44.ネイジー商会

「ここが父の経営する商会、『ネイジー商会』ですわ」


 マオさんに案内された商会の建物。


 それは5階建ての立派なものでした。


「うわぁ、大きな商会ですね、スヴェイン様」


「本当です。こんなに大きな商会です。こう言っては失礼ですが、意外でした」


「よくそう言われますわ。すでに先触れは出していますので、入っても大丈夫ですわよ」


「それでは失礼いたします」


 マオさんに促され入った店内はさまざまな品物が並べられているお店でした。


 1階は、日用品が多いみたいですね。


「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらのお二方がお話にあったお客様ですか?」


「はい。こちらはジェフ、我が家の執事になります。ジェフ、失礼のないように案内をお願いします。私は先にお父様へあいさつをして参ります」


「かしこまりました。それではお客様、こちらへどうぞ」


 ジェフさんに案内されて店舗内を抜け、裏にある住居スペースへたどり着きました。


 そこにあった屋敷は3階建ての落ち着いた屋敷です。


 表の商会に比べると質素ですね。


「屋敷が質素だとお思いですか?」


「はい、失礼ながらそう思いました」


「お館様の考えによるものです。店舗は必要に応じて大きくする必要があります。ですが、屋敷は無駄に大きくする必要はないと判断されているのです」


「なるほど……確かにその通りですね」


「3階建てなのは、先々代のお館様が最低限この大きさの屋敷がないと見栄えが悪いと判断されたためです」


「そうなのですね。やはり商人も見栄えは気にするものなのですか?」


「はい。商人も相手に舐められては終わりですからね」


「そうですか……あ、失礼しました。僕たちの名前は……」


「伺っております。スヴェイン様とアリア様ですね。まずは客室にご案内させていただきます」


「客室ですが、一部屋で大丈夫ですよ」


「アリア様?」


「私たち、いつも一緒に寝てますから。ね、スヴェイン様?」


「アリア……ここは僕たちの家ではないのですよ?」


「いえ、そういうことでしたら同じ部屋をご用意いたします」


「……申し訳ありません。アリアの我が儘で」


「いえいえ。それではこちらへどうぞ」


 急なアリアの申し出にも嫌な顔をせず、ジェフさんは僕たちを客室に案内してくれました。


 そこで僕たちはお湯を用意していただき、体を拭って埃を拭います。


 背中などの自分でできないところは、お互いに拭いあって身ぎれいにさせていただきました。


 そして、服も新しいものに着替えたところでジェフさんが呼びに来ます。


「スヴェイン様、アリア様。旦那様がお会いになりたいとのことですが、よろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。見てのとおり旅装しか持ってきていませんが大丈夫でしょうか?」


「構いません。旦那様はその程度のことで目くじらを立てる方ではありません」


「わかりました。行きましょう、アリア」


「はい」


 僕はアリアを伴い、ジェフさんのあとをついていきます。


 案内されたのは応接室、場所的に一番大切な相手を案内する場所ですね。


 ジェフさんが入室の許可を取り、扉を開け僕たちが入室します。


 そこにいたのはマオさんと30代くらいの男女……おそらくはマオさんのお父上とお母上ですね。


「ようこそ来てくれた。私がこのクリス家の当主コウだ」


「私は妻のハヅキです。よろしくね」


「僕はスヴェインと申します。こちらは……」


「スヴェイン様の恋人で相棒のアリアと申します。よろしくお願いします」


「ほほう、その歳でしっかりしたものだ」


「それに、しっかりと恋人と言うところもアピールするなんてかわいいお嬢さんね」


「お父様、おふたりの反応を楽しんでいないで早く本題に入りませんか?」


「そうせっつくな、マオ。商人というのは何気ない会話からでも相手の好みや苦手なものを探るべきなのだよ」


「それはわかっておりますが……」


「ふむ。それで、ふたりはこの交易都市になにを買いにきたのだ? マオからは買い出しに来たとしか聞いていないのだが」


「そうですね……まあ、隠すほどでもないですし構わないでしょう。食材をいろいろと買い出しに来たんです」


「食材ですの? 料理を楽しみに来たのではなく?」


「料理は家に帰ったとき、お料理をしてくれる子が上手なのであまり興味がありません。それよりも、珍しい食材と果物を買いだしていきたいのです」


「珍しい食材か……私の商会でもいろいろ取り扱っているが。今日の分はもう売れてしまっているな」


「そうですか……では明日の朝にでもお願いできますか?」


「わかった。そのときは案内させよう。朝早いが構わないか?」


「大丈夫です。ね、スヴェイン様」


「ええ。問題ありません」


「わかった。それで、ここからが本題なんだが……娘が商業ギルドで特級品のポーションを見せてもらい、いくつか販売したようだが、まだ販売できる分はあるかね?」


 やっぱり本命はポーションですか。


 とくに問題はありませんし、足元を見られないのでしたらお譲りしましょう。


「ありますよ。必要な数を教えていただければお出ししますが、どうしましょう?」


「……では、とりあえず20本ほど出してもらえるか?」


「はい、どうぞ」


「……その袋はマジックバッグか。奪われないように気をつけた方がいいぞ」


「大丈夫です。このマジックバッグは僕にしか扱えないように認証されていますし、ある程度遠くに離れると勝手に手元に戻るようになっています」


「それはそれで超高級品なのだが。……鑑定させてもらったがすべて特級品だった。疑うようで申し訳ない」


「気にしていません。商品の品質を確かめるのは当然のことですからね」


「それでもしあればなんだが、特級品のポーションを400本用意できるかな? 急ぎでなくてもいいのだが……」


「400本でいいなら手持ちにありますよ。ですが、ここに出すわけにはいきませんよね?」


「あ、ああ。あとで資材倉庫に案内する。そこで出してもらえるか?」


「わかりました。ちなみに、ひとつどれくらいの金額で買ってもらえるんでしょう?」


「1本金貨1枚だな。すまないがこれ以上出すのは難しい」


「構いません。あ、できれば同じ数のポーション瓶をもらえますか? ポーション瓶の在庫がもうなくて……」


「ポーション瓶程度ならおまけにつけよう。……ちなみに、特級品のポーション類はほかにもあるのかな?」


「はい。特級品はマジックポーションとミドルポーションが在庫にあります。ミドルマジックポーションは……200本程度しかありませんから100本ほどしか譲れません」


「……は? ミドルポーションとミドルマジックポーションの特級品まであるのか?」


「はい。ただ、成功率がまだまだ低くて……最高品質でよければたくさんありますが」


「最高品質はどの程度あるのでしょう?」


 なんだかコウさんの口調がおかしくなってきました。


 大丈夫でしょうか?


「最高品質は……千本単位でありますね。特級品の製造失敗でできるもののほとんどは最高品質ですから」


「製造失敗で最高品質……」


 あ、コウさんが遠い目をし始めました。


 これは大丈夫ではなさそうです。


「あなた、気をしっかり持ってください!」


「はっ! スヴェイン殿、特級品のポーションを一式と、ミドルポーションおよびミドルマジックポーションの最高品質を買い取らせていただけるか?」


「ええと、構いませんが……僕も詳しくないのですが、こう言うものっていきなり市場に流れると混乱が起こるのでは?」


「そこはご心配なく。錬金術師ギルドや冒険者ギルドと組んでうまく調整いたします」


「それでしたらかまいません。いくつお売りしますか?」


「特級品のマジックポーションは400本ほど、ミドルポーションとミドルマジックポーションは100本ずつでお願いします。最高品質のミドルポーションとミドルマジックポーションは……1,000本ずつお願いします」


「わかりました……でも、お支払いは大丈夫ですか?」


「そちらは問題ありません! この機会を逃せばどれだけの損失になるか!」


「そうですわ! ミドルポーションなんて量産ができないポーションの代名詞ですわよ!? どうやってそのような数を?」


「それは……」


「スヴェイン様」


 アリアの注意とひじつんつんが飛んできました。

 ……話しすぎの合図ですね。


「はい、申し訳ない、秘密です」


「でしょうな。無理に聞き出す気はございませんとも」


「そうですわね。ここで縁が切れる方が損失が多いですもの」


「はぁ、あなたもマオも落ち着きなさい。スヴェイン様、アリア様、騒がしくて申し訳ありませんわ」


「いえ、気にしていませんから」


「そうですね。商人の方は機を逸すると、それだけで破滅を招くとも聞きますし」


「ご理解いただけたようで助かります。それで、私の方からもお願いがあるのですの」


「なんでしょうか? できる範囲ででしたらお手伝いいたします」


「はい。お願いというのはマオの妹、ニーベの治療薬をご用意いただくことはできないかと……」

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