304.〝技を盗む〟
「そうだ、帰る前にスヴェイン様のお弟子様。彼女たちの様子を見せてもらえませんか?」
「ウエルナさん?」
幹部会も終わり解散というところでウエルナさんから突然の提案が。
一体どうしたというのでしょう?
「いや、もう高品質ミドルマジックポーションまで手をかけたって言うじゃないですか。一体どこまでと感じて」
「それは私も興味があります」
「私もです。噂に名高い『カーバンクル』。本部にいたときはともかく、支部にいてはその技術を噂でしか聞けませんから」
「イーダ支部長にロルフ支部長補佐まで」
さて、どうしましょうか。
「いいんじゃないでしょうか。今の技術を見せてあげても」
「ミライさん?」
「さすがに秘伝をみせるわけにはいかないでしょうが今の技術を見せるだけなら構わないでしょう。本部ではスヴェイン様の秘密にしていること以外はすべて伝わっていますし」
言われてみればそうかもしれません。
さすがに武具錬成とか宝石保護をみせるわけにはいきませんが、高品質ミドルマジックポーション作り程度なら見せても構わないでしょう。
「わかりました。ですが、先に僕が様子を見てきてから決めます。今日はサンディさんもきているので、あまり見せられない技術はやっていないと思いますが念のため」
「わかりました。期待してます」
「ウエルナさんが期待するほどじゃないですよ」
さて、ギルドマスター用のアトリエに……って、鍵が開いている?
あの子たちが閉め忘れるような不用心をするとは考えられないのですが。
「ニーベちゃん、エリナちゃん、サンディさん。入りますよ」
「はいです!」
「どうぞ!」
うん?
ふたりの返事はありますがサンディさんの返事がない。
とりあえず入りましょう。
「ふたりとも、鍵もかけずになにをやっていたのです?」
「ただの魔法研磨です!」
「ようやくサンディ先生のカットを真似できるようになりました!」
「びえーん! スヴェイン様ー!!」
大喜びの弟子ふたりに半泣きで抱きついてくるシュミット講師。
なんですか、このカオス。
「……なにやってんだ、サンディ?」
半開きになっていたドアから三人の声が聞こえたのか、部屋に入ってきたウエルナさんたち四人。
これ、更に混乱に拍車をかけませんか?
「ウエルナさん?」
「おや、おふたりともお知り合いで?」
「ええ、まあ。育成所の同期です。で、なんでサンディがスヴェイン様に泣きついてんだ?」
「そうなんです、スヴェイン様! このふたり、私の技を遂に盗み始めました!!」
「はあ?」
「ほう」
それはそれは。
僕の想像なんかよりも遙かに早い。
「サンディ、お前、ジュエリストの中じゃ中の上程度だったよな?」
「はい! それなのに! それなのにぃ!!」
「ふたりとも、カットした宝石を見せていただけますか?」
「はいです!」
「どうぞ!」
「ほほう」
「……ああ、なるほど」
「でしょう!? 私の技、入ってますよね、これ!?」
ふたりが研磨した宝石の難易度はかなり低い方です。
ですが、それなのにカットはしっかりしていて、宝石の質にあっているかはおいておけば見事な技術です。
「確かにサンディの技だな、これ。しかも、柔らかい宝石だ。下手したら硬い石より難しいぞ?」
「そうですね。柔らかい石だとカットするときに罅が入ったり削れたりするときがあります」
「うわーん!」
サンディさん、更に半泣き……いえ、本気で泣き始めました。
大丈夫でしょうか?
「あの、スヴェイン様。技術を盗むってそんなに簡単なんですか?」
「そんなわけないじゃないですかぁ! 私なんて、師匠の技を盗むのに三年かけて少しだけだったのに!!」
「サンディさんが来てからまだ三カ月程度ですものね……」
確かにこれは泣きたくもなるでしょう。
と言うか、この子たちもよく技を盗めましたね。
「ふたりとも、どうやって技を盗んだんですか?」
「技を盗む?」
「それほどだいそれたことはしていません。ただ、サンディ先生の魔力の流れに沿ったカットをしただけです」
「はい。サンディ先生の魔力の流れはわかりやすかったので真似も簡単だったのです」
「びえーん!!」
あーあ、完全に泣いてますよこれ。
ふたりとも、簡単に技を盗みすぎです。
よくわからない事務方三人は首をかしげてますしウエルナさんも顔に手を当ててますし……どうしましょう?
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