638.見習い錬金術師 トモ 17
高品質ポーションを作った翌週、高品質ディスポイズン、高品質マジックポーションも習い始めた。
さすがにこのあたりに行くとすぐに完璧にとはいかなくなってきたけど……それでも一日目の帰り際までにはある程度できるようになっている。
指導に入っている先輩方には『加減を覚えろ問題児三人組』と言われているけれど。
腑に落ちない。
「さて、今日が高品質マジックポーションを教える最終日だ。来週からは基本的に自由裁量期間。今日、帰る前に翌週の休暇予定を提出していけ。前に説明されているだろうが一週間に最低一日は強制的な休みだから忘れるな」
うー、いままでもだけど一週間に一日も休みがあるなんて……。
私はもっと練習したいのに……。
「そうそう。それから、『新生コンソール錬金術師ギルド』基準の話をしてやる。『新生コンソール錬金術師ギルド』では〝安定〟とは十割確実に作れて初めてそう呼ぶ。最低でも九割以上作れない限り誰も〝安定〟だなんて言わないし言わせない。お前たちの基準だと高品質ポーションもまだ〝安定〟していないだろう? 自由裁量になったからって急いでばかりだと、夏の終わりまでに見習いを卒業できず支部送りになるからその覚悟でな」
「「「はい!」」」
ユルゲン先輩も厳しい。
私たち三人は既に高品質マジックポーションが〝安定〟しているみたいだけれど、ほかの皆は高品質ポーションだって怪しいもんね……。
その上、見習い卒業試験は高品質マジックポーションが五回中四回成功、それもギルドマスターとサブマスターの前で。
絶対緊張する……。
「さて、それでは今日の講義開始だが……その前に問題児三人組、お前ら一階の奥にある小会議室前まで行ってこい」
「え? どうしてですか?」
「行けばわかる。別に研究から遠ざけようとしているわけじゃないから気にすんな。戻ってきたら自由にやらせてやるから」
「はあ?」
ユルゲン先輩の言葉はよくわからないけれど……とりあえず行ってみよう。
行ってみると廊下に六脚椅子が準備されていて、そのうち三脚には男の子たちが座っていた。
あれ、この子たちって……。
「うん? お前たちも先輩方に指示されてきたのか?」
「そうですわ。あなた方もですの?」
「ああ、そうなる。お前たちと顔を合わせるのは久しぶりだな。例の騒動のあと、ギルドマスターに指輪をもらったとき以来か」
「そうですね。あ、私、トモって言います」
「私はネーヴです」
「メアリーですわ」
「そういえば名乗ってなかったな。俺はブルーノ」
「ワルターです」
「ルーウェン。よろしくお嬢さん方。年齢も一緒らしいし……これからライバルとしてやっていこう?」
「ライバル……ですか」
「悪いな。俺たちも自分たちのアトリエではそこまで仲良くやっていないんだ」
「お互いに悪いところを指摘しあったりはしているけどそれだけだね」
「仲間ではある。ただ、同時にライバルでもあるんだ。仲良くするだけじゃあやっていけないだろう?」
仲良くするだけじゃダメ。
そうなのかな?
「仲良くやっていくのはダメなの?」
「俺たちはまだまだ発展途上だ。先輩方のようにミドルポーションクラスまで行けば共同研究としてチームになるだろう。そこまではライバルだ」
「残念だけどその通りかな。誰が最初に上になるかなんてちっぽけな問題だけれど、それでも少しでも早く新しい技術に触れたいからね」
「そのために仲良くするだけじゃなく切磋琢磨してお互いを高めあっているんだ。悪い話じゃない」
「確かにそうかも。少しでも早く次の段階に進みたいからね」
「そうですわね。あまり気にしたこともありませんでした」
「まあ、そちらにはそちらのやり方があるだろう。俺たちは俺たちのやり方がある。ただそれだけだ」
なんだかかっこいいなあ。
同じ歳のはずなのにしっかり考えてる。
私なんて単にニーベお姉ちゃんを追いかけたいから錬金術師ギルドに入っただけなのに。
「とりあえず席に着いて待ったらどうだ? 俺たちもなにが始まるかは聞いていないんだが……」
「うん。朝、いきなり先輩にここに来るよう言われたからね」
「なにが始まるやら」
「私たちもだよ」
「なにが始まるのかな」
「不安ですわ」
六人で不安になりながら待っていると会議室のドアが内側から開けられて、出てきたのは……ミライサブマスター!?
「あ、六人とも揃っていますね。見習い卒業試験を始めます」
「ちょちょっと待ってくれ! 見習い卒業試験!?」
「はい。あなた方はさっさと一般錬金術師以上に昇格させろと第二位錬金術師の推薦があったので今日行います。失敗しても私もギルドマスターも怒りませんから緊張せずに」
「で、でも、いきなりそんなこと言われても……」
「気にしない気にしない。錬金術師ギルド本部ってこんな感じですから。まずはブルーノさんからどうぞ」
「ああ、はい」
ミライサブマスターに呼ばれてブルーノさんが部屋の中に入っていった。
そして、しばらくして出てくると……ローブの色と紋章が変わっていた!
「ブルーノ!?」
「あ、ああ。第一位錬金術師に昇級らしい。俺にもよくわからん……」
「うわあ! おめでとうございます!」
「あ、ありがとう。ただ、いきなり過ぎて気持ちが追いついていない」
「くそ! ブルーノに先を越されたか!」
「いや、ここにいる全員が試験対象だからな。次、ワルターの番らしいぞ」
「わかったよ。僕も第一位錬金術師になってみせる!」
「その……頑張れ」
そのあと行われたワルターさんとルーウェンさんの試験も合格したみたいで、ふたりとも第一位錬金術師に。
うらやましいなあ。
「その……次はトモの番らしい。早く行ってこい」
「うん。私も皆に続くよ!」
私は扉をノックして入室許可をもらうと部屋の中に入り、名乗ってから一礼した。
奥の椅子に座っているのは間違いなくギルドマスターとサブマスターだ……。
「さて、トモさんもお久しぶりです。あなたも頑張りすぎですよ? まさか、今日見習い卒業試験を受けることになるだなんて」
「ええと、私も驚いています」
「でしょうね。僕も第二位錬金術師たちから推薦があったときは何事かと驚きましたから。さて、そこの椅子に座ってください。お題は聞いていると思いますが高品質マジックポーションの作製を五回です。五回中四回成功で昇級、できなくても怒りません。肩の力を抜いて普段の力を発揮してください」
「はい!」
ギルドマスターとサブマスターの前っていうのが緊張するけれど、これはいつもの高品質マジックポーション作り……。
一回目は成功、二回目も成功、三回目、四回目、五回目も問題なく成功。
やった!
「五回中五回成功。まったく、第二位錬金術師の推薦は正しいのですが……急ぎすぎですよ」
「そうですね、ギルドマスター。でも、これで正式な本部付き錬金術師がまたひとり増えました。質の悪い愚か者どもも多かったですが……今のところ順調です」
「ええ。さて、あなたに渡すローブですが……やはり、こちらしかないでしょう」
「え、これって……」
「第一位錬金術師のローブです。第一位錬金術師になってなにができるかはこのあと全員まとめて説明しますので廊下で待っていてください。それから、次はネーヴさんを呼んできていただけますか?」
「はい!」
やった!
これで、憧れのニーベお姉ちゃんから指導を受けられる!!
そのあと受けたネーヴちゃんとエアリーちゃんも第一位錬金術師になれたし……これで六人全員第一位錬金術師。
こんな簡単になれてもいいのかな?
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