この師匠、この弟子
303.錬金術師ギルド幹部会
本日はギルドマスタールームに僕とミライさん、ギルド支部のイーダ支部長とロルフ支部長補佐、あとシュミット講師陣を代表してウエルナさんに集まってもらって会議です。
あまり言いたくはないですが錬金術師ギルドの幹部会議ですね。
「さて、お集まりいただきありがとうございます。皆さんの仕事もありますし手短に話を進めていきましょう。まずはウエルナさん、補講の状況を」
「はい。補講参加者で卒業できたのは二割、落ちこぼれたのは五割だ。残りの三割は……様子見だな。ぎりぎり間に合うかどうかの瀬戸際だ」
「となると、補講に参加していないものも相応にいますね?」
「もちろん。このままだと百人には行かないが八十人くらいは破門じゃないか?」
八十人ですか。
想定よりも遙かに多い。
「……やはり僕が熱を入れられないのはそこまで響きますか」
「失礼ながら。スヴェイン様が悪いわけではありません」
「そうだぜ。機会はちゃんと与えてる。それを活かせない以上、救いようがない」
「恐れながら、私も同意見です」
「私もです。これを見逃せば本当にギルドマスター抜きでは回らないことになります」
「……そうですね。仕方がありません」
元々、切ると言いだしたのは僕とミライさんです。
ギルドマスターとサブマスターが判断した以上、その決定は絶対ですから。
「切り捨てる人間のことは忘れましょう、スヴェイン様。時間の無駄です」
「はい、そうします。次、補充人員について」
「こいつも俺たちシュミット講師陣で決めていいんだよな?」
「本来であればシュミット頼みはなるべく避けたいのですが……」
「気にするな、スヴェイン様。今回こっちに渡った連中は全員骨を埋める覚悟もしている。今更他人行儀はなしだ」
「すみません。僕が無計画なばかりに」
「無計画なところだけは反省してください、スヴェイン様」
「だな。だが、この街には待機している連中がわんさかいるんだろう? どうやって選別するよ?」
そうなんですよね。
僕の特別講習を行わなくなって久しいと言うのに、様々な下働きをしながらこの街で生計を立てている錬金術師の卵たちがいます。
呼び込んでしまった手前、なんとか受け入れたいのですが……。
「どうにかなりませんか、サブマスター」
「スヴェイン様、困ったときだけ役職呼びで私を頼らないように。ですが、本当に頭の痛い問題です。それだけ、元の街に戻りたくはないと言うことでしょうが……」
「職業優位論か。シュミット出身の俺から見ればアホらしいにも程がある。そんなの語れるのはスヴェイン様クラスの飛び抜けた人材だけだ」
「そういえばウエルナさんも『錬金士』でしたよね」
「そうだぜ、イーダ支部長。これでも俺が今回こっちに渡ったシュミット錬金術講師じゃ頭を張ってる。職業なんて本人の努力次第でいくらでもひっくり返るもんだ」
「第二支部の建物は貸し出し中。いえ、返されても機能できないのですが」
「ロルフさんの言うとおりです。困りましたね。テキストだけ与えてあとは自習でなんとかしろ、とは言えません」
「最低線、蒸留水と魔力水を完璧に教え込まなきゃ無理だ。『コンソールブランド』とやらに傷はつけられねえんだろう?」
「はい。『コンソールブランド』の中でも我々錬金術師ギルドのポーションは一番の売れ筋。代名詞でもある以上、ケチをつけられるわけにはいきません」
「参ったぜ。眠っている卵を最低でも孵してはやりたい。だが、『コンソールブランド』には傷をつけられない。スヴェイン様、いい手段はないか?」
うーん。
最大の問題は『コンソールブランド』の威信ですよね。
一定以上のクオリティを保たねばならないという。
ん?
「ウエルナさん。シュミットの講師をフル活用すれば卵から孵す程度はできますか?」
「ああ。その程度なら。だが孵すだけで『コンソールブランド』には……」
「いえ。ユニコーンをやめましょう」
「は?」
「元々ユニコーンとペガサスブランドは僕が冒険者ギルドにほかの解決方法がなかったため売り渡しているもの。質は落ちるでしょうがそちらのブランドがなくなっても、錬金術師ギルドと『コンソールブランド』には傷がつかない。冒険者の皆さんには申し訳ありませんが、多少の我慢はしていただきましょう」
「スヴェイン様、また大胆な解決策を……」
「いえ、そもそもが僕の卸しているペガサスとユニコーンを代替させる目的で始めたのです。それを今実行に移すだけですよ」
「ですが、冒険者ギルドでも買い取りが発生しますよね。その金額は……」
「名義上は僕の冒険者ギルド口座にユニコーンとペガサスの代金が振り込まれていることになっています。そこから出してもらうことにします。売り渡している本数が本数なので恐ろしい額が貯まっているでしょうし」
「ダメだ、このギルドマスター。どんぶり勘定にも程がある」
「家計はお願いしますね、ミライさん?」
「スヴェイン様に任せられないことだけはよくわかりました。ですが、いい試案ではあります。薬草は錬金術師ギルドから販売を?」
「はい。この街で薬草を入手するにはそれが一番……と言うか冒険者ギルドではほとんど取り扱っていないでしょう」
「ですよねぇ」
「じゃあ、俺たちは蒸留水と魔力水のたたき込みですね」
「仕事を増やすようで悪いですがお願いします。場所は……権力をフル活用して大講堂を抑えます」
「大講堂、最近はあまり使われていないようですしいけるんじゃないでしょうか」
「じゃあ、俺らはその計画で」
「はい。イーダ支部長、ロルフ支部長補佐。支部でほかに問題は起きていませんか?」
「そうですね……こう言うと本当にシュミット頼みで申し訳ないのですが、シュミット講師陣が受け持ってくれているギルド員はしっかりしています。問題はそれ以外ですね……」
「はい。やはりギルドマスターとサブマスターが厳選してもダメだという証明になってしまいました」
「……頭が痛い」
「私もです」
ギルド本部は手を離すことができそうですが、支部の方はまだまだ手が離せそうにありません。
いや、いっそしばらく支部に居座ってみる?
「スヴェイン様? あなたのことです。ギルド支部に居座ろうとか考えてるんでしょうが意味ないですよ?」
「……そうですか」
「ええ。むしろ、スヴェイン様はギルド本部でどっしり構えているか、街で子供たちの相手をしていてくださいな」
「……街で子供たちの面倒を見ることをすすめられるギルドマスターっている意味あるんでしょうか?」
「スヴェイン様が子供たちに火種をまき散らすだけでこの街の発展に寄与しますよ」
「最近は弟子も自分たちで学ぶ楽しさに目覚めて久しいですし、新しい技術を教えようにも今覚えようとしている技術を先に取り込ませないといけない。ままなりませんね」
「つらいっすよね。俺も高品質ミドルマジックポーションを安定してから先がつらかった」
「私は事務方なので研究職のことはよくわかりません。でも、補佐を持って教える苦労と楽しさはわかりました」
「私も支部長の椅子に座ってから重圧がすごいですが最近はようやく楽しくなってきました」
「私もです。ただ、ギルドマスターではありませんが、世の中ままならないことが多すぎます」
全員がそれぞれ悩みを抱え、やりがいを感じている。
それはいいことなのでしょう。
今度の休みはアリアを誘ってどこか出かけますか……。
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