305.弟子たちの今と進む先
とりあえず本泣きしてしまったサンディさんは弟子たち用のベッドに座らせます。
なんだか普通の椅子では危ない気がするので。
弟子たちは弟子たちで今の感覚を忘れないよう、また魔法研磨を始めてますし。
ウエルナさんはウエルナさんでふたりの様子を眺め、事務方三人は状況が理解できない様子。
どうするのが正解でしょうかね?
「ああ、今度は失敗しちゃったのです……」
「さっき先生が言ってたとおり傷や罅が入りやすいのかも」
「でも、硬い宝石だとまだまだ私たちではカットできないですよ?」
「どうすればいいのでしょうか、サンディ先生? サンディ先生?」
「……アイツ、子供かよ」
サンディさん、泣きつかれたのか眠っていました。
仕方がない、僕が教えましょう。
「ふたりとも、石のカットというのはなにもそのような形ばかりではありませんよ?」
「そうなんですか?」
「ではどのように?」
「手本を見せましょう。魔力の流れとかも見ますか?」
「先生のはいいのです!」
「先生のを見てしまうとそればかりなぞってしまうので……」
……やっぱり弟子たちの反抗期でしょうか?
まあ、魔力の流れを見せなくていいのなら手早くやりましょう。
「その石は、こうやって表面を丸くするだけでも綺麗ですよ」
「うわぁ……」
「気がつきませんでした」
「お嬢ちゃんたち、宝石には宝石ごとの活かし方ってのがあるんだ」
「そうなのですか?」
「全然知りませんでした」
「……スヴェイン様?」
「すみません。僕と同じくらい研究にしか興味がなくて……」
女の子ですし、もっと宝石とかアクセサリーにもこだわっていいのではないのでしょうか?
なんだかこの子たちにすすめたら『研究の邪魔』か『研究の素材』にしかならない気がしますが。
「とりあえずもう少し私たちでも研磨できる石を削ってみるのです」
「そうだね。どの石がどんな風にすればいいかはそれから考えてみよう」
「……ミライさん。あの子たちの情操教育ってお願いできませんか?」
「研究以外には興味がなさそうですし無理です」
なんでしょう、僕もアリアも致命的に育て方を間違ったのでしょうか。
こんなことになるはずでは……。
「スヴェイン様、あの子たちが魔法研磨を始めたのっていつくらいです?」
「え、ああ、三カ月ほど前ですね。そのほかにも僕がセティ師匠から教わった秘伝を少し教えているので魔法研磨ばかりやっているわけではないはずですが」
「……そりゃサンディも泣くわ」
弟子たちの様子を見れば与えている原石の中から自分たちの腕前に見合ったものを数分で見つけ出し、それを研磨しています。
手際も最初の頃とは比べものにならないくらい早く正確で……うん、サンディさんも形無しでしょう。
「スヴェイン様、そろそろ俺の事も紹介してください」
「そうですね。ふたりとも、一度こちらへ」
「はい」
「わかりました」
魔法研磨を中断し、僕たちの元に戻ってくる弟子ふたり。
研磨も半端な状態ではなく、きちんと続きができるような状態ですね。
「紹介がおくれました。こちらは錬金術師ギルド支部でシュミット講師陣のまとめ役をしてくれているウエルナさんです」
「ウエルナだ。よろしくな、お嬢ちゃんたち」
「初めまして、スヴェイン先生とアリア先生の弟子のニーベです」
「同じくエリナです。よろしくお願いします」
「厳密には初めましてじゃないがあいさつするのは初めてだし、まあいいだろう。それでお嬢ちゃんたちは高品質ミドルマジックポーションまで手をかけているんだよな?」
「はい」
「まだまだ一割届くかどうかの成功率ですが」
「……ちなみにどれくらい試してる?」
「えーと、エリナちゃん、わかりますか?」
「ボクもわからないよ。まだ百回はいってない……はず?」
「あなた方、もうそんなに試していたのですか」
「高品質ミドルマジックポーション作り、楽しいのです!」
「はい! 初めてポーションを作ったときと同じ感覚です!」
「うらやましいな、その輝き」
本当にキラキラ輝いていますね。
十二歳の女の子たちが言う内容ではないのですが。
「でだ、嬢ちゃんたちが高品質ミドルマジックポーションを作っているところを見せてもらいたいんだよ」
「別に構わないですよ」
「はい。減るものでもないですし」
「……少しは隠すことも覚えような、お嬢ちゃんたち」
「え?」
「だって、ウエルナさんも作れますよね?」
「あ、いや。確かに作れるが。なんでわかった?」
「先生が『シュミットの先生たちのまとめ役』と言ってました」
「実力主義のシュミットでまとめ役ですから、最低でもハイポーションには手が届いているんじゃないかなと」
「スヴェイン様、俺の事話してませんよね?」
「もちろん。彼女たちの推測ですよ」
そして、大体あっていますね。
彼女たちの目も肥えてきました。
「仕方がない。先に俺の高品質ミドルマジックポーションを見せてやる。代わりに嬢ちゃんたちのも見せてくれ」
「はいです!」
「先生以外のお手本は見せていただいた事がないので参考にさせていただきます」
「……これは俺も気を抜くと食われちまうな」
「ん?」
「はい?」
「こっちの話だ。事務方三人は悪いが出て行ってくれ。こっからは職人の世界だ」
「わかりました。私たちは部屋の外で待機しています」
「悪いな」
事務方三人が出ていったことを確認するとウエルナさんは錬金台を取り出し、早速作業準備に入ります。
「……あれ? 魔力を溜めるタイプの錬金台ですか?」
「ああ。一分程度で使えるようになるが、俺の魔力で安定させるにはこいつが一番って結論に至った」
「やっぱり錬金術道具って大事なんですね」
「スヴェイン様は魔力の癖がないから大抵の錬金台を使えちまうが、普通の錬金術師はそうじゃないからな」
「私たちもミドルポーションを作ってから初めて知ったのです」
「自分に合った錬金術道具が大事だなんて考えもしませんでした」
「……スヴェイン様、そこんところも教えましょう」
「いや、僕のいないときに買い換えているとばかり」
こればかりは言い訳できません。
完全にボクの大失態でした。
「まあいいや。道具も定期的に更新しろよ」
「先生から作り方を教わったら試し始めます!」
「ボクたちの魔力波長じゃ既製品はあわないらしくって」
「どんなじゃじゃ馬だよ。さて、錬金台も温まったし始めるぞ」
「わかりました!」
「しっかり見届けます」
さて、ふたりはウエルナさんの錬金術からなにを盗みますかね?
「……できた。どうだ、なにかわかったか?」
「……魔力の流し方がまったく違ったのです」
「収束パターンもまるで違ったね。早速試してみようか」
「はい!」
「おいおい、本当に俺の技まで盗む気だぞ」
「あの子たちに技術披露をしたからですよ。さて、今回はどう活かすのか」
「うーん。あまりうまく魔力が流れないのです」
「収束パターンもうまくいかない感じかな。ボクたちにはあわないのかも」
「ですね。残念です」
「ボクたちはボクたちでがんばろう?」
本当に成長したものです。
いや、もう少しゆっくりとお願いしたかったのですが。
「どれ、お嬢ちゃんたちの錬金術も見せてくれ」
「はいです」
「構いません。できれば指摘もほしいです」
「それは見てから考えよう、まずはニーベから頼む」
「はい」
ウエルナさんはニーベちゃんとエリナちゃん両方の技をしっかり確認しました。
彼もまた技を盗めないか考えましたね。
「うーん。悪い、お嬢ちゃんたちに指摘してやれることはないわ」
「そうなんです?」
「問題はありませんでしたか?」
「なにも問題がない。それぞれがそれぞれのやり方で最適化しているように感じる。あとはひたすら練習を重ねればいいだけだろう」
「そうですか……」
「やはり近道はありませんね」
「研究者や職人の世界に近道なんかないさ。回り道はあってもな」
「わかりました。これからもがんばります」
「努力を積み重ねます」
「ああ、その気持ちを忘れるな」
うんうん、いい感じです。
この子たちもわかってくれていますね。
「最後に聞きたいんだが……お嬢ちゃんたちの最終目標ってなんだ? 高品質のハイポーションとかか? それとも霊薬の類いか?」
ウエルナさんの質問に対し、ふたりは一瞬だけ視線を合わせ、元気よく答えました。
「どこまででも進みます!!」
「はい! 道がある限り、いえ、道がなければ切り開いてでも!!」
「そうか……さすが、『努力の鬼才』の『弟子』だ」
ウエルナさんも満足してくれたようですね。
「お嬢ちゃんたち。時間があったら錬金術師ギルド支部にも遊びに来てくれ。ほかの講師陣もそれぞれ独自のやり方がある。参考になるかもしれないぞ?」
「本当ですか!?」
「では、必ず伺います!!」
「よし。いいよな、スヴェイン様」
「決めてから確認を取らないでください。そして、無理矢理連れ回さないなら許可します」
「だってよ。講師どもには話をしておく。待ってるぜ」
「はい!」
「今の研究が一段落ついたら必ず行きます!」
「……サンディから技を盗むのはほどほどにしてやれな」
ウエルナさんの用事はこれで終わったらしく、イーダ支部長とロルフ支部長補佐とともにギルド支部に戻っていきました。
そしてその二日後、本当に弟子たちはギルド支部に顔を出したらしく講師陣全員の技を確認してきた様子。
また、噂の『カーバンクル』を目の当たりにしたギルド支部の錬金術師にも火をつけたようです。
……弟子たちの方がよっぽどギルドに貢献できているのではないでしょうか?
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