639.見習い錬金術師 トモ 18
メアリーちゃんが出てきて少し経つとギルドマスターも出てきた。
サブマスターは部屋の片付けをしているらしい。
「さて、皆さん。見習い卒業おめでとうございます。これで皆さんは正式な本部付き錬金術師となりました。このあとは、よほどの怠慢がない限り支部送りになりませんので研鑽を怠らないようにお願いします」
「「「はい!」」」
「結構。それでは第一位錬金術師になった結果できるようになったことを説明いたしますが……まずは資料室にでも行きましょうか。皆さん資料室は見たことがないでしょうし」
ギルドマスターに案内されるまま一階にある資料室へ。
そこには書架の中にびっしりと様々な本が並べられており……すごい!
「ギルドマスター、この本は?」
「すべて僕が書いた技術書です。数が多いように見えるのは同じ本が何冊もあるからですよ。それこそ、魔力操作のやり方から蒸留水の作り方、ポーション類、高品質ポーション類、そして最高品質ポーション類まではすべて揃っています」
「すげえ……」
「とりあえず好きな本を読んでみなさい。時間はたっぷりありますから」
「「「はい!」」」
私は早速……復習ということで蒸留水の作り方を読んでみた。
そこには濾過水から蒸留水を作る際の注意点や湯冷ましから作る場合の注意点、井戸水からの時の注意点までびっしり書かれている。
それこそ段階的に細かくわかりやすく書かれていて、第二位錬金術師の先輩方が『井戸水からしか蒸留水を作らない』というのもわかってしまう内容だ。
次に私が手を伸ばしたのは高品質マジックポーションの作り方。
それも図解付きでわかりやすく書かれており、詳しく本当に細かいところまで記載されていた。
先輩方の教えにもこの内容が反映されていることがよくわかって、教え方というのも難しいんだなと理解してしまう。
その次は……これ!
「〝最高品質魔力水〟の作り方」
私が次に目指さなくちゃいけない段階、〝最高品質ポーション類〟の基礎素材である最高品質魔力水。
これの作り方……なんだけど……。
「う……簡単じゃない……」
水の中に溶け込ませる魔力量を増やすのは予想できていたんだ。
でも、この手順は予想外だった……。
「トモちゃん、なにを読んでいるの?」
「最高品質魔力水の作り方……」
「最高品質魔力水? それだけでなにをそんな渋い顔に?」
「皆も読めばわかるよ」
「ほう、面白そうだな」
「うん、気になる」
「どれどれ……これは……」
「横に攪拌している途中で縦回転に変更……」
「それもタイミングが悪ければ高品質魔力水にしかならない……」
「最高品質も高品質の延長線だと舐めていた……」
「僕もだよ。こんな手順だったなんて」
「〝高品質〟から〝最高品質〟に上がるだけでここまで違うのか……」
「魔力水だけでこれだよ? ほかのポーションとかになると……」
「そちらも確認してみよう。まだ早いのだろうが……」
最高品質ポーションの作り方にはもっと難しいことが書いてあった。
魔力を均一な波長の波で流し込みながら最初は少量ずつ、最後は多く流し込む。
そして、いままでは魔力水を起点に錬金術を行使していたけれどそれも薬草メインにしなくちゃいけない。
……難しい。
「どうですか? 最高品質の作り方を読んでみて」
「はい。とっても難しいです……」
「先輩方はこれを当たり前に作っておられるんですよね?」
「そうなります。そして、あなた方にもそうなってもらわねば困ります」
「道程、険しいね」
「そうですわね。第一位錬金術師になれて浮かれていましたわ」
「誰もが通る道ですよ。支部の方々は最初からすべてを閲覧できるために心が折れたり、一足飛びに上を目指そうとして足元の技術が疎かな状態だったりするのですが」
「「「え?」」」
そういえば最初に支部は資料室の閲覧も自由って言っていたけどこれってどういう意味だろう?
「資料室にある資料は僕がまとめたものです。そのため、作り方に間違いはありません。ですが、その資料には明らかに足りないものがあるんですよ。なんだかわかりますか?」
「足りないもの?」
「作り方は一から詳しく載っておりますが……」
「そうだよね。作り方に間違いがないならなにが足りないんだろう?」
「素材……は、魔力水と各種薬草類だけのはずだしそれも載っていたよね?」
「載っていたな。あと載っていなかったものは……なんだ?」
「作り方の注意点も細かく載っておりましたし……なにが足りないのか……」
この資料で足りないもの……。
私は最初からもう一度読み返してみてある疑問点に気が付く。
あれ、これってどういう……。
「あの、ギルドマスター」
「トモさん、わかりましたか?」
「わかったかどうかわかりませんが……ポーション作りってスキルレベルが足りないと失敗しますよね? どうしてその記載がないのでしょうか?」
「「「ああ」」」
「正解ですよ、トモさん。僕の資料にはわざと必要スキルレベルを載せていません。さて、その理由は?」
「理由……そこも研究して見つけろと?」
「半分だけ正解です。残り半分は足元を固めないと次へ進めないという戒めですよ」
「それって意地悪では?」
「さすがにそれくらいは気が付いていただかねば。これだけの資料は揃えてあるのですから」
「なるほど」
確かに、すべてのポーションを作る方法がわかるのに必要なスキルレベルくらい自分で見つけられないと甘えすぎかも。
やっぱり錬金術師ギルドって厳しいなあ。
「さて、資料室はもういいでしょうか? まだ見たいのでしたらいくらでも時間を作って差し上げますが」
「いえ、私は大丈夫です」
「俺たちも大丈夫です。貴重な資料を見せていただき感謝いたします」
「そんな硬くならずに。あなた方はこれから自由にこの資料室へ入っていいのですから」
「「「え!?」」」
「見習い卒業の証のひとつ、〝資料室への立ち入り許可〟です。就業時間内でしたら自由に資料室へ入って構いません。書架に収まっている通常資料でしたらアトリエに持ち出してもらっても結構。汚れたり破れたりしたら事務室へ届け出てください。新しい本と交換いたします」
「その……罰則は?」
「ありませんよ? あの程度の本には一切保護エンチャントをかけていません。大量に写本してありますので……乱暴に扱われると困りますが不慮の事故で汚れたりする分には構いません。存分にお使いなさい」
「「「ありがとうございます!」」」
「それから、見習い卒業によってもうひとつ認められることがあります。それは〝研究内容の自由〟。これからも第二位錬金術師たちによる講義は続きますがあなた方は自由に研究をして構いません。その範囲にはもちろん最高品質も含まれます。ただ、ヒントを出してしまいますが、あなた方のスキルレベルではまだ最高品質ポーションは届かないでしょう。最高品質魔力水は研究しても構いませんが、スキルレベルを上げるために高品質マジックポーションで経験を積んでください」
「「「はい!」」」
「それからこれは第一位錬金術師になったことによって認められる内容ですが、〝薬草栽培への参加〟があります。これは〝認める〟と言うよりも〝義務〟なのですが、第二位錬金術師たちの指導の元に参加し始めなさい。薬草栽培の参加日は夜明け頃に試験栽培畑へ集合となるので朝早いですが、頑張って慣れるように」
「「「わかりました」」」
「最後に、これも第一位錬金術師になれたことによって認められることです。僕の弟子、つまり〝ニーベとエリナによる指導〟を認めます。ふたりにも答えは教えないように指導しているのでヒントしか出しませんが、それでもいいなら聞きに行きなさい。ギルドに来ていれば五階のギルドマスター用アトリエか個室にいるはずです。彼女たちはほかにやることも多いので毎日同じ時間にいるとは限りませんし、アトリエに鍵をかけて結界を張り訓練をしていることもありますからその時は諦めてタイミングを見計らってください」
やった!
遂にニーベお姉ちゃんの指導が受けられる!
想像していたよりもずっと早かったけれどこれで心置きなくお姉ちゃんに会えるんだ!!
「以上が第一位錬金術師に認められることです。質問はありますか?」
「あの、具体的にこれからはどうすればいいのでしょう?」
「好きにしてください。なにをどう研究するのもあなた方の判断次第です」
「では俺からも。成果が出なかった場合は?」
「第一位錬金術師まで上がれば〝成果が出ない〟なんてことはありませんよ。例え失敗続きでもその中から学び取ってください。ただ、最低限のポーションは納品してくださいね。昔は先輩方が研究にはまりすぎて後輩よりも給金が低くなった時期もありましたから」
「では、私から。納品ノルマなどはありませんのでしょうか? 支部ではノルマがあると伺いましたが」
「本部にいる限りはありません。支部は足元を固めさせる意味でもノルマを課しました。それにあなた方、今更ノルマなんて出さなくとも山のように納品するでしょう?」
「ええ、いや、その……」
「納品する分には怒りませんよ。ともかく、ノルマはありません。そこも自由にやってください」
「じゃあ、僕からも。僕たち魔力枯渇でかなり仮眠室に行っているはずなんですけど……それって大丈夫なんですか?」
「あ、それは私たちも気になります。毎日何回も行ってますから」
「気にするようなら第一位のローブは渡しません。魔力枯渇の回数は多いようですが、その分の成果は出していると講師に入っている第二位錬金術師たちから報告を受けています。実際、納品数も群を抜いていますからね」
「よかった……」
「ただ、第二位錬金術師たちからも注意をされていると思いますが重度の魔力枯渇は起こさないこと。最高品質ポーション類はあなた方の想像以上に魔力を消耗します。少しでもめまいを感じたらしばらく休むか仮眠室へ行きなさい」
「「「はい」」」
「ほかに質問はありますか?」
ギルドマスターの問いかけにこれ以上の質問は出なかった。
これでギルドマスターによる説明は終了となり、各自自分たちのアトリエに戻ることに。
戻るとユルゲン先輩が『やっぱり第一位のローブをもらってきたか』と言い、同期の皆も祝福してくれたりうらやましそうな目で見たり反応は様々。
ユルゲン先輩は『お前らも認められたかったら結果を出せ!』と一喝して講義が再開したけれど……私たちへの指導は基本的になくなって、たまにユルゲン先輩が話しかけに来るのみ。
あとは休憩時間に同期たちが私たちのところに質問に来る回数が増えたけど……これはこれで嬉しいかも。
でも、早くニーベお姉ちゃんの指導を受けたいなあ。
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