625.ギルド内での説明とギルド評議会への説明
「それで、評議会への根回しは当日中に行ってもらえましたよね? ミライさん」
事件があった翌々日、今回の顛末についてミライさん、ハービー、アシャリさんの四人で確認中です。
僕とミライさん、ハービーは怒りを隠しきれず、アシャリさんはそれに押されている形ですが……我慢していただきましょう。
「当然です。今回の破門者五十三名のうち国外追放になった直接犯三十六名の処分、ギルド評議会所属錬金術師ギルドマスターおよび錬金術師ギルドサブマスター連名の処置と言うことで書状をしたため処理をお願いいたしました」
「結構。それで、直接犯三十六名の内訳は?」
「国外からの移住者二十三名、市民資格を持つ者十三名、内未成年者九名です」
「愚かな。未成年者すら九名ですか」
「今回の被害者が全員未成年者であったからでしょう。同年代の者に実力で負けていることが許せないと」
「はっ! くだらねえ! そんな連中に『新生コンソール錬金術師ギルド』の看板を背負わせてたまるか!!」
「ハービー、抑えて。僕もミライさんも気持ちはよくわかっていますから」
「……すみません。ギルドマスター、サブマスター」
「あ、あの。ギルドマスター様、今回のようなことをすれば横暴と取られても仕方がないのでは?」
「横暴と取られればそれまで。この国にそれだけの価値しかなかったと言うこと。今回のような一件を把握しながら見逃せというのなら僕がコンソール錬金術師ギルドを潰します」
「私も賛同します。このような考えを持つ愚か者の集団になりはてるなら『新生コンソール錬金術師ギルド』に意味などありません」
「俺もです。一代すら続かなかったのは残念ですが、それも考えるべきかと」
「皆さん、そう結論を焦らずに……それに今日は……」
その時、ギルドマスタールームのドアがノックされ来客があったことが告げられました。
来客者も予想通りですね。
「通して構いませんよ」
「は、はい」
「では邪魔をする」
「おう、邪魔するぜ」
「ようこそ。医療ギルドマスター、冒険者ギルドマスター」
「一昨日、あれだけの書状を送ってきたのに今日の説明はなしか。どういう了見かね、錬金術師ギルドマスター?」
「さすがに俺もかばえねえぞ。今日は……」
「定期ギルド評議会の開催日ですよね? それがなにか?」
「……つまり、それよりも大切な用件でもあったのかね?」
「錬金術師ギルドを潰すかどうかの話し合いです。一ギルドが空席どころかなくなるかどうかの話。ギルド評議会よりも大切でしょう?」
「……お前、いつも話が極端過ぎんだよ。事情を説明しろ、事情を」
「うちの新規入門者が根腐れを起こし始めていました。それが原因です。以上」
「……ミライサブマスター?」
「ギルドマスターの説明以上の内容はありません」
「お、おう。ハービー。詳しく……」
「すんません。俺からもないです」
「……アシャリサブマスター補佐、お願いできるか?」
「ええと……一昨日、ギルドの新規入門者の中でトラブルがありました。一部の成績優秀者の除外するために多くの新規入門者が結託して脅しをかけようとする内容です。それをギルドマスター様の聖獣様やギルドマスター様、ニーベ様、エリナ様、アーマードタイガー様などが動き総潰しに。実行犯たちはすべて市民証などの身分証などを奪われた上での国外へ強制転移、それを見て見ぬ振りをしようとしていた者はギルドから外部への強制転移で除名処分です」
それを聞いて医療ギルドマスターも冒険者ギルドマスターも頭を抱えていましたね。
想像していたよりも大事だったのか些事だったのかは知りませんが。
「国外追放になった者たちは何名だね?」
「三十六名と伺っています」
「そんなかで未成年者は?」
「九名だと……」
「錬金術師ギルドマスター。九名もの未成年者を国外追放、その上保護者への事情説明なし、ギルドでは門前払い、ギルド評議会にも圧力をかけて行き先を答えないようにさせていたと?」
「いい薬になるでしょう。未成年者だろうとギルドに入門し仕事を始めるならば立派な一個人だ。それを理解していない者どもが悪い」
「いや、でもよ……衛兵にまで圧力をかけて身分照会を遅らせてるんだろう? 夏とは言え未成年者に第三街門外での野宿をもう二日も強いてるんだ。さすがにやり過ぎ……」
「その程度の覚悟しかない、いえ、他者を貶めて自分の身分を上げようとする愚か者が現れ始めていれば竜の宝の栄光などすぐにでも腐り落ちますよ。それを追い出しただけ、感謝される理由はあっても責められる理由はない」
「だが、しかし……」
「それから、今回の処分内容と処分者の名前は明日の午後に錬金術師ギルド本部前に掲示します。錬金術師ギルドにとっても恥ですが、この程度で揺らぐほど甘くはない。逆にこの程度で揺らぐなら『新生コンソール錬金術師ギルド』に価値などない」
「……そこには未成年者の名前も含まれるのかね?」
「当然でしょう? むしろ、それらの人間がやろうとしたことの方が陰湿だった。モンスターのいる森の中に送り込まず聖獣の森前に送り飛ばしてあげただけ温情ですよ」
「……ちなみに聖獣の森のどこだよ?」
「『試練の道』の入口、『魔境』前です」
「……そこ。歩きだと冒険者の足で三日かかるからな?」
「死にはしませんよ。三日間野宿でも。あの辺はモンスターもいませんし。三日程度なら飢え死にすることもないはずです」
「これでは話にならん。とりあえず、未成年者に迎えは出す。構わないか?」
「構いません。僕の監視網を抜けられるなら」
「……つまり、お前の聖獣が今回は敵か」
「僕が敵なのです。当然でしょう?」
「ギルド評議会で処分を出すぞ?」
「どうぞご自由に。その時はこの邪魔な椅子を蹴り飛ばすまでです。そして、第二位錬金術師や事務職員たちもギルドを辞める決意を固めています」
「な……」
「先ほどシャルにも聖獣で確認を取りました。僕が錬金術師ギルドを投げ出せば錬金術講師も引き上げさせるそうです。この意味、おわかりですよね?」
「……『コンソールブランド』をひとつ消すか!」
「その程度の覚悟はしてから臨んでください、狸爺。用件は済んだのならお引き取りを。明日の昼には処分内容と処分者の公表を行います。止めるならそれ以前に結論を。ただし、僕はギルド評議会に出席しません。ギルド評議会へは……ハービー、代理をお願いできますね?」
「ええ。ギルドマスターが乗り込んですべてを吹き飛ばすよりもマシでしょうから」
「と言うわけで、明日の代理出席はハービーのみです。わかったのでしたらお引き取りを。そちらに残された時間は余りありませんよ?」
「……失礼する」
「悪いが俺もだ。やり過ぎって言葉を……いや、やり過ぎでもないか、お前にとっちゃ」
医療ギルドマスターと冒険者ギルドマスターは帰ってきました。
まあ、彼らにはカイザーという監視がついているのでどうでもいいのですが。
「あの、ギルドマスター様。本当によろしいのでしょうか? ギルド評議会を敵に回せば本当に……」
「敵に回せませんよ。僕が敵に回れば竜宝国家の守りがなくなります。その上、ポーションの『コンソールブランド』を潰すこともできやしないでしょう。アドバンテージはこちらの方がはるかに上。狸爺どもには三年前に思い知ったはずの不甲斐なさをもう一度思い知っていただきましょう」
「ですが……」
「万が一があれば本当に錬金術師ギルドを潰します。アシャリさんには申し訳ありませんがその覚悟を」
「……わかりました。私も覚悟を決めます」
「よろしくお願いします。さて、これから錬金術師ギルド抜きの臨時ギルド評議会でしょうし、明日は朝から全ギルド参加の臨時ギルド評議会です。ハービー、対策をいまから話します。狸爺どもにできることなど既にわかりきっている」
「はい。なんですか、ギルドマスター」
どうでますかね、狸爺どもは。
出せる手札はわずか。
そもそもギルド評議会がまとまるかも怪しいですよ?
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