396.アシャリのギルド評議会デビュー

 薬草栽培を始めるためにギルド評議会を開催してもらうこととしましたが、三日後の開催となりました。


 アシャリさんのギルド評議会参加も認められましたし想像以上の速さでことが進んでいますね。


 今回は正式なギルド評議会開催ですので制服も身に纏い、馬車を使って会館へ向かいます。


 馬はさすがに普通の馬ですよ?


「アシャリさん、緊張しています……よね」


「は、はい。とても。まさか、こんなに早く機会が来るとは考えてもみなかったので」


「そうですよね。スヴェイン様、あまりにも早すぎませんか?」


「僕もそう思うんですが、新しいサブマスター用の制服も届きました。これはアシャリさんの参加を正式に認めるということです」


「ですよね……ギルド評議会の狸爺ども、なにを企んでいるのか」


「あ、あの。ミライサブマスター。ほかのギルドマスターたちをそんな風に呼ぶのは……」


「当然、見えないところでだけです。私も根回しをする際に散々な目にあっていますので」


「は、はあ」


「僕は見えるところでもたまにいいますけどね。子供に……ああいや、もう成人したので若輩者に重責を押しつけるな、と」


「私だってスヴェイン様を除けば一番の若輩者です。まったく、私も散々鍛えられました」


「……おふたりとも、すごいですね」


「感動していられるのは今のうちだけですよ、アシャリさん?」


「はい。今後は私とともに各ギルドとの調整にも参加していただきます。最初は見ているだけで構いませんが少しずつ交渉も始めさせます。心構えだけは忘れないように」


「わかりました。ご指導よろしくお願いします」


「はい。……ところで、ギルド評議会会館前に座っているのって一回り以上小さいですが間違いなくブレードリオンですよね?」


「ですね。ティショウさんを認めて聖獣契約したのでしょう。ただ、まだまだいうことをすべて聞いているわけでもなさそうですが」


「聖獣契約……私の子供たちも知らない間に聖獣様へと乗って歩いているようですが、まさか」


「既に契約済みです。聖獣は子供に優しいですが、その背に主以外を乗せて歩くなど主の命令かよほど気に入るかしない限りありえませんから」


「あの、ギルドマスター様。私はどうすれば……」


「もうどうしようもありません。そのまま受け入れてあげてください」


 本当にどうしようもないんですよね。


 聖獣が自ら望んで契約、それも子供相手に不意打ちのような形で契約など聞いたことが……ないだけかもしれません。


「ともかく、もうすぐギルド評議会会館です。見ているだけで構いませんが、緊張しすぎで貧血などを起こさぬように」


「わ、わかりました」


 ちょっと不安ですが……最初数回はギルド評議会の皆さんにも許していただきましょう。


 成人前からギルドマスターの席を押しつけ続けているのです。


 その程度の融通、利かせていただかねば。


 僕たちはギルド評議会会館にたどり着くと馬車から降り……既に足元がおぼつかないアシャリさんはミライさんに手伝ってもらいながら降り、所定の手続きを済ませて評議会会場へと足を踏み入れます。


 手続きをする際の名簿にもアシャリさんの名前があったため、やはり彼女の参加は正式に認められているようですね。


 本当にこのスピード決定はなにを考えているのか。


「おう、スヴェイン。お前とはちょっとぶりだな」


「ティショウさん。すみません、最近は足を運ぶ機会も減って」


「いや、ギルドマスターが理由もなくふらっと冒険者ギルドの訓練場に現れるとかおかしいからな?」


「僕も元を正せば冒険者であることをお忘れなく」


「よく言うぜ。単なる身分証目的のくせによ」


「手っ取り早いのがそれでしたから」


 ティショウさんと軽い会話を交わしながら、僕も錬金術師ギルドマスターの席へと座ります。


 ミライさんは何事もなかったかのように僕の右後ろへ立ち、アシャリさんは慌ててそれに倣いました。


「まったくです。商業ギルドで取りこぼしてしまったのが本当に惜しい」


 次に話しかけてきたのは商業ギルドのギルドマスター、つまり冒険者ギルドマスターとは逆の位置に座る商業ギルドマスターです。


「商業ギルドマスター、まだその話をするんですか?」


「私の代ではいくらでもするでしょう。まったく、あの恥さらしさえいなければ……」


「あはは。それは縁がなかったということで」


「まったく口惜しい。あなたほどの良縁をみすみす見逃すとは」


「それでスヴェインよう。今回の議題、遂に始めるんだな?」


「まったく、あなたにとってはようやくでしょうね」


「はい。細々隠れてやっていましたが、これでおおっぴらに、大々的に行えます。技術を売ったシュベルトマン侯爵の許可もいただいていますし何の問題もありません」


 そのあとも今回の議題、薬草栽培について三人で話を続けます。


 後ろでは、ミライさんとアシャリさんが小声で話すのも聞こえました。


「あ、あの。ギルドマスターたちっていつもこうですか?」


「いつもこうです。ただし、会話内容には常に注意を払って聞いているように。ときどき……」


「ミライの嬢ちゃん。お前はどう考える?」


「あ、すみません。アシャリに心構えを教えていたので話を半端にしか聞いていませんでした」


「なら仕方がねえな。というか、サブマスター候補にあいさつをしていなかったな。俺はティショウ。冒険者ギルドマスターを務めている。荒くれ者上がりだから難しいことはよくわからん。まあ、気楽に接してくれや」


「は、はい! サブマスター候補に指名されました、アシャリと申します! これからよろしくお願いします!」


「硬てえなあ。初めてミライの嬢ちゃんをギルド評議会に呼びつけた時を思い出す」


「あのときは本当に焦ったんですからね? ギルドマスター不在だから代わりに椅子に座れって。なにも発言せずに済みましたけど、パニックを起こしていたんですよ?」


「だからこそ誰も話題をふらなかったんだよ。で、話を戻す。薬草栽培の話だが……栽培した薬草は国外に売るのか?」


「いえ、その計画は今のところありません。スヴェイン様の計画では今現在スヴェイン様がすべて供給している薬草を今後は段階的に停止、最終目標……といいますか絶対目標は栽培した薬草のみで『コンソールブランド』を回すことです」


「ふむ、輸出品には加えられませんか」


「申し訳ありませんが不可能です。それに薬草採取は冒険者にとって基本であると同時に食い扶持を繋ぐための最終ラインですよね? うかつに国外へと出してしまうと多くの冒険者が日銭稼ぎをできなくなるのでは?」


「なるほど。コンソールでは既にほかの方法が確立されていますし、シュベルトマンでも救済制度を整えたと聞きます。ですが、それ以外の地では余計な争いの火種ですか」


「だな。俺たちは救済制度を早々と整えた。それをほかの場所でもって言うのは時期尚早か」


「はい。それに今の錬金術師ギルドでは薬草などあればあるだけ使いますよ?」


「……それは輸出などしていられませんな」


「でしょう? なので未来永劫……は言いすぎかも知れませんが私たちの代では輸出不可能です」


「ちなみに俺たちは先に栽培方法を知っちまってるから話すが……種はどうするんだ?」


「ギルドマスター案件ですが……それも売らないでしょう。シュベルトマン以外で栽培は不可能と考えますが、薬草の種も争いの火種。多少不正に持ち出される恐れはありますし、覚悟はしていますがほかの地域では根付かないでしょうね」


「それはなぜ?」


「旧国の錬金術体系を知っている私に言わせれば、薬草栽培をするための条件が揃いません。基本を疎かにしている以上、何十年経っても薬草栽培、それも高品質以上など夢のまた夢です」


「それもそうですな。いや、参考になりました。スヴェイン殿のお話だけでは専門的すぎてついていけないことがあるため助かります」


「いえ、小娘の意見でよければ」


 ミライさんも本当にたくましくなりました。


 アシャリさんの様子を覗き見てみましたが……目を白黒させていますね。


「あ、あの。ミライサブマスター、いまのって……」


「言ったでしょう、会話内容には常に注意を払えって。ときどき意見を求められます。専門的な意見ではなく、事務方から見た場合の意見です。私も多少、いえ、それなりに専門知識が身についてきたのでそれらの意見も参考程度に求められますが、基本的には商売面の話です。ギルドマスターは根っからの技術職。商売方面の知識はまったくの素人なのでご注意を」


「は、はい!」


「スヴェイン、お前、嫁さんになかなか酷いことを言われてるぞ?」


「ですが事実のようですな。なにも言い返せますまい」


「まったく言い返せません。家でもこれくらい優秀なら文句ないのですが」


「相変わらずの色ボケか?」


「色ボケはしていませんが……なにをどうすればいいのかわからず空回りしています」


「大変だな、ミライの嬢ちゃんも」


 まったくです。


 アシャリさんには悪いところまでにてほしくないのですが……大丈夫ですよね?

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