行け』と言われている程です」


「それは……酷いわね」


「さすがにそこまで酷いとは考えていませんでした。それで、カゲエ。お父さんには監視を付けていますね?」


『はい。隠密系の聖獣がしっかりと側で見張りをしています。もし、馬車の予定が早まったり遅れたりしてもコンソールにつけばすぐにわかりますよ』


「ギルドマスター、それに先輩方。ご心配をおかけして本当に申し訳ありません」


「気にすんな。お前が頑張っているからこそ俺たちも親身になるんだ」


「そういうこと。……あなたは頑張りすぎているんだけど」


「あ、はは……」


「ヴィルジニーさんの頑張りが極端すぎることは置いておきましょう。今のところ問題はないでしょうし、ヴィルジニーさんも休めるうちに休んでおきなさい。……さすがにお父さんのこともあって緊張していますよね?」


「……はい。もし無理矢理連れ戻されたらと考えるととても怖いです」


「ふむ、そうなると彼女の家に戻すのも危ないですか」


「そうですね。ヴィルジニーの顔に隈が浮かんでますし、あまり眠れてないんじゃないかと」


「そうなるとどうしたものか」


 彼女はひとり暮らしですし、いまの状況では心細いでしょう。


 心労がたたって倒れられては困りますし……そうだ。


「ヴィルジニーさん。あなた、しばらく僕の家に泊まりなさい」


「ギルドマスターの家に!?」


「僕の家のゲストルームは空いています。そこに泊まれるように手配します。今日一緒にあなたの家まで行きますから着替えだけ持って僕の家に移動しましょう。使用人のリリスにも事情を話せば嫌とは言わないはずですし、アリアたちも受け入れてくれるはずです。こんなところ、それもプライベートなところで使いたくはないですがギルドマスター命令だと思って今回の騒動が落ち着くまでは僕の家に泊まりなさい」


「……そこまで甘えてしまっていいのでしょうか?」


「今のあなたをひとりにするより百倍マシです。心労や寝不足がたたって家の中や路上で倒れられては目も当てられない」


「それでは……お言葉に甘えます」


「わかりました。……もう返事が来ましたね。ゲストルームの準備は整えておくからエスコートするようにとのことです。僕以外は皆女性ばかりの家ですし安心して過ごしてください」


「……はい。今回の騒動で多大なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」


「気にしない気にしない。さて、カゲエ。あなたはヴィルジニーさんの影に潜み万が一の場合に備えてください」


『承知いたしました。それでは失礼いたします』


 カゲエは僕の方から飛び降りるとヴィルジニーさんの影の中へと吸い込まれていきました。


 これでばったり出会う可能性もないでしょう。


「さて、僕もギルドマスター業務がなくなっていて弟子たちに渡す資料を書いていただけですし、来てしまったついでです。ヴィルジニーさん、わからないところがあれば相談に乗りますよ?」


「え!? ギルドマスター直々のご指導ですか!?」


「はい。数年前から僕の指導はギルド員全員から断られ続けて暇をしているのです。まったく、初期指導はしっかりしてあげたのに……」


「すみません、ギルドマスター。でも、今は自分で考える方が楽しくって……」


「ギルドマスターって優秀すぎるから聞いてしまうと答えがすぐにわかってしまい」


「……とまあ、こんな感じなのですよ。旧ギルド本部にいた頃は近所の公園で子供たちと遊んでもいたのですが、そこも遠くなってしまいましたし僕も個人枠で講習会を持つことになりました。ギルドマスターの気まぐれだと考えてわからないところを聞いてみなさい」


「はい! では、薬草学の本を取ってきますのでそれについての解説をお願いします!」


「……やっぱり錬金術の指導ではありませんか」


「あの娘も自分で考えることが楽しいのですよ、ギルドマスター」


「ですよね」


 この日は終業時間になるまで各本の解説で終了。


 帰りは予定通りヴィルジニーさんの家に立ち寄り着替えを持って来てもらい、僕の家へと移動しました。


 そこでは既にリリスが出迎えに出てきており、まずはということで少し早いですが家族全員で夕食に。


 これほど和やかな雰囲気で夕食を食べたことがないと言い、食べ終わったあとに泣き出してしまったヴィルジニーさんを連れてアリアとリリスは彼女をゲストルームへと案内しました。


 戻ってきたのはしばらく経ったあとで、彼女が抱えていた胸の内をすべて語ってくれたらしいです。


 内容は乙女の秘密ということで教えてくれませんでしたが、実家では相当苦しかったようですね……。

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