637.見習い錬金術師 トモ 16
休み明け、私たちは高品質魔力水の指導が終わり高品質ポーションの作り方に移った。
移ったんだけど……。
「やっぱり問題児三人組は失敗しないわね。一度も一般品質に落ちないなんて」
「ジャニーン先輩」
「魔力枯渇の回数も増えて困るけれど……諦めたわ」
「あはは……」
うん、高品質ポーションって想像以上に魔力を使っちゃうの。
あと一回は大丈夫!
と思って作ったら魔力枯渇でめまいを感じたりしちゃって……三人とも仮眠室行きの回数がまた増えちゃった。
いまもネーヴちゃんとメアリーちゃんは仮眠室だし。
「ところで、難しい顔をしながらポーションを作っているけれど、なにか困ったことでもあるの?」
「ああ、いえ、大したことではないんですけど……お金の使い道でちょっと」
「お金の使い道? お金でも落としたの?」
「いえ。ジャニーン先輩って『サリナのお店』って知っていますか?」
「ええ。ギルドマスターの家でやっているエンチャントオーダーメイドの子供服専門店よね。そこがどうかしたの?」
「そこで私たち三人のケープコートを作っていただけるという話になったんですが……布とかエンチャントが特別らしくって金貨八十枚と言われてきました」
「金貨八十枚」
「はい。その……高いですよね?」
「まあ、高い買い物だけど、エンチャントは何重?」
「九重らしいです。【汚れ完全無効】とか【破断無効】とか聞いたことのないエンチャントも含まれてましたけど」
「……それ、私も頼みたいんだけれど」
「ジャニーン先輩も?」
「エンチャントが九つもかかっていて特別なものまでなんて白金貨を出さずに買えるのはお安い買い物よ? ああでも『サリナのお店』は〝子供服専門店〟だから私は無理か……」
「それって私たちは買った方がいいんでしょうか?」
「『サリナのお店』って【自動サイズ調整】もかけてくれるわよね? それもついていた?」
「はい。その上で大きめに作ってくれるって」
「それならあなたの身長がどれくらい伸びるかだけど一生物の服になるわよ?」
「そうなんですか?」
「もちろん。それで、ポーション作りを難しい顔でしていた理由は?」
「ええと、お金が欲しいだなんて不純な動機で作ってもいいのかなって。ポーションって怪我を治す薬ですよね。それなのにお金稼ぎだけのために量産するだなんて……」
「なるほど。それは難しい問題ね」
「はい。あまりやらない方がいいですよね?」
「バンバン作りなさい」
「え?」
ジャニーン先輩なら止めると考えていたのに……なんで?
「あなたがそう考えているだけで十分よ。それに難しいポーションを作るためにはスキルレベルも必要なの。細かいことは気にせずバンバン作ってお金稼ぎついでにスキルレベルを上げなさい」
「……そんな不純な動機でいいんですか?」
「今のところは構わないわ。見習いを卒業したら自分の頭で考えてもらうことになるけれど、それまではひたすらポーション作りに励んでいいわよ。それに、傷を癒やす薬を量産することは悪いことじゃないわ」
「そうなんですか?」
「ええ。今のところ、コンソールでポーションの売れ残りは発生していないの。今後どうなるかは状況次第だけれど、いまは在庫過剰になることはないわ。シュベルトマン領内でコンソール式のポーションを作り始めたから数年先は怪しいけれど、いまはまだ高品質ポーションを作れていないらしいしね。だから、輸出分も含めて高品質以上のポーション類って貴重品なのよ」
「そうだったんですね」
「ええ。ポーションの差別化は難しいけれど、最終的にポーションの『コンソールブランド』が生き残る道は特級品以上のポーション類よ。私や先輩方が作っている特級品ポーションやマジックポーション、先輩方が作っているミドルポーションね。これは絶対に抜かせはしないわ。抜かそうとすれば私たちはもっと先のものを作っているから」
「……すごい自信ですね」
「あら、自信じゃなくて事実よ? 先輩方はミドルマジックポーションの研究を始めているし、私たちの同期も段々特級品を作れる人数が増えてきた。絶対にほかの街になんて負けてあげないわ」
「……それも覚悟と誇りですか?」
「当然。問題は買い取り価格が高すぎてお金がどんどん貯まっていくことなんだけど……」
「……それって錬金術師ギルドの財政は大丈夫なんですか?」
「むしろ私たちが特級品や最高品質を作らない方が財源へのダメージになるって言われているの。主な利益源はそっちになっているからって……」
「錬金術師ギルド本部って本当に高給取りなんですね……」
「高給取りよ。納品物も高級品ばかりに限られているし、そのほかにも更に上の研究も進めている。給金が増える要素はあっても減る要素がないのよね……」
うらやましい……。
私たちの家庭だって三年前の夏まではかなり苦労していたのに……。
「ともかく、なにか目標ができたならそれに向かって突き進むといいわ。あなたのいまの最終目標はミドルポーションを自力で作ることなんでしょうけど」
「はい。でも、その話を伺っているともっと先を目指さなくちゃいけない気がしてきました」
「そうね。とにかく、まずは正式な本部付きを目指しなさい。そのあとは自主研究も増えてくるけれど、その分楽しくなってくるわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、そう。錬金術師ギルド本部では一から手順を教えるのは高品質ポーション類までってルールがあるの。最高品質ポーション類になると資料室にある資料を読みながら自力研究よ」
「それって大変ですね」
「大変だけどその分やりがいもあるわ。資料の解説くらいは私たちでしてあげるからそれ以上は自力でやるのよ?」
「はい!」
「じゃあ、迷いも晴れたでしょうし、魔力も多少は回復したでしょうからポーション作りに戻りなさい。……あなた方は指導の手間がかからないけど気を抜くと魔力枯渇を起こしているから大変なのよ」
「……ご迷惑を」
「でも止まらないんでしょう?」
「もちろんです!」
「結構。深めの魔力枯渇は間違っても起こしちゃダメよ? 監督者の心臓に悪いから」
「はい!」
そっか、ポーションってそんなに足りてないんだ。
それならたくさん作っても問題ないんだよね。
よーし、頑張って作るぞ!
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